17.助け
吹き飛ばされたその先には大きな木があった。おかげでその先にある崖から落ちずにすんだ。
(もう一度落ちずにすんでよかった……が)
立ちあがろうとすると、右足に痛みがはしる。ぐらつく体を、木にもたれかかる形で支える。
これでは、次は逃れられないと舌打ちをする。赤い目はまだリョウに向いている。もう獲物が逃げられないとわかっているのだろう。ゆっくりと足を運ぶ様子が見える。
剣は折れ、足が動かぬ状況で退避は絶望的だった。
シルヴィアも少し遠くへと飛ばされている。彼女を守るためにも、易々と殺されるわけには行かないと魔力を練り上げる。
その角を突き刺そうと突進してくる鹿に火の魔法を使おうとした時だった。大きな手で頭を撫でられる。低く、優しい声が降ってきた。
「無理をするな。座っていろ」
目の前に炎が現れたのかと思うような鮮やかな赤色だった。大きな背は頼もしく見える。漆黒の剣が抜かれると、それに赤い炎が纏われる。
「こんなに大きな魔物が入り込んでいたとはな」
剣を構えて、前を見据える。
金色の鹿を睨みつけた男……グラシエルは炎を纏う剣を携えて向かっていく。
剣と角がぶつかり合う甲高い音が聞こえる。
(俺とは、大違いだ)
角には亀裂が入っている。それどころか体に傷も負わせている。
圧倒的な実力を感じさせる技の数々。魔法と剣術の融合。その動きはまるで舞でも見ているかのように美しい。
少しも危険を感じさせない冷静な立ち回りに憧れも感じる。
邪魔にならないようにじっと、見ていることしかできなかった。
「これで、終わりだ!!」
隙を見せた魔物の首に、一閃。
短い悲鳴を残して、ゴトリ、と首が落ちる。
「よし……、大丈夫か、リョウ!?」
「……どこを、どう見たら無事に見えるの」
気の抜けたような、少し幼い声音だった。リョウ自身、そんな自分の声に少し驚いたように目を見開く。そして、ゆっくりと息を吐いた。
「シルヴィアは」
「こ、ここぉ!!」
雪の中に埋まったらしく、酷い格好だ。
それでも無事な姿を見たリョウは安心したように笑みをこぼした。
「わ、私、リョウのこと守れなかったぁ!!」
一方のシルヴィアはギャン泣きである。
グラシエルはそんな彼女を放置の上で、リョウの手当てをしていた。
「あれだけ吹っ飛ばされた割には……頑丈でよかったな。まぁ、足と肋骨は折れてるが」
「死ななかっただけマシな状況だった。……路銀が稼げないのはキツイけど、まだ余裕はあるし」
ぷいと顔を背けながら「助けてくれて、ありがとう」とお礼を口にしたリョウに、グラシエルはくつくつと笑う。
「おう」
やや乱暴に、ぐしゃぐしゃと頭を撫でるグラシエルに「ガキ扱いしないでよ」とリョウは不服そうにその手を払った。
「まだ子供だろうが」
「もう19だよ」
「……嘘だろ!?」
あんぐりと口を開けるグラシエルに、「俺ってそんなに幼いか?」とリョウは少し不安になった。
日本人としては身長も高い方……のはずだ。大人びてはいないけれど、年相応の顔であるとも思う。
(いや、アジア人……?いや日本人がだっけ。幼く見えるって聞くからそっちかな)
ちょっと複雑な心境だった。
多分「迷子の子供みたいな顔」してたせいだよ。
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