5.そう思っていた
誠也とも、綾とも、あの件がなければそんなに関係が悪いというわけではなかった。受験に集中していてあまり一緒にいられた訳ではないけれど、それでも学校で普通に話したりはしていたし、受験が終われば何がしたいかなんて話して笑い合った。だから、殺意を抱かれるまで嫌われていたのはショックだった。確かに縁を切りたいとは願ったけれど、被害者はリョウの方だ。
ジョーにも確かに世話にはなったけれど、世話になりっぱなしというわけではない。確かに戦闘力がジョーに劣っていたけれど、リョウはその分、サポートをするようにはしていた。
真面目ちゃん、と揶揄され、馬鹿にされる筋合いはない。痛めつけられる道理なんてないのだ。
「は、はは、……なんだよ、なんだって、こんな……っ!」
オークの群れがいると分かっている、魔物の多い土地で、隠れながらコソコソと、怯えながら逃げることしかできない。
捕まれば、敵わないと知っていた。
力があれば、と悔しさに唇を噛むことしかできやしない。
明るい夜で逃げ切るには、よりリスクの高い道を取るしかない。
思えば、満月の夜に今回の討伐を実施しようと思ったのも、リョウを逃す可能性が減るからだったのだろう。
走って、走って。
森を走り抜ける。
あかりが見えてきた、と思えばそこには崖があった。
(あれ、地図と地形が……)
「ごくろーさん」
後ろから、「良い走りだったぜー」と言う軽薄そうな声と拍手が聞こえる。
ゆっくりと振り向くと笑顔のジョーが立っていた。
「念の為に地図に細工しといてよかったわ。お前の性格を考えればルートは絞り込めるしな」
剣に手をかけているジョーを見て後退りする。
「まぁ、悪く思うな。腕の一本でも切り落とせば冒険者なんて出来ねぇだろうし、何にもできねぇお前の人生も終わり。あの二人も納得するだろうさ」
ゆっくりと近づいてくるジョー。
やがて、リョウは崖の端へと追い詰められる。その笑顔は嗜虐的に歪んでいた。
振り落とされた剣を辛うじて受け止めるけれど、リョウの細身の身体では、その勢いを殺しきれない。剣圧で更に後ろへと飛ばされて、そして。
「あ」
間の抜けた声だった。
「やっちまった」
声もなく、リョウは崖の下へと落ちていく。
もう少し尊厳から壊して、痛ぶって楽しむつもりだった。けれど、やってしまったものは仕方がないと開き直って引き返していく。
落ちているリョウは、小さな声で呟く。
「友だちだ、って思ってたのに」
その身体は、木にぶつかりながら地面へと近づいていった。
読んで頂き、ありがとうございます!