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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第一節 世界の果てまで

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10話 個々の戦い



 朔が所属するアルダー小隊は、持ち場の近くの崖からリヌイの様子を眺めていた。


「やはり「単騎全軍(ワンマンアーミー)」だ、すさまじいですね。これは研究のしがいがある。」


 アルダーは宙に浮く低ランクのアンデットの上に乗って、リヌイの記録をとっている。

そして一緒にリヌイの様子を朔も眺めていた。


「彼は16歳の時に特Sランクへと至りました。それは彼が持つあの剣が一番の要因でした。」


 アルダーはそう言って朔に教えを説くように説明し始めた。


「あの剣は始剣といい、世界の始まりの力が具現化したものではないかと言われています。

誰が作ったのかも、いつごろ作られたかも分かりません。ただ一つ言えることはあの剣一振りあれば国をひっくり返すだけの力があるんです。」


 アルダーは朔の方を少しも見ることなく、ずっとリヌイの方を見続けており、ずっとノートのようなものを取っている。だが、朔がする質問には毎回答えてくれていた。


「ただし、そんな強大な力を扱うには代償が必要となってきます。それは剣によってさまざまですが、あの始剣は剣が選んだ使用者とその使用者にふさわしい盾に不老を与えます。」



「それは、もはや代償にはならないんじゃないか?って、盾ってまさか...」



「そうです、察しがいいですね。クロエ・フローレス、彼はリヌイの盾として選ばれた守護者なんです。だからこそあの多大な魔力と人智を超えた結界術が使えるんですよ。あと、先ほどの質問ですが、代償が軽いのには理由があると思われています。それは剣自身が使用者を選ぶという特性です。彼ら2人は選ばれたから強大な力を得た。それだけです」


 朔はアルダーの言葉を聞いて、運が良かっただけ、そんなニュアンスを感じ取った。

アルダーの諦めやそれでも捨てきれない興味が朔に伝わってきた。



「俺は、あの2人だからこそ選ばれたんじゃないかって思います。たぶんあの2人はあの剣がなくても多分今もこの場で同じことをしていますよ。」



 アルダーは朔が言った言葉に何も返答をしなかった。

それと同時に紫色の火柱が立って、統率を失った魔物が四方へ向かい始めた。


「仕事です。」アルダーはそう言って、朔たち小隊のメンバーをアンデットの背中に乗せて崖を駆け下りた。降りると既に数体の低級の魔物が迫ってきており、エーラーントが魔法で魔物を沈めた。


「エネルギア」


 朔はスキルを発動させる。

エネルギアのスキル効果によって全身を強化している魔力が底上げされて、それによって万能感が備わる。朔は手始めに、目の前の奇形のひょうたんに手が生えたような図体の魔物に全力の一撃を叩き込む。


 インパクトの瞬間にもエネルギアによって威力を底上げすることによって、足りない威力を補っていく。そして上がった威力による反動は軽減することによって肉体にかかる負荷を最低限にしていった。


 奇形ひょうたんは少し後ろに吹っ飛び、前面が少し凹みひびが入った。

ひびが割れたかと思ったら中が無数のとげでおおわれている口になっており、朔を中へ取り込もうと襲い掛かってきた。だが朔は、それをうまくかわして背中にあった短剣で背中を2つへと切り分けた。



「へぇ、デンラゲリアの装甲を短剣で真っ二つですか、耐火性と防御に特化してるE級の魔物とはいえ装甲だけならBランクには匹敵するっていうのに。」


 アルダーは朔を興味深そうに眺めており、しっかりと観察している。

そのアルダーの目には朔の上に浮かぶ2つの波が見えていた。


  デンラゲリアと呼ばれた奇形のひょうたんのような魔物は半分に切り分けてもなお、装甲を引きずって獲物を取り込もうとうごめいていた。


 アルダーはその様子を見て顔をしかめた。

アルダーは「醜いですね、さっさと始末しましょう。」といって、使役していた蛇のアンデットにパクリと一飲みさせた。



 朔たちは、アルダーの指揮のもと順調に流れてくる魔物を処理していく。たまに飛行する魔物などがいたがそれはアルダーが使役するアンデットが倒したことによって、問題はなかった。


