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【完結】侯爵家の婚約者  作者: やまだ ごんた


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逢瀬

お読みいただきありがとうございます

 イレリアが怯えていたところでカインはやってこなかった。

 代わりにアレッサの代わりの侍女が寄越され、イレリアの身支度を整えだした。

「アバルト公子にはカイン様から承諾のお返事を出されたと聞いております」

 侍女はイレリアの身支度を整えながら、そう言った。

 どういう事だろう。イレリアがアレッサを折檻した事は耳に入っているだろうに。――本格的に見限られたのだろうか。

 いや、それなら代わりの侍女を寄越してロメオの元に送り出すはずがない。

 使用人の一人や二人、鞭打ったところでそれは貴族の日常なのだろう。やはりカインにとって一番大事なのは自分なのだ。

 イレリアは気を持ち直すと、侍女に身を任せて支度が終わるのを待った。

 ロメオからの初めての招待だった。これまでは昼食会や夜会、茶会のついでに会っただけで、二人きりで会ったことはなかった。

 ロメオも自分に好意を持っているのだろう。そうでなければこの様な誘いはしてこないはずだ。もし、カインが自分を見限っても、ロメオならきっと自分を迎え入れてくれるに違いない。

 アバルト邸に到着する度に出迎えてくれるロメオの姿や、自分を見つめる熱っぽい目、腰や肩に回された逞しい腕を考えると、イレリアは胸の奥が熱くなった。

 そして、予定より若干早く迎えが来ると、イレリアは獣車に乗り込み、そこにいた人物に驚いた。

「ロメオ様――」

「やあ。少しでも早く君に会いたくてね」

 カインに似た雰囲気の笑顔に、イレリアの胸は締め付けられるようだった。

 アバルト侯爵家へ向かう道中、天気や窓から見える風景など他愛ない話をしながら、イレリアを見つめるロメオの目はとても真剣で、イレリアは胸が幸せな苦しさでいっぱいになっていた。


 獣車はアバルト侯爵邸に到着すると、先に降りたロメオがいつものように手を取り、イレリアが降りるのを手助けしてくれたが、いつもに増して緊張したイレリアは踏み台を踏み外し、ロメオの胸に倒れ込んでしまった。

 咄嗟に抱き締められたロメオの胸は、広く厚みがあり逞しく、イレリアを抱く腕に力が込められた気がした。

「申し訳ありません――」

 何とか態勢を整えようとするイレリアを、ロメオは軽々と抱き上げると、まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に優しく、イレリアを着地させた。

「お怪我はありませんか?」

 エスコートする腕を差し出しながら、ロメオがいたずらっぽい笑みでイレリアに尋ねた。イレリアはその腕をとりながら、言葉を発することができず、ただ首を横に振るだけだった。


 アバルト侯爵家のサロンは、女主人がいる為か明るい色で装飾され、季節の花が美しく飾られて華やかな雰囲気だった。重厚で落ち着いた雰囲気のエスクード侯爵家とは全く違う雰囲気に、イレリアはこっちの方が自分に相応しいと思った。

 ロメオは話が上手で、領地の話や子供の頃のいたずらや、冒険の話を面白おかしく話して聞かせてくれた。

 向かい合って座っていた席はいつの間にか隣同士になり、イレリアはロメオの息遣いが聞こえる距離に戸惑いながらも、話に聞き入っていた。

「――ティン=クエンのせいで僕たちはそれぞれの両親から大目玉を食らったってわけさ」

「本当に三人は仲がよろしいのね。ティン=クエン卿にはお会いしたことはないけど、とても愉快だわ。お会いしてみたいわ」

「そのうち会えるさ。会う機会はいくらでもあるからね」

 含みを持たせたロメオの言葉に、イレリアは手応えを感じた。やはり、ロメオは自分に想いを寄せているに違いないと。

「しかし、あの日は本当に君がいて助かったんだ。君がいなければ僕たちは愛すべき従兄弟であり親友を失っていたんだから」

 ロメオはそう言いながらイレリアの手を取ると、その手の甲に口付けを落とした。「これは――僕からの感謝だ」

 イレリアはロメオが口付けた所が熱を持ったように熱くなるのを感じた。

「あ――あの日は師匠に付き添って前の日からオルフィアス領に薬の納品に行ってたんです。珍しく領地に一泊して、師匠がオルフィアス伯爵に用があるから一人で先に帰るよう言われて、その帰りに――」

「オルフィアス伯爵に?」

 ロメオの目に鋭さが宿り、イレリアは急に恐怖を感じた。

「え……ええ。師匠は普段は貧しい人達に安く薬を売っているのですが、オルフィアス伯爵の奥様がご病気らしくて、その薬を作れるのは師匠しかいないからと、時々お薬を届けているんです。そのお礼に貴重な薬草や素材を融通してもらっているんだと」

 ロメオはイレリアの手を握ったまま、「それはいつから」と尋ねた」

「私が師匠のお手伝いをしだした頃には、もう――」

「薬師はオルフィアス領の出身なのか?」

「が――外国だと聞いた事があります……王国へは償いを求めてやってきたのだと……」

 イレリアはロメオの剣幕に慄き、震える声で答えた。

「教えてほしい、イレリア。君の師匠は魔法が使えるのか?」

 イレリアは男達に襲われた後、護身用にとスクロールを数枚持たされたことを思い出した。こんな高価なものは受け取れないと断ったが、「私が作ったものだ。元手はかかっていない」と言ったのを思い出した。

 その表情を見て、ロメオは確信した。

「君は――その薬師と肉体関係を持ったことがあるね?」

あと10話で完結です。

あと少しお付き合い頂けたら幸いです。

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