25.雪解けと共に
雪が溶けると、この辺境の土地に似つかわしくないほどに立派な、銀の鎧を纏った騎士たちが訪れた。その中で守られるように馬車が一台。
その中には長めの銀髪にアイスブルーの瞳を持つ青年がいた。彼は、報告書を眺め、そっと息を吐いた。正面に座っている侍従が「妹君が心配ですか?」と尋ねると、「当然だろう」と彼は返す。
「しかし、シルヴィアという名の竜人……か。もし報告が本当ならば、これが妹であれば、その少年は“番”である可能性もあるな」
「竜の花嫁……おっと、相手があの方であれば花婿様ですか」
黒く長い髪を後ろで結んだモノクルの青年がそう言うと、銀髪の青年は「そうだな」と答えた。
「シルヴィアが恐ろしい思いなど、していなければいいが」
「むしろ、対峙した方々が恐ろしい思いをしていたりするやもしれません」
「それほど強くなっていれば嬉しいのだが」
よほど妹を心配していたのだろう。ずっと物憂げな表情のままだ。
彼はテオドール・ルラック・ドラッフェ。帝国の第二皇子だ。優しく穏やかな印象を与える青年で、シルヴィアが唯一「家族」だと認識している人間だ。
「……どうして今、竜人の姿になったのかはわからないが、本当にシルヴィアだとすればあの愚か者たちはあの子を手放すまいと国内貴族と結びつけようとするだろう。……守ってもくれなかったくせに」
「番のいる竜を?流石にそんなことは」
「しない、と言い切れるか?」
主にそう問われた侍従、フリードリヒ・シエロは「皇妃様と第一皇子殿下はやりかねませんね」と呟いた。
竜の姿で生まれたばかりに、シルヴィアは愛されずに育った。父である皇帝の目に映る彼女の姿だって、ただ国の吉兆という意味しか持たない。平民の男に、ただ番であるというだけで下げ渡すビジョンが見えない。
「竜にとって、番とは絶対だ。失えば嘆き苦しみ、狂ってしまう。その本質はおそらくシルヴィアも同じだろう」
「グラシエルもそれを懸念して、独自ルートでの連絡となったのでしょう」
「ああ。彼にも苦労をかけて申し訳がないね」
フリードリヒは近づきつつある、要塞のような城を見ながら目を細めた。
せめて、シルヴィア皇女の相手が将来有望な青年であると願いながら「意外と彼も楽しんでいるかもしれませんよ!」などと口にする。
「楽しんで……?極度の人間不信な妹を相手に……?」
「番候補と発見されたのでしょう?では、その関わりを通じて多少緩和されているかもしれません」
実際は、自分と同じく超絶人間不信な相手と一緒に過ごしてきているので、ほとんど緩和されていないが、それを彼らが知るのはもう少し先の話である。
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