16.巨大なるモノ
グラシエルはいつも通りに依頼を受けて出かけて行った二人を少し遠くから追いかける。あくまでも見つからないように。
(一回見つかった時はかつてない怯えようだったな。本当に何があったんだ?)
どんなことがあったのかを話そうとしないため、何もわからない。リョウのことで分かることは、評判の悪い隣国からやってきたことと、酷く人間不信だということだけだ。
(どうしたものか)
グラシエルはそっと息を吐いた。
傷つけるつもりはないのだと、理解してもらう方法が思いつかない。まるで手負いの獣のようだ。
それより少し離れた場所で、二人は本日の獲物を待っていた。ここには金色の鹿の魔物が出るという。その調査のために2人はやってきていた。あくまで調査。倒す必要はない。
(強さゆえか、あまり発見者に興味を持たないっていう話だが……本当かわからない。一応全力で逃げる準備はしてきたけど)
全てを疑ってかかることが苦痛だ。けれどもそうしなければ安心できない。
それでもどうにか前に進みたいと足掻いてはいるけれど、心も身体もついてきていないことを感じていた。
シルヴィアに心配をかけていることもわかっている。わかっていても、どうにもならないこともある。
守られるだけでなく、対等でありたい。
(でも、全然ダメだな。どうして俺は、こうも)
自嘲するような薄笑いが漏れる。
そんな自分に気がついて、リョウは頰を叩いて気合いを入れ直した。
余計なことを考えるな、周囲を注意深く観察しろと集中をする。
風の音、木々揺れる音の中に、雪を踏み締めるような音が混ざるのを感じた。
息を殺してその方向を見ていると、徐々にその姿が明らかになる。
金色の鹿だった。
立派な角、赤い瞳。そして驚くほど大きな体躯である。
それは静かに佇んでいた。
(アレは、ダメだ。近づくべきじゃない)
かつてないプレッシャーを感じて冷や汗が出た。
そっとシルヴィアに撤退のハンドサインを送る。そして移動を始めようとしたその時……
——目が合った。
赤い瞳とかち合って、それがなぜかニタァ、と嗤ったように見えたのだ。
「走れ!!」
そうリョウが叫んだ瞬間だった。
大地が揺れる。足下が揺らいで体勢が崩れた。鹿が咆哮する。それだけで身体が後ろへ飛んでいきそうになる。
気がつくと目の前に角が見えた。それを辛うじて剣で防ぐ。
「コイツ……!」
確実に、リョウだけを狙っている。
歓喜に満ちた目で舌舐めずりをしている。見た目は草食動物であるのに、その生態は違うようだった。
その角は鋭く、掠った場所が破れ、装備はボロボロになり、血が出る。シルヴィアも援護をしようとしていたが、鹿は片手間で彼女を追い払おうとしていた。
我慢できなくなったのか、思い切り突撃してきた鹿の角はリョウの剣と当たった。そして鹿は声高く鳴く。そしてそれは強力な風圧となってリョウを大きく吹き飛ばした。
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