14.葛藤
リョウは村での出会い以降、あれこれと構ってくるグラシエルを「困るな」と思っていた。
親切なのだろう。それはわかる。
(でも、信用してまた裏切られれば?俺一人なら良いけど、シルヴィアはどうなる?)
唯一無二の少女がいる。だからこそ一歩踏み出す気にはなれなかった。
優しくされるたびに、ジョーの声が蘇る。誠也と綾の、見下すような目を思い出す。
そして、思うのだ。
——ああ、ダメだ。
死にたくない、そんな気持ちももちろんある。次いで、シルヴィアを巻き込みたくない、もう裏切られたくないという気持ちだ。それらがリョウの行動に制限をかけていた。
怖い、恐ろしいという気持ちを、どうしても咎められようか。
シルヴィアはそんなリョウを愛し気に見つめていた。
竜は愛情深い生き物だ。
反面、嫉妬心も強い。リョウが一歩踏み出せない理由が自分であると知っているから、可哀想だと思う反面愛しくて、愛しくてたまらない。このままでいいよ、と言ってしまいたくなる。
彼女も多くに嫌われ、疎まれ続けてきた。たった一人、兄だけは可愛がってくれたけれど、それ以外の全ては敵だった。
だからわからない。どうすればリョウを支えられるのか。無条件で自分を愛してくれる存在は、リョウが初めてだった。
「リョウ」
「何、シルヴィア?」
「リョウは私が守るわ。だから、好きなようにすればいいの」
騙されたって構わない。シルヴィアはもうかつての力無き竜ではないのだ。何があってもパートナーを守ることができる。
そう思いながらその手を握る。
「シルヴィア、それはダメだよ」
「リョウ」
リョウは苦笑する。自分で考えて、踏み出さなければならない問題だ。
「よ!相変わらず暗い顔してるな。肉でも食えば元気になる!!」
「ならない」
そんな時に、グラシエルが現れてリョウの背を叩く。シルヴィアが「乱暴にしないで!」と怒るのを見ながら「そんなに強くはしてないだろう」と眉を下げた。
「痛くはないけど」
「ほら見ろ」
「むー!!」
騒ぐ二人を見ながら、ふと笑みが溢れた。けれどそれは一瞬で、まだ誰の目にも止まらない。
「依頼を見に行こう」
「うん、今日は何があるかな」
「魔猪を倒して食料を増やしてもいい」
「あなたには聞いてない」
ずっと二人だけの世界には居られない。
けれどまだ、それ以外が息苦しい。
(それってどう伝えるべきなのか)
シルヴィアの手を握りながら、そんなことを考えていた。
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