23.準備期間
「面会に向けて必要なものは我が家で用意する。金の心配は要らない」
リョウはそんなことを言われてそのまま家庭教師をしてくれるという男の元に連れて行かれた。なお、マシにはなったが彼は基本的に人間不信である。手負の猫のように威嚇することがわかりきっているため、グラシエルも一緒にいる。
「グラシエル様、授業に入り込むのはいくら何でも過保護では」
「こいつは知らない人間と一緒にすると問題が多いんだ」
呆れたような男に「そんな子を高貴な方々に会わせようとするのはどうかと思いますが」と言われると「俺に見せられないものでもないだろう」と腕を組んで壁にもたれかかった。
「坊ちゃん、姿勢も態度も悪い。そのようにお教えしたことはありませんよ?」
「坊ちゃん言うな」
男に「だいたいもう俺は成人している」と返すグラシエルだが、彼は「私にとってはいつまでも坊ちゃんは坊ちゃんです」と返した。
「まぁ、あなたがここの当主になったならば私も旦那様、とお呼びしますが」
「馬鹿言え。俺には向いていないよ」
グラシエルがそう返すと「それでは私の生きているうちはずっと坊ちゃんですね」などと言う。
「サルバトーレ、お前なぁ」
「坊ちゃんはさておき、リョウ殿」
「……はい」
「ふむ、確かに手負の小動物のようですね。少々意地悪をしたくなります」
表情は笑顔だが言っていることは物騒だ。
(加虐趣味か!?)
若干怯えるリョウを見て、サルバトーレと呼ばれた男は楽しそうに笑った。
「私はサルバトーレ・アネモイオ。この家で家令として働いております」
「かれい?」
「父上の側近として、我が家の使用人を束ねている者だよ」
普通に暮らしていれば聞くことがなかった単語に「使用人の最高責任者なのか?」という理解をする。そんなリョウを見ながらサルバトーレは「先は長そうですねぇ」と呟いた。
「安心しろ。リョウは自力で字の読み書きはできるようになっているし、真面目で穏やかな気性だ。昔の俺たちほど苦労はしない」
「シエル坊ちゃん、それは自慢ではありませんよ」
呆れたようなサルバトーレの声に、グラシエルの笑い声が重なる。
「今日からしばらく、ビシバシ扱かせていただきますね」
「お、お手柔らかに」
これもシルヴィアのため、とリョウは素直に勉強を始めた。
その点で言うと、姫でありながら、今まで竜であったために淑女としての教育がまるでできていないシルヴィアの方が割と問題が大きかったりするのだが、それはまた別の話である。
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