12.冒険者活動2
受付嬢に教えられた場所までやってきた二人は、周囲を見渡す。あまり人が行かない、と言っていたのは本当のようで、人気はない。雪にはしゃぐシルヴィアを愛しげに見つめつつ、周囲を警戒する。
少し大きめの音が聞こえて、シルヴィアを引き寄せた。そのまま剣を払うと、赤い血が飛び散る。
「確かに雪と木で目視はしにくいけど、音が派手だからなんとかなりそう」
魔猪の首が落ちる。
討伐部位である牙を採取して、しばらくは魔猪を狩ろうかと思案する。
「運ぶのが少し手間だな」
「大きいし、汚れちゃうものね」
魔猪を掴むと、リョウは不思議な感覚を覚える。思ったよりも、獲物が軽い。
(俺、こんなに力持ちだった?)
疑問には思ったものの、運ぶのに力があるに越したことはない。ある程度血を抜いてから、それを担ぐと、彼らは並んでギルドに帰還を始めた。
帰り道に村があったので、荷物を減らすためにそこで捌いてある程度の肉を押し付ける。押し付けてすぐに帰ろうとしていたが、引き止められて炊き出しに参加しないかと言われた。この季節に肉が手に入ることは珍しいため、共有するための処置のようだ。
「シルヴィア、どうする?」
「私はリョウと二人っきりがいい」
「じゃあ、帰ろうか」
人間不信を拗らせていることもあって、二人はさっさと帰る選択をした。そうでなくても、二人だけの世界に他の人間なんて必要ない。
そんな思考回路を持っていた彼らは断りを入れようとすると、「たまにはいいだろう?」と後ろから声がかかった。
引き締まった逞しい肉体を持つ大柄な男だった。燃えるような赤髪に、夏の空のような澄んだ青い瞳が印象的だ。黒で統一された鎧がよく似合っている。歩き方や立ち居振る舞いにどこか普通の人とは違うものを感じた。気品があるというのだろうか。
「よ、バカップル。噂はかねがね」
「バカップルだなんてそんな……」
「シルヴィア、褒められてはいないよ」
君がいいなら、別に構わないけどね。そう囁くリョウと目が合うと一気に甘々空間になった。
男は「もう俺は視界に入ってないな」と呆れたような顔をする。一つ、咳払いをすると恨めしそうな目が向けられる。
「お前ら、どうもあまり周囲と関わりたがってないようだが、度がすぎるのも良くないぞ」
「シルヴィア以外はいつも俺を裏切るからいらない」
「そうよね、リョウ以外の人間なんて碌な生き物ではないし」
経験のせいか人間不信が極まっている。
それでも「そういう人ばかりではないはずだ」と男は言う。
「まぁ、とりあえず俺からでもいいから慣れろよ」
「必要ない」
「リョウだけでいい」
すでにガッツリ長期間友人だった男と恋人だった女に裏切られた後である。この世界に来てから仲良くなったと思っていた人間にも切り捨てられている。知らない人間だ、というだけで信じてみようとは思えない。
その荒んだ目を見た男は、これ以上の引き留めを諦めた。
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