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3.冒険者生活



 リョウは冒険者として初めから全て教えてもらわなければならなかった。薬草の見分け方、食べられる草、毒のあるもの、生息する魔物に、それの討伐方法、解体する方法。剣術、魔術、体術。学ぶことは多岐に渡り、いつもヘロヘロだったが、彼は生きるために必死だった。



(こんな世界(とこ)で死んでたまるかっての!)



 動物も手にかけたことがない、普通の、先日まで高校生だった少年だ。獲物を狩る時も、それを解体するにもはじめは震えながら、吐きながら、それでもと立ち上がってなんとか生き延びていた。

 サバイバルスキルもないし、強い能力もない。ないないづくしの異世界生活はハードだったが、頑張らなければ生きていけない。

 それは、意地だった。


 ただ、そう悪い話だけでもなかった。

 冒険者活動をしているうちに、ジョーという青年と出会った。



「本当にオマエって勤勉だよな」


「じゃなきゃ、死ぬだろう?」



 リョウは苦笑しながら、薬草図鑑から目を上げた。ギルドで本を読み漁って、文字を理解し、何度も木の枝で地面に書いて練習をした。はじめから文字が読めたからこそ、そんな無理やりな方法が取れた。



「ほら、昨日突き返された薬草は、薬草じゃなくて毒草だったみたいだし」


「うげぇ……」



 うっすらと濃い緑の斑点があるかないかだけの差で薬か毒かが分かれる。そんな説明を見ながら、覚えておかないといけないと何度も読み返す。図鑑は持ち出すことはできない。



(チートはなくても、文字が読める、言葉が通じるあたりはお約束通りで助かった)



 怪我や病気で、容易く命を落とすかもしれない世界だ。勤勉でなくてはいけないとリョウは考えていた。

 実際、全てを投げ出していたら、リョウは死んでいただろう。きっとそれを望まれていたのだろう、と思うと少しだけ悲しい気持ちが込み上げてくる。今はギスギスした関係であるし、元の関係に戻れるだなんて考えてはいない。けれど、一時は親友と呼んだ間柄の男と、恋人という関係性だった女だ。自分が何かしただろうか、と思ったあと静かに瞳を閉じる。雑念を振り払うようにゆっくりと息を吐いて、瞳を開く。図鑑を閉じると、本棚へと戻した。



「それじゃあ行くか」


「ああ、今日もよろしく」



 握手を交わして、依頼をこなす。

 実際、一人でやるよりも獲物は多く取れるし、冒険者ランクも上がりやすい。最初はS〜Fのランクの中で一番下だったが、今ではDまで上がっている。それなりの金額を稼げるようにもなってきていた。とはいえ、ほとんど持ち歩くことなく、この世界の銀行のようなものである冒険者ギルド共通口座に入れている。一定額になればこのテイヒュル王国から出て行こうという考えは変わっていない。

 それでも、せっかくできた友人や、冒険者ギルドで話すようになった人々との別れを惜しむ気持ちも、芽生えつつあった。


 最初にあった警戒心は徐々に薄れ、生活に馴染みつつあった。



——この国では警戒こそ、彼が一番捨ててはいけなかったものであったのに。

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