7.白銀の竜
目が覚めると、竜が自分の腕枕で寝ていてリョウは驚いた。そのせいで腕が揺れたのか、竜も目覚める。甘えるように「きゅ、きゅあ?」と鳴いてリョウの頰を舐める。愛らしい仕草にリョウは頰を染めた。
「いや。待って。これ、照れるところじゃないのでは?」
若干の混乱をしつつ頭を抱えると、竜はリョウを見上げてやっぱり可愛く首を傾げていた。脳内が可愛いで埋め尽くされる。
抱き上げて、湖を去る準備をしている彼は、自分の選択肢から竜と離れるというものがなくなっていることに気が付きはしなかった。
竜は楽しげにリョウの首に巻きついて羽を休めている。時折、鼻歌のように聞こえる音も彼の心を落ち着けた。
不思議と力が漲っている感覚と竜の存在は、彼の恐怖と孤独感を和らげるに十分だった。
「そういえば、いつまでも竜とか呼ぶわけにもいかないな」
歩きながら木の上になっている実を打ち落とし、キャッチする。それを自分が少し齧ってから「毒はないな」と判断して竜に渡す。それを嬉しそうに受け取って、平らげる竜を見て、リョウもまた嬉しそうに微笑んだ。
「ぎゅあ!」
リョウの言葉に応えるように竜は鳴く。本来それは音通りのそれにしか聞こえないはずであるのに、リョウはその言葉が分かるかのようの頷いた。
いいや、実際にリョウにはそれが少女の声で、名を伝えているように聞こえていたのだ。
「シルヴィア、か。シルヴィア、シルヴィア……うん。君らしい、美しい名前だ」
柔らかな、甘い声音だった。照れたように身を捩るけれど、シルヴィアはリョウから離れようとしない。
リョウの頭のどこかで、自分がおかしいという警鐘が鳴り響く。けれど、それ以上に擦り減った心が温かさを求めていた。依存でも、中毒でも構わない。そばに居てくれる存在を手放せないと思った。
それはもしかすると、長く続く道を歩き続ける現状のせいでもあったかもしれない。
「それにしても、誰にも出会わないな。動物くらいか?」
『ふふ、何でかしらね?』
「君には心当たりがあるんだ」
『少しだけ』
自動変換されるシルヴィアの声は、リョウにとって救いだ。優しく包み込んでくれる少女の声は、彼に進む理由を与えてくれるようだった。
二日ほど歩いて、ようやく森を抜けた。すぐ近くに町があった。
シルヴィアはどうしたって目立つ。リュックを先に購入して、そこに入ってもらう。そして、そこの冒険者ギルドでお金をおろすと、正規の地図を購入した。宿を取って、彼らは地図を眺める。
「今いるのがテイヒュル王国のこの辺り……もう少し行けば、ドラッフェ帝国との境だな」
辺境近くに来ていたことに驚きながらも、そう呟く。つい数日前まで王都にいたはずだ。どうやったって、こんなスピードで、しかも徒歩で来れる場所ではない。
『湖の妖精が力を貸してくれたのよ』
「妖精?」
いきなりのファンタジーに「そんな生き物もいるのか」と思いながら首を傾げる。そんなリョウを見て、シルヴィアは楽しそうにクスクスと笑っていた。
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