「なぁ、そろそろ1時間戦い続けているぞ!!終わりは来ないのかよ!!」


 最年少の上に一人で魔術師を守りつづけているカルロアが疲弊した声で早く終わってほしいと叫ぶ。

アルダーはまだ余裕そうだったが、既に大量の魔法を放って、魔力を使い果たしているエーラーントとずっと前衛で魔物を倒し続けている朔も同じ気持ちだった。



「あーたぶん、あれが最後でしょうね。山場ですよ。」


 背の高いアンデットの上に乗って先の偵察をしていたアルダーが朔たちに伝える。

そのすぐあと、朔たちが見たのはハイボーンと呼ばれる、人型のアンデットの群れであった。

一体一体はⅮランクとランクが低いがそれが百数十体も集まって行進してくる様子は朔たちに恐怖を与えた。


 それでも朔たちは精一杯応戦する、だがあまりにも数が多く徐々に傷を負う事が増えっていった。朔は短剣を持つ手に擦り傷が多くできており、エーラーントに至っては立っていられない程だった。


 そんな様子を見かねたアルダーは、地面に大きな魔方陣を魔力で描き呪文を唱えた。

魔方陣が光ると、ハイボーンの群れは動きを止めた。



「私は死霊術死です。リヌイが倒したリッチの支配が消えていれば弱いアンデットなら支配下に置くことができます。とっておきなので見せたくなかったのですけど致し方ありませんでした。」


 そうして、アルダーが指を鳴らすとハイボーンは整列して朔たちを守るように周りを囲った。

支配されたハイボーンは流れてくる魔物を骨壁となって倒してくれる。

そのころから魔物の数も減っていきスタンピードの終わりが見えていった。



◇◇◇



 リヌイが放った炎の大波が消えてリヌイが高ランクの魔物を蹂躙し始めたころ、また別の場所ではリヌイの炎を潜り抜けてきた強者つわものの個体を複数相手にして優勢を保ち続けている人物がいた。


 巨大なはさみ状のほこを器用に扱いながらBランク上位はあるであろう個体を葬り去っていく。メイド服で疾走しながら敵を殺す姿は何かの芸術に近いものを感じ取れた。


 魔物はあまりにも速すぎるルシアに気づくことなく、殺されていく。

狼人ウェアウルフである彼女は、一族の中でも突出した身体能力を持っており自身のスキルの扱いにも優れていた。


 そんな彼女の体に刻まれた術式は、「加速と加重(ニュートラシオン)」であった。もともとあった異次元の身体能力に速度と重さが加わることでルシアの攻撃は物理攻撃最強と謳われるほどの威力を発揮することとなった。



「ふーいま、どんくらい倒したかな。まぁ30くらいかな、加速しないと一撃じゃ倒せないから厄介だよなぁ」



 ルシアは戦場を縦横無尽に駆け巡りながらピンチそうな小隊の手助けをしていく。

一部の低ランクの人ばっかりが集まっている小隊の人は、ルシアが助けてくれたことにも気づきすらしない。


「う、これは…むりかも、、、、」


 ルシアは巨大な魔物の前に立ち止まった。

少し浮遊している魔物でつやつやした体から複数の羽が生えており、ぎょろっとした目がいくつかついている。


 魔物は物理法則を無視したような動きで急加速と急な方向転換を繰り返して攻撃してくる。


 ルシアは相手の巨体に真っすぐ突っ込んで、最大まで重さと速さを加えた一撃をつやつやとした体表に叩き込んだ。


 だが、つやつやとしておりその上ぬめりがある体表はルシアの攻撃をうまく滑らせて受け流す、受け流されて地面へと突っ込んだルシアの拳は地面に軽いクレーターを形成した。



「あー、どうしよ。うまく攻撃しないとダメージすら入らなそう。」



 魔物はぎょろっとした目を閉じて、大きな羽を動かした。

ルシアが危険を感じて、一瞬加速して場を離れると暴風が吹き荒れてそこの地面が細くえぐれていた。


 いや、えぐれていたというよりかは斬撃が走った後のようにも見えた。

それを証明するかのようにルシアのメイド服のスカートの端が切れてしまっていた。


 魔物は依然目を閉じたままであり、そのうえ移動も開始する。

ルシアは周りに誰もいないことを確認して魔物の周りを旋回する。次第に土煙が立って、周りが見えずらくなっていった。魔物はルシアがどこに行ったか分からなくなり、無尽蔵に見えない斬撃を繰り出した。


