21.家族
シルヴィアにとって家族は次兄テオドールだけだった。
彼だけがシルヴィアの言葉を理解し、そのおかげでシルヴィアはある程度人としての暮らしを知ることができた。
不気味がられていた彼女の世話をしてくれたのはテオドールであり、彼がいなければシルヴィアはとうに死んでいただろう。
「けれど、私が戻るのはお兄様のためにならないわ」
「そうとは限らないよ」
その声に振り返れば、少し寂しそうな瞳のリョウと目が合った。
「家族を失うのは、辛いし苦しいよ」
元の世界の両親や妹を思い出す。
突然に、勝手な思惑から異世界に呼び出された彼には返る術がわからない。もしかしたら二度と会えないかもしれない。
だからこそ、全て失ってからでは遅い、と思う。
「俺にはもう、全部どうやって取り返せばいいのかわからないけど、君のお兄さんは同じ世界にいて、君を大切に思っているんだろう?じゃあ、一度はきちんと会って話すべきじゃないかな」
「リョウ……」
シルヴィアの迷うような視線、そしてグラシエルの哀れむ眼差しがリョウに注がれる。
彼の失った物はあまりに大きい。リョウの言葉を聞いた二人はそう思う。
「力になれなくてすまない」
「グラシエルさんのせいじゃないでしょ?責任があるとすれば、あのテイヒュル王国だ。謝る必要はないよ」
眉を下げて、困ったように笑う。
改めてシルヴィアに向き合うと「でも、ちゃんと俺のところに帰ってきて。君が俺の帰る場所だ」と告げた。シルヴィアの頰が薄紅に染まる。
「はは!姫だとわかって『帰ってきて』とはな。お前もなかなか根性が据わっているな」
「俺にとってはたった一人、大好きな女の子だから」
しれっとそう言ってのけるリョウに、シルヴィアはさらに顔を真っ赤にした。
「もう!もう!!そういうところ!!」
ペシペシとリョウの胸を叩くシルヴィア。柔らかな笑みを浮かべながらそれを見つめているリョウ。
グラシエルはそんな二人を微笑ましく見ながら、「こんなリョウでもフラれるんだから、異世界ってわからないな」などと考えていた。
「ところで」
シルヴィアは一度咳払いをしてから、キッとグラシエルを睨みつけた。
「あなた、やはりただの冒険者ではないでしょう?」
「言っていませんでしたか?」
グラシエルは本当に気が付いていなかったように、目を大きく見開いて、それから眉を下げて苦笑した。
「俺はグラシエル・カエルム。この土地の領主の息子ですよ」
「おい……」
リョウは「聞いてないぞ」と呟く。
それもそのはずだ。
「辺境伯爵令息、高位貴族じゃないか」
自分で魔物を討伐する、やたらと強い、しつこく話しかけてくる男。それが高位貴族だと誰が思うだろうか。
(いや、国境の領主の息子だったら強く在ることは責務か?いや、だがいくらなんでも護衛も無しに歩いているのはおかしくないか!?)
グラシエルと彼の家が特殊なだけである。
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