10.新天地
シルヴィアは竜と獣人というのだろうか。その姿を自由に変えられた。それも彼女の話では、今までできなかったことであるらしい。
だからこそ、彼女は捨てられた。兄は大丈夫だろうか、と案じるシルヴィアの手を握る。安心させるように微笑みを作るリョウだけれど、相手は竜である。ちょっと残念な男の子に見られていた。
そんな彼らは、テイヒュル王国を離れた。湖の妖精にこの国境の地へ送ってもらえなかったら、こんなに早く国を出ることは叶わなかっただろう。
酷い目にはあったけれど、彼らにとってそれだけは運が良かった。テイヒュル王国では獣人差別があり、シルヴィアがここであの姿になるには支障がある。あくまでも冒険者ギルドで聞いただけではあるので確定ではないが、隣国であるドラッフェ帝国にはそういったものがないという情報がある。
彼らは旅に出るにあたって慎重に計画を立てた。超絶人間不信な彼らは互いだけを信じて国を出た。
きっと以前ならば取らなかった選択ではあるけれど、結果的にそれがテイヒュル王国にいる元友人たちから彼らを守った。リョウが生きているという妙な確信を持っていた彼らは護衛依頼を出した男を探すようにと命令を出していた。
けれど、屈辱や悔しさよりも互いの心配だけがずっと彼らの脳内を占めていた。
山を越え、ある町へと辿り着いた頃には冬になっていた。
しんしんと雪が降り積もる様子は美しいが、この世界で初めての冬は厳しい。雪の中を突っ切って行くのは危ないだろう。そう考えた彼らは冬を越すまでの間を、ドラッフェ帝国の辺境地であるシュネージュという町で活動することになった。要塞のような壁に覆われたその土地には、評判通り、と言っていいのか多くの獣人が存在した。多くは傭兵のようで、身体が大きく、武装した者が目立つ。
この土地であれば大丈夫だろう、とリョウはシルヴィアに自分の服を着せると店を巡って一通り、彼女の衣類や旅の道具を揃えた。
懐は多少寂しくはなったけれど、この地にも冒険者ギルドは存在する。力ある者が多く集まっているからか、ランクの低い依頼はそれなりに残っていた。意外と言うべきか、書籍関連はテイヒュル王国のギルドの方が多かった。そのおかげで文字はほとんど覚えていた。慣れはしないが、一応書くことも多少はできる。受けられる依頼の幅はそれだけで広がっていた。
「どこから始める?雪おろしとかは結構多いけど」
「うん。結構報酬もいいね。雪の始末も溶かしちゃえばなんとかなりそうだし……シルヴィアが選んだお仕事にしようか」
イチャイチャと連れ添って依頼を選んでいる二人に嫉妬の目が向けられるけれど、害意を向けた瞬間にゾワリとするような悪寒が走る。すぐに何か得体の知れない物を見る目へと変わっていった。
依頼の紙を持って、受付へと向かう二人を、偶然に訪れた男が驚きの目で見ていた。
「竜の獣人……いや、まさかな」
だが、トカゲの獣人だと言うには威圧感が違う気がした。そしてその雰囲気や顔が彼の知り合いに似ている気がした。
少し考え込んで、男はこのギルドの長と面会のアポイントを取る。
「面倒ごとじゃなけりゃいいが」
男はそう呟いて視線を外した。
読んで頂き、ありがとうございます!
面倒事やぞ




