罪は罪
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捕らえられたオルフィアス伯爵――いや、ミケロはエスクード侯爵になら全てを話すと言って、彼の到着を待っていた。
法務貴族であったことと、公国の貴族の血脈であると言う配慮から、牢ではなく、拘束の魔法をかけられた部屋に収監されていた。出入りは制限され、外からの補助がないと出られない作りだ。
エスクード侯爵が到着すると、ミケロは優雅な笑顔でエスクード侯爵を迎えた。
「やあ。オレリオ。漸く君とこうやって腹を割って話ができるね」
王国には珍しい黒い髪をかき上げながら精悍な眉を緩めて微笑むミケロは、これまで見たオルフィアス伯爵のどの表情とも違う、魅力的な微笑だった。
「貴様がバロッティ伯爵の隠し子だと言う事は調べがついている。貴様を前伯爵に繋げた男が見つかった。殺しておくべきだったな」
オレリオの言葉にミケロは答えず、魅力的な笑顔を崩さずに言った。
「私は父を殺すつもりだったのに」
そしてミケロは笑みを解くと、オレリオを鋭い眼差しで睨みつけた。
「君が父を殺したせいで、私のこの怒りはどこへもぶつける事が出来なくなってね。それで――麗しい仇である君に私の怒りを受け取ってもらう事にしたんだよ」
ミケロの眼差しには狂気が含まれていた。オレリオは背中を冷たい汗が流れるのを感じた。
「何を言っている――貴様の父親がしたことを考えれば当然の報いだっただろう」
オレリオはミケロの正面に腰掛けると表情を変える事無く言ってのけた。
あの男は卑怯にもアバルト侯爵家を罠にかけ、アルティシアを手中に収めようとしたのだ。
ミケロは立ち上がると、オレリオに歩寄った。
「ああ、そうだね。父はクズだ。生きる価値もない人間だ。――なにせ、自分の息子すらその欲望の捌け口にしてしまうほどだからね」
オレリオは腰の剣に手を添えたが、ミケロはその手を優しく抑え、オレリオの顔を間近に覗き込みながら片方の手でオレリオの頬をなぞった。
オレリオは眉をひそめた。「君は父親の復讐のために、私を――息子を狙ったのではないのか」
「父の復讐――?あの男に復讐してもらえるだけの人望があるとでも?――君は本当に愛らしい人だ」
息がかかるほどの距離でミケロは、愛しさを含んだ妖艶な眼差しでオレリオを見つめた。
「君は穢れを知らないで生きてきた人だ。とても美しく気高い。君を恨みながらその美しさに憧れていたんだ……愛にも近い感情だ。土の中を這う事しかできないモグラが日の光に憧れるように――君には……僕が父に受けた辱めなど想像もつかないのだろうね」
ミケロはオレリオの頬を撫でながら、耳元で囁くように自身の過去を話し出した。耳を塞ぎたくなるその内容は、とても正気で聞けるものではなかった。
ミケロの過去と20年も前から周到に用意されていた計画に、オレリオはもちろん、オレリオから聞かされたカイン達も恐ろしさに鳥肌が立つのが分かった。
ミケロが捕まると、それを待っていたかのようにパウロは漸くその計画の一部始終を話し始めた。
アルティシアに施した魔法陣で生まれてくるカインに呪いをかけたミケロは、カインの精神を乱す魔法を用意し、王宮の女官長に発動させるよう命じた。
女官長はオルフィアス伯爵と肉体関係を持っていた事がミケロの告白で判明した。
――あの優しかった女官長が?
