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離れた国から王族が学園に編入してきた

作者: 瀬崎遊

 アーダルベルトとカロリーネは十四歳の時に互いに好きだと心を通わせることができて、両親に告げると一瞬渋られた。

 たった一つだけ問題があった。

 それは二人共が嫡子だったことだ。


 このまま反対されて婚約できないのではないかと二人は心配したけれど、カロリーネの妹が「私が継いでもいいよ」と言ったことで、あっさりと婚約が決まった。

 そのときはその場にへたり込みそうになるほど嬉しかったと話していた。


 二人の間を阻むものがなくなり、人目を忍んでは手を繋いで歩いたりしながら小さな恋を少しずつ大きく育んでいた。



 カロリーネたちが最終学年になって三つほど国を跨いだベルルイトという国の王子とその側近が五人留学生としてやってきた。

 アーダルベルトたちのクラスには王子と側近の一人が編入してきた。

「ショア・カンバレントといいます。一年間だけになりますが、どうぞよろしく」

 

 この国にはいない黒い髪に日に焼けた浅黒い肌。色素の薄いグレーの瞳をしていてその瞳に見つめられると、その気もないのに引き寄せられてしまう。と女子たちが騒いでいる。



「カロリーネ昼ご飯にいこう」

 アーダルベルトに誘われて教室を出ていこうとしたらショア殿下と側近の人に声を掛けられた。

「私たちもご一緒してもいいですか?」

「私たちとですか?」


「クラスの皆さんと一度ずつ交流が持てないかと思いまして」

「なら他のみんなも呼びましょう」

「助かります」


 アーダルベルトが仲の良い四人に声を掛けて一緒に処に食事を摂ることになった。

「私だけ婚約者がいないとなんだか寂しいですね」

「お国にも婚約者がおられないのですか?」

「はい。我が国は自由恋愛が主なので好きな人ができて思いを交わしてから婚約することが普通なのです」


「政略結婚とかないのですか?」

「私が知る限り政略結婚は百年ほど前に廃れました」

「羨ましいですね」

「そう思われるかもしれませんが、不思議と婚姻年齢が上がっていってしまう現象に我が国は悩まされています」


「そうなんですか?」

「婚姻年齢も上がって、出産の年齢も上がってきています」

「不思議ですね・・・」


 その日の昼休みの間一緒にいたショア殿下は、翌日は違うグループと食事をしていて私たちは二人で食事を楽しんだ。


 休憩時間のたびにショア殿下の周りに女子たちが取り巻いていたがカロリーネにはどこか別の世界の出来事のように感じられていた。

 間違ってもあの輪の中に入ろう等と考えなかったし、どちらかと言うと距離を置きたいと思っていた。









 ショア殿下が来て半年ほど経ったある日、カロリーネはショア殿下を取り巻く輪の中心に立ち、心奪われてしまっていた。

 ショア殿下に腰を抱かれ、人前で(うなじ)にキスをされてそれを受け入れている。


 周りの女の子が悲鳴を上げてカロリーネを射殺しそうな目で見ている。

 それをカロリーネは得意げにしている。

 今までのカロリーネでは考えられない表情を浮かべていて、アーダルベルトは自分の婚約者の変わりように唖然とした。


 昨日まで変わらないカロリーネだった。

 いつものように別れを言って、朝学園に来てみればカロリーネは豹変していた。


 アーダルベルトはショア殿下の輪の中に入っていき、カロリーネに「何をしているんだ」とカロリーネを自分の方に引き寄せようとした。

 カロリーネは熱に浮かされたような目をしていてアーダルベルトを拒絶した。


 ショア殿下はカロリーネを掴もうとしていたアーダルベルトの手を振り払う。

「カロリーネは私の側にいたいんだから邪魔をしないでくれないか?」

「カロリーネは私の婚約者です。殿下の取り巻きにはなれません」


「でもカロリーネは私の傍に居たいと言っているんだから、婚約者でも行動の自由を奪うことはできないよ」

「私はカロリーネと話し合わなければなりません!!」

「カロリーネ、今の気持ちをアーダルベルトに言ってあげて」


「アーダルベルト様、私はショア殿下と一緒にいたいのです。邪魔をしないでください」 

「カロリーネ!!」

 それきりカロリーネはアーダルベルトの顔を見ようとはしなかった。


 昨日の放課後から今朝までの間に何があったのか、カロリーネの豹変ぶりにアーダルベルトには理解できなかった。