 だが、ルシアには掠ることすらなく、いつの間にかルシアは魔物の羽を掴んで上に登る。土煙によって見えない刃を見えるようにすることで避けやすくなり近づくことができるようになっていた。

 

「ふー、やっと捕まえた。「加重(グラリオル)」」


 ルシアは自身を重くすることで宙に浮いていた魔物を地面に落とした。

そしてそのまま魔物に馬乗りになり、(ほこ)を真っ直ぐ突き刺した。

魔物から体液が噴き出るが、超加速してその場を離れたことにより、ルシアは汚れることは無かった。



「あーお腹すいた〜、今日はクロエ何作ってくれるかな?」



 ルシアは使えそうな素材を魔物から取り上げて、格納袋に仕舞っていく。

一通り回収して自身が倒した魔物たちの残骸を片付けていると、遠くの方から冒険者達の悲鳴がルシアの耳に聞こえてきた。


 ルシアは間に合あってくれと思いながら、できる限りの速度で駆けつけると既に黒い衣装を身に纏ったクロエが応戦していた。


 周りには負傷した高ランク冒険者であろう獣人が2人と、慌てふためている6人の隊員がいた。



「ルシアさん!!よかった、推定Sランクのナイトボーンの個体です。相手は暗黒魔術と聖剣技を使ってきます。今結界で応戦はしていますがどうにも倒せなくて。手伝ってください。」


「おっけー、見える結界で足場作って!」


「えぇ、魔法障壁も張るので暗黒魔術は気にせずに突っ込んでください。」



 ルシアはクロエが作った空中の足場を使って空間を自由自在に駆け回る。

だが、相手もSランクの魔物でありルシアの高速の不意打ちにも対応してきていた。


 するとルシアは突然動きを変えた。

今まで速度を保ったままのヒット&ウェイの戦法によって攻撃をしていたが、急加速と急停止の物理法則を無視した動きに切り替えた。そのことによりナイトボーンは力の流れを見失い、受け流し続けていた攻撃をまともに喰らうようになっていった。



「クロエにも見せたことなかったね、拡張技巧「鈍速(ロー)」加速した速度を魔力によって一回停滞させて、急停止する。そして重くしまくった攻撃をワンテンポ遅らせてぶつける。あとは押し留めていたた流れを開放すると、勢いを増して再び流れ出す。」



 そう言ったルシアはさっきナイトボーンが立っていた所に立っていた。

少し離れた場所に突き刺さったナイトボーンの剣は粉々に砕け、鎧にも全体に亀裂が走っておりナイトボーンは満身創痍であった。魔力も残っていないのか回復して立ち上がる様子はなかった。


 動けなくなったナイトボーンにクロエがお(ふだ)を貼り魔法を唱えると、ナイトボーンの体は光の粒子になって消えていった。



「お腹すいたぁー今日は何作ってくれるの?」


「今日は良い魔鶏が手に入ったので、久しぶりに唐揚げにしようかと思います。」


「ふへへ。やったー、私クロエの唐揚げ好きなんだぁ〜」


 スタンピードの魔物たちも淘汰(とうた)され街の危機が救われた事に安堵する人が多い中、2人は夜ご飯の話をしながら、その場を後にした。





「リヌイ・マルティネス」

16歳の時に最年少で特Sランク認定された冒険者

マルティネス領の領首でもあり住民からもとても慕われているが、冒険者や敵国の兵隊からは「単騎全軍(ワンマンアーミー)」と呼ばれ恐れられている。

主に炎を使った広範囲高出力での面制圧を得意としているが、特Sランクの中でもトップクラスの身体強化に加え様々な魔法を扱える事から、始剣が無くても特Sランク認定されるのはでないかと噂されている。

扱う武器である始剣の名称は「始炎剣・フレイア」

使用者と盾に不老の呪いを与え神炎を生み出すことが確認されているが、詳細は不明なままである。

生み出す炎は火炎に耐性があるものすらも焼き尽くす事があることが判明している。


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― 新着の感想 ―
戦いの後クロエの料理期待するルシアかわいいしリヌイ様はこれからも合法ショタが判明したのでうれしいです。
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