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【完結】侯爵家の婚約者  作者: やまだ ごんた


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一つの終わり

お読みいただきありがとうございます

 ミケロは没収された爵位とは言え、公国の貴族の直系であったことと、オルフィアス伯爵により正式な手順を経て家系図に書き記された正式な後継者であったため、処刑を免れた。

 パウロの魔法技術を失うのが惜しいと魔導士たちの要望もあり、パウロが魔導士に協力することを条件に、二人は足の腱を切られた上で、小さな離宮に生涯幽閉されることとなった。

 イレリアはアレッサが罰を望んでいなかったこともあり、1年間の修道院での奉仕が言い渡さた。

 思ったよりも軽い刑となり、カインは安心した。

 修道院に移送される前の日、カインは漸くイレリアに会う事ができた。

 最後にイレリアに会ってから30日が経っていた。

「カイン――様」

「カインでいい。そう言ったはずだ」

 イレリアは膝を曲げカインに礼をしたが、カインに手で制されて立ち尽くす形になった。

 全ての魔法が解除され、イレリアもカインも相手への恋心はどこか他人の夢のような気分で向き合っていた。

「ありがとうございます。私――知らなかったとは言え、あなたに――」

「私とて同じ事だ。君を無理矢理貴族の世界に連れて来て、君を変えてしまった」

 イレリアはどう向き合えばいいのかわからず、所在なさげだった。

 カインはイレリアにソファに腰掛けるよう促すと、自分も一人掛けのソファに腰掛けた。

「全てが魔法のせいだったとは思いたくない。私は君といて、君が与えてくれた愛に救われたんだ」

 カインは静かな声で言うと、イレリアを見つめた。

「私――私は、愛が何なのかわかりません。ただ、師匠に初めて抱かれた時、とても満たされたのを覚えています。カイン――に抱かれている間も、同じ感覚で……それを愛だと思っていました」

 イレリアは遠慮がちにカインの名を呼びながら、上目遣いにカインを見た。

 美しい顔だが、前のような魅力を感じない。これが、魔法が解けたと言う事なのか。

 カインは微笑みながら小さく溜息をついた。

「刑期を終えた後も侯爵家は君を援助することを約束しよう――もっとも、以前のようにとは行かないが」

 恐らく、平民としての平凡な暮らしを与える事くらいはできるだろう。本人が望めば領地での生活でもいい。

「畏れ多い事でございます。侯爵家の恩情に感謝いたします」

 イレリアが頭を下げると、カインは立ち上がり部屋を出た。

 扉が閉まるのを背中で感じながら、一つの恋が終わるのを実感していた。


 イレリアが修道院に移送されるのを窓から眺めると、カインはジルダに向き直った。

「随分魔力がお戻りになりましたね」

 ソファに座り、カインの手を握りながらジルダは言った。

 カインは立てるようになると、見る間に魔力を回復させ、10日ほど前からは受けた傷も全て跡形もなく治り、真相を知りジルダを疑った事を謝りにきたダーシー卿に殺意を向ける程度には元気になっていた。

「君が――ずっと付き添ってくれてたからだ」

 カインはジルダの顔を見ないように顔を背けると、素っ気なく言い放った。

「ああ――そうだ」

 ジルダは何かを思い出したように手を離すと、部屋の隅で控えていた侍女に目配せをした。侍女は黙って頭を下げると、ジルダに両手に乗るほどの袋を手渡した。

「これを」

 ジルダは相変わらず無表情のまま、しかし丁寧にその袋をカインに差し出した。

「な……なんだ、それは」

 上質な絹で作られた袋は、深い緑色に染め上げられ、金の糸でいくつもの草竜の刺繍が施された、大変かわいいものだった。

「カイン様に贈り物ですわ」

 ジルダが可笑そうに笑うほど、カインに不釣り合いな可愛らしさだった。

「草竜、お好きでしょ?」

 ジルダが早く受け取れと言わんばかりの表情で差し出すと、カインは諦めてその袋を手に取った。すると、袋の色が青色に変わるとともに、いつもジルダにされているように、体が軽くなるのを感じた。

「魔力が――吸収されてる……?」

 カインの呟きに、ジルダはどこか自慢げに微笑んでいる。

「どう言う事だ。今までこんな事は試してもできなかっただろう」

 カインは慌てて袋を横に置くと、ジルダの手を取った。

「君が――作ったのか?」

 握られた手を見ながら、ジルダは首を横に振った。

「正確には私が見つけてきた錬金術師が、ですわ」


 その錬金術師は、子供の頃から魔力操作に長けていた。その為、早くから勉強のためにアバルト侯爵領に魔道技師としての修行に出ていた。

 アバルト侯爵領で魔道技師として修業しながら、独学で錬金術を学ぶと、魔道技師よりも錬金術師としての才能を開花させた。

 ジルダが15歳の時、もし自分に何かあった時にカインの魔力吸収ができなくなった場合の事を考えて、カインの魔力を何かに吸収させることはできないかと考えていた。それは、国中の魔導士も考えていた事だが、国中の全ての魔法陣に魔力を注入して回らない限り、カインの魔力は枯渇しない。カインの魔力を吸収する魔法陣を用意したところでカインの魔力の回復には追い付かないなど、様々な事が検討された結果、不可能と思われていた。

 それでも、ジルダは自分の魔力の小ささから、カインより長生きするのは絶対に無理だと理解していた。それに、もしカインが婚約を解除したいと願い出たらすぐにでも了承するつもりだった為、早く何とかしてあげたいと思っていた。

 その為、ジルダはカインの魔力吸収の合間の日は、時間があればアバルト侯爵領に行き、魔道技師や魔導士たちと様々な研究をしていた。


 ある日、ジルダがアバルト侯爵領に行くと、侯爵家の裏手の森で、見知らぬ青年が魔石を手に格闘していた。

 魔石にある魔力を放出しているようで、足元にはいくつもの魔石が転がっていた。

「何をなさってるの?」

 突然声を掛けられて、青年は驚いて魔石を落としてしまった。

「あぁ!貴重なサイノスの魔石が!僕の1年分の給料が!」

 割れて粉々になった魔石を見て涙ぐむ青年を見て、ジルダは申し訳なくなった。そして青年に謝ると次に来た時は同じ魔石を用意することを約束した。

 次にアバルト侯爵領を訪れたジルダは、以前と同じ場所で青年を見つけた。約束通りサイノスの魔石を青年に渡すと、青年が何をしていたのかを聞いた。

「魔力を放出しているんです」

 思った通りの回答だった。

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