 その日一日カロリーネは休憩時間になるとショア殿下の隣で身体的接触をしながら放課後になった。



 アーダルベルトはカロリーネを引っ張ってカロリーネの家に連れて帰る。

 カロリーネの両親に学園での状況を伝え「明日は学園に行かせないようにして欲しい」とお願いした。

 カロリーネと対話を試みたけれど話にならない。


 熱に浮かされたようにカロリーネは「ショア殿下の側に行きたいの」と言い「ショア殿下に会いたい」と言って疲れ果てて気を失うまで暴れた。


 その異様な様子にカロリーネの両親とアーダルベルトは訝しんで医師に見せることにした。

 医師はカロリーネは洗脳されているのではないかと言い、魔法局からその判断ができる人を呼んでくれた。


 カロリーネが意識を取り戻し、また暴れている時に魔法局から洗脳に詳しい人が来てくれた。

 その人はカロリーネの目を覗き込み「間違いなく洗脳されている」と言った。

 洗脳を解いた途端にカロリーネはまた気を失った。


 アーダルベルトは心配だったけれどカロリーネの父親に「今日はもう帰りなさい」と言われて帰るしかなかった。






 それから解ったことでこの国とベルルイト国は国交を停止することになった。


 ベルルイト国は恋愛結婚が進むと結婚しない人が増えることになった。

 子供の数が年々減っていくので仕方なく他国へ行って女性に子供を産ませて連れ帰るということを繰り返していた。


 近隣国は入国禁止されていて離れた我が国までやってくるしかなかった。

 ベルルイト国の王族は皆洗脳の能力を持っていて、女性に洗脳の力を使って王子とその側近たちが女性を妊娠させていたという事実がショア殿下から聞かされた。


 慌てて調べると学園の半数近い女性が洗脳されていて、その半数近くが妊娠していることが発覚した。

 そしてショア殿下は言うに事欠いて「妊娠している子はベルルイト王家に関わりのある子だ。堕胎させることはならない」と堂々と言ってのけた。


「妊娠している女性は洗脳を解かないほうがいいのではないか?だって正気では子供を産むことを受け入れられないだろう?子供は我が国で引き取るから心配はいらない」


 ショア殿下と側近は王城で軟禁され、ベルルイト国へと送り返された。


 そしてその後、赤ん坊が次から次へと産まれた。

 中には正気に戻っても手放せないと泣く女の子もいたが、ベルルイト王家の血であると言われて取り上げられた。

 どの子に洗脳の力があるか解らないので自国に止めておくことができなかったのだ。


 ベルルイト王家から子供たちの迎えがやってきて赤ん坊全員をベルルイト国へと渡した。

 そして二度とベルルイト国との国交を禁止することを子々孫々に伝えることになった。



 カロリーネは妊娠していなかった。

 カロリーネは正気でなかった間のことを覚えていなくて、ショア殿下と性交したのかも覚えていなかった。


 アーダルベルトとカロリーネは何度も何度も話し合って、結婚することにした。


 結婚初夜を終えたカロリーネはシーツの上の赤いシミを見て泣いて喜んだ。

 アーダルベルトは「カロリーネを愛しているからどちらでも良かった。でもカロリーネが気にしていたからこれで何の憂いもなくなった」と口づけを一つ落とした。




 カロリーネは幸せになれたが、子供を産んだ女性たちはそうはいかなかった。

 中には幸せになれた人もいるがそれはごく少数で、心を壊してしまった人や、婚約破棄されて死ぬまで結婚できなかった人が多くいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] これが理由に国交を絶った国もあるのにそんな情報すら得ることもなく留学受け入れしてやりたいようにやられ放題の後、王子たちや子供を無事送り返す国とかもう属国になっちゃった方が良いんでないかな
[気になる点] 愚国周辺国の連合軍により殲滅されてもおかしく無い気も。 まあ旨味の無いのかもしれませんが、周辺国どころか遠方の国までこれしたら、もはや。
[一言] エイリアンを討伐するには、プレデターかゴジラに変貌するしか無いと思うので、モスラ(幼体)のまま、嵐を見送ったのは、人道的配慮の観点からして妥当だと思います。 度が過ぎるならば、モスラ(幼体)…
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