カインは衝撃を受けた。母が冷たいと悲しんでいた僕を慰めてくれたのを覚えている。
ミケロは誕生会の場で、カインの魔力を暴走させてしまえばいいと考えた。
しかし、ジルダがそれを防いでしまった。ミケロにとって最初の躓きだった。
ジルダはカインの婚約者となり、侯爵家の庇護を受ける形になった為、ジルダに手出しをする事は出来なくなった。
ミケロは計画を練り直し、第三者を使ってカインの精神を壊し、ジルダを憎み廃するようにすればよいと考えてパウロに命じた。魅惑の能力を持っている娘を探すようにと。
「そして選ばれたのがイレリア嬢ってわけか」
ロメオが感心したように口を開いた。
魅惑の能力は吸収の能力ほど少ないわけではない。だが、その多くは力が弱く、イレリアのように魔法で増幅されているとは言え、心の弱い者を虜にするような能力は非常に珍しい。
「彼女の母親が魅惑の能力の持ち主だったそうだ」
容姿の美しさに加え、強い魅惑の能力の持ち主だった女性は、それ故に人目を惹いてしまった。貧しい村の生まれだった彼女は、生まれ育った村が盗賊の一団に襲われた時、まだ幼さの残る年頃に彼女の能力に惑わされた男達に犯された。その結果イレリアを妊娠すると、行くあてもなく貧民街にたどり着くと彼女を産み落とした。
そして、そのまま貧民街に住み着いたが、イレリアを育てる事を拒んだため、イレリアはその女性の子供と言う事を隠されたまま育てられた。
貧民街で束の間の安寧を得た彼女だったが、数年後再び農場の男達に強姦され、望まぬ妊娠を苦に川に飛び込んで命を絶った。
「その女性の噂を聞いたのだろうな。だから薬師――パウロはその娘を探すため、貧民街で薬師として潜んだんだろう」
オレリオの言葉をみんなが黙って聞いていた。
「そして、イレリアにかけられていた術だが――やはりカインの魔力が使われていた」
「魔力暴走を起した時ですね」
ジルダが言うと、オレリオは頷いた。
「パウロは大した魔導士だ。あの暴走の騒動に紛れてカインの魔力を魔法陣に吸収させて、それを使ってイレリアに魔法をかけただけでなく、カインを襲ったゴブリンや魔獣もカインの魔力を使って誘導したと自白したよ」
魔法陣に魔力を注ぎ入れるのは誰でもできる事だ。しかし、それを変質させる事なく取り出して使うのは不可能だった。唯一、ジルダにしかできない事だと思われていたが、パウロは難なくそれをやってのけたのだ。
そして、イレリアに魔法を仕込んでカインと出会うよう操作した――。
イレリアもまた被害者なのだ。ミケロの、パウロの――そしてカインの。
カインは唇を噛んだ。
ミケロの狙い通り、カインはイレリアに溺れていった。そして、結界の魔法陣で危うく魔力を暴走させるところまで漕ぎつけたが、オレリオの機転により失敗した。
期間を開け、ゆっくりとカインを苦しめ、壊してオレリオに復讐するつもりだったのだとミケロは言った。
「私が捕らえられたところで、君の妻は息子に触れられず非業の死を遂げ、死ぬ気で守った君の息子はその呪いは解ける事はない。君の苦しみはこれで終わらない――君は息子を見る度に私を思い出して苦しまねばならない。それだけでも十分じゃないか」
オレリオの耳にミケロの高笑いがこびりついて離れなかった。
「フィッツバーグ子爵夫人は――」
ロメオが侯爵に尋ねると、侯爵は首を横に振ると「あの方は単に利用されただけのようだ」と苦笑いした。
野心家で目立ちたがりな性格に目をつけられたのだろう。イレリアの周囲を掻き回して、カインを刺激する事が目的だったようだ。
「イレリア様はどうなるんですか」
ジルダがオレリオの尋ねた。
「――彼女も被害者である事は事実だから罪には問われないだろう。貧民街の件も扇動ではないと証言が取れているしな。ただ――」
オレリオは言いにくそうに口ごもった。
「侍女に与えた暴行については、彼女の意思だ。罪は軽くなるように計らうつもりだが、アレッサは命を落としかけた。刑に処される事は間違いないだろう」
普段から暴行を受けていた女中のメイとヨルジュが、イレリアを告発したことをカインは知っていた。だが、彼女がそうなってしまったのは自分のせいでもあるのだと、彼女と罪を償うつもりでいた。
しかし、オレリオはカインの手を握ると首を横に振った。
「罪は罪だ。例えどんなに辛い思いをしたとしても、運命を握られ翻弄されたとしても、犯した罪はその人間が償わねばならない」
オレリオは自分に言い聞かせるように言い、カインを始めとした全員が言葉を飲み込んだ。
パパはジョニーデップ(細)、ミケロはキアヌリーブスで再生してください。
キリのいいところまで投稿しました。
残すところ5話です。
明日一気に更新する予定です。
最後までお付き合いいただけると幸いです。




