4.友人だ、と
二人でゴブリンの退治をして、依頼人からサインをもらう。文字が書けない人物の場合は拇印をもらう。ハイタッチして、二人は「やったな」と言うように笑う。
最初こそ、戦闘に慣れなかったけれど、感覚もだんだんと麻痺していく。今では、魔物を倒したり、動物を狩って捌くことにも抵抗がなくなってきた。
「そろそろ、もっと上の依頼も受けられそうだな!」
ジョーはそう言うけれど、リョウはそれに少し困ったような顔をする。
少しずつ、自分が強くなっていることは感じるけれど、いつだって「今がギリギリだ」という感覚は消えない。
「まだ早くないか?もし行くなら、俺以外のもっと強い人と依頼に行く方が安全だと思うよ」
そう返答すると、ジョーはその答えが不服だったのか、唇を尖らせた。
実際にジョーはそれなりに腕が立つ。リョウと組んでいるのが不思議なくらいだ。だから「自分以外と」と伝えた。足手纏いになるだけならまだマシだ。それで彼の命を脅かすことになってはいけない。
そう考えていたリョウにジョーは「良いことを思いついた!」というような顔をする。
「報酬は少なくなるが、何人か誘って行こうぜ。それなら互いにフォローし合える」
「まぁ、それならギルドで相談してみようか」
二人でならば不安でも、もう少し強い冒険者が増えれば何とかなる。リョウもそう思って受け入れた。
リョウが申し出を受け入れた時のジョーが浮かべた、歪な笑みに気づくことはなかった。
ギルドから紹介された三人を含めた五人で、依頼を受けることになったリョウたちは、森の中でオークの集落を発見した。
彼らが受けた依頼は、近隣の村などから女を攫い、略奪を繰り返すオークの殲滅だった。狡賢く、時々移動しながら人間を襲うオークたちは厄介な存在だった。
幸か不幸か、リョウは魔物の痕跡を見つけるのがうまかった。だから、二日ほどで現在の位置を見つけることができた。
(それにしても、ジョーとギルドから紹介してもらった三人。戦力的に俺はあまり役には立たないけど、死の不安がない程度だ。なのに、何だろう。このざわざわした感じは)
リョウは作戦開始の合図を待ちながら胸に手を当てた。ぎゅっと服を掴むと自分を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐いて、周囲の気配を探る。
少しずつ何かが近づいてくるような、そんな忍ぶような足音が聞こえた気がした。嫌な予感というのは、存外軽視することができないものだ。
予定していた場所から少し離れた木の影に隠れる。息を殺しながら、それでもきっと、思い過ごしだと持っていた剣を握りしめた。
「アイツ、居ないじゃねぇか」
「そう離れては居ないだろ。何せ、真面目ちゃんだからな?」
思い切り馬鹿にしたような口調だ。揶揄するような真面目ちゃん、という声がジョーのものであることに気がついたリョウの顔色は真っ青だ。
「何でも、気に食わなかったらしいぜ。追い出したはずなのに楽しそうに冒険者やってるアイツが」
「あー……あと、受付の子に愛想よくしてるのも、だろ?召喚者様二人とも、愉快な性格してやがる」
初対面だと言っていたはずの二人が楽しげに「そのおかげで俺たちはアイツを痛めつけて遊べるんだけどよ」と笑い合う。
心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。
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