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【完結】侯爵家の婚約者  作者: やまだ ごんた


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黒幕

お読みいただきありがとうございます

 貧民街のすぐ近くでダーシー卿の魔力を受け取ったジルダは、すぐに自分の従者達に薬師の捜索と騎士隊への通報を命じた。

 ダーシー卿の元に駆け付けると、血まみれで倒れているカインにジルダは自分の血の気が引く思いだった。

「どちらもまだ息がある。――お嬢さんはそちらの騎士を。俺は坊ちゃんに応急処置をする」

 錬金術師の声にジルダは我を取り戻すと、すぐにダーシー卿に魔力を注ぎ入れた。

 錬金術師は手際よくカインに血止めの魔法陣を展開すると、カインを担ぎ上げてポッチに乗り、駐屯所へとポッチを走らせた。

 カインと違い、ダーシー卿には外傷はなく、魔力は尽きかけていただけだったが、何とか命を維持する最低限の魔力が残っていたのが幸いし、ジルダが魔力を注ぎ込むとすぐに意識を回復した。

 ダーシー卿が王宮に向かった直後だった。ジルダの元に薬師が捕まった報せが届いたのは。

 ジルダの話を聞いていた貧民街の住民達が得物を手にし、薬師を探し出したのだ。追い詰められた薬師は、攻撃用のスクロールを住民達に放とうとしたが、そこに従者が連れ戻った騎士隊が到着し、薬師はあっけなく拘束された。

「カイン様はあそこの皆さんに慕われてるのですわ」

 ロメオがあらましを説明した後、ジルダがそう付け加えた。

 カインは痛む体をさすりながら、それでもイレリアがいたからだと言うのを躊躇った。

「発端はイレリア様かもしれませんが、彼らに接する態度はカイン様のお心根ですわ」

「マルコも――同じ事を言ってくれた」

 カインは放心しながら呟いた。

「イレリア嬢は魔法の反動だろう。今は錯乱状態にあるそうだ。自室に拘束の魔法陣を展開して軟禁している。牢に入れないのは温情だと思ってくれ」

 ロメオの言葉にカインは胸が痛んだ。この件の一番の被害者はイレリアだろう。

「お前が気にする事じゃない。――それに、彼女は侍女への暴行でも告発されている」

 カインは言葉もなかった。薬師との関係だけであれば治療を施した後、それなりの生活を続けさせてやることもできただろうに。

「気にするな。魔法のせいとはいえ、本人の性質を歪める術式は使われていなかった。これは彼女の元々の性質によるものだ」

 ロメオは落ち込むカインの肩に手を置いて慰めると、話題を変えた。

「薬師は今伯父上が拷問中だ。3日もぶっ通しでやってるのに一度も口を割らない。――大したもんだよ」

 ロメオは感心した口ぶりで告げた。

「父上が」

「ああ。お前に仕掛けた魔法陣と同じやり方でやってる。体の骨を折っては治しを繰り返しているよ。僕なら指一本ですぐに喋ってしまうけどね」

 親馬鹿を怒らせると怖いんだと、ロメオは肩をすくめた。


 カインの体は深いものは内臓まで傷が達しており、治癒師による懸命な治療がにより外傷は回復したが、何度も発熱を繰り返して10日経っても立ち上がる事は出来なかった。

 ジルダはその間もカインの傍で看護し続けていた。

 カインはジルダに感謝していたが、これまでの自分の態度を「子供の癇癪」と一蹴された経緯から、どう接していいのかわからず、ただ首元の青い宝石を弄ぶだけだった。

 カインが負傷して14日が経った日、ティン=クエンが部屋に飛び込んで来た。

 奇しくも漸く体調が落ち着き、立ち上がる訓練をしようとジルダの肩を借りて立ち上がった直後だった。

 突然開いた扉に驚き、態勢を崩したカインをジルダが支えきれず、カインはジルダを押し倒すような形でベッドに倒れ込んだ。

「あ――お邪魔だった?」

 ティン=クエンが意地の悪い微笑みで尋ねた。

 カインはジルダを庇うように抱き締めたものの、自分の腕で体を支える事ができず、ジルダに密着しているのが何とも恥ずかしく、自分の胸の下にいるジルダの小ささに胸が苦しくなるのを感じていた。

「ティン=クエン……私――潰れちゃうわ」

 ジルダは魔力が少なすぎて身体強化ができない。カインの魔力を全て吐き出した後では尚更だった。その為、自分よりも二回り近くも大きいカインに全身で圧し掛かられると、重たくて死にそうだった。

 ティン=クエンは笑いながら「どうぞ、カインお嬢さん。僕に掴まって」と言ってカインを抱き起すと、抱き上げてベッドに座らせた。

「僕が回復したら一番に殴るのはお前だな」

 恨めし気な目でティン=クエンを見つめながらカインが言うと、ティン=クエンは嬉しそうに大笑いしてカインの体に跨ると顎をくいと持ち上げた。

「じゃぁ、その覚悟を持つから回復するまでは僕の好きにしていいんだね――お姫様」

「ティン=クエン。ふざけないでね」

 男同士のふざけ合いを止めたのはジルダだった。

 ティン=クエンは笑いながらジルダに謝ると、自分の首を絞めるカインの手を離させるとベッドからゆっくりと降りた。そして、真顔になると一呼吸してから口を開いた。

「オルフィアス伯爵を捕まえた」


 オルフィアス伯爵は逃げ隠れもせず、毎日議会に出席していた。

 イレリアの証言だけでは決定的な証拠にはならず、また薬師も口を割らなかった為、議会員であり法務貴族であるオルフィアス伯爵に追求することはできなかったのだ。

 しかし、ティン=クエンの地道な調査の結果、遂に決定的な証拠を掴むことができたのだ。

「オルフィアス伯爵は元のオルフィアス伯爵の傍系なんかじゃなかった。彼は――公国のバロッティ伯爵の隠し子だったんだ」

 ティン=クエンの出す名に聞き覚えはなかった。カインが尋ねようとした時、もう一人の人物が部屋に入ってきた。

「アルティシア――お前の母を狙った公国の伯爵の名だ」

 エスクード侯爵は静かに告げた。

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