表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】侯爵家の婚約者  作者: やまだ ごんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/78

行き違い

お読みいただきありがとうございます

「ジルダが――」

 カインの呟きにロメオは頷いた。

「魔力吸収の時に注意深く探っていたそうだ。魔法の残滓だと気付いたが、確証はなかったんだろうね。僕に君の魔力を渡してイレリア嬢が反応するか確かめてほしいと言ってきた。もしジルダがイレリア嬢にカインの魔力を使って魔法をかけたならそんな事はしないだろう」

「それで――結果は」

 カインの問いにロメオは可笑しそうに唇を歪めて「効果てきめんだったよ」とだけ言った。

 詳細を聞かなくてもわかる気がした。

「しかしカイン――これは単なる色仕掛けなんかじゃない。とても周到に張り巡らされた仕掛けだよ」

 ロメオは真剣な顔でカインを見た。

 カインがイレリアと恋に落ちる為には出会わなければならない。

 自然と出会うのであれば貴族令嬢が適しているが、魅惑の能力を持つ者が貴族にいなければ意味はないし、貴族の令嬢は――一部を除いて――婚前交渉など行わないし、ジルダとの婚約を知っている以上、カインには近付けない。

 ならば貴族のしがらみなどなく、必然的に出会う切っ掛けを作ってやればよい。

「街道の魔法陣――」

 カインは顔をあげ、ロメオも目を見開いた。

「しかし、イレリアは偶然通りかかったと言っていた」

「イレリア嬢にとっては偶然だろうが、仕組んだ奴にとっては必然なんだろうよ」

 ロメオの言葉にカインは反論の余地もなかった。

「カイン。忘れるなよ。イレリア嬢も被害者だ。お前を裏切ったわけでも騙したわけでもない。――ただの道具だったんだ」

 その言葉がカインには一番の衝撃だった。

 そうだ。被害者は僕だけじゃない。イレリアも僕を好きになるよう操られ、運命を捻じ曲げられたんだ。

 カインは膝の上で拳を握り締めた。

「とにかく、君はこれ以上イレリア嬢と会わない方がいい。また取り込まれては大変だ」

 イレリア嬢には自分から聞くと、ロメオは胸を張った。

「僕は君と違って心が弱くないからね。あの程度の魔法にはかからないさ」

 親友の意地の悪い笑顔を見て、やはりティン=クエンの従兄弟だなとカイン改めて思った。

「それで――」

 ロメオは茶を飲みながら、カインを見つめた。

「君が話したい事を聞こうか」


 カインは農場で会った貧民街の女性との会話をロメオに言って聞かせた。

「イレリアがいなくなってすぐに、炊き出しが開始されたそうだ。彼らは最初はイレリアが寄越したと思っていたそうだが、イレリアなら自ら出向いて、手ずから炊き出しを行うはずだと」

 イレリアでない事はすぐに気付いたが、それでも篤志家の支援は細やかで、貧民街の住民相手でも丁寧な態度で一人一人の様子を見て回り、必要な支援を調査していった。

 その細やかな心配りと慈悲に、貧民街の住民達は顔も知らない篤志家を慕うようになっていったという。

 女性は農場で働く傍ら、エスクード侯爵家の持つ商団の倉庫の掃除などの仕事もしていた。そこで以前見たと言うのだ。

 今回の騒ぎの発端となった、粗野な言動の男の姿を。

「あたしが広場に行った時には、誰かが水をぶっ放して騒ぎが収まった後なんですがね。走っていく男達の中に、商団で良くしてくれた旦那さんがいましてね」

 女性は住民達から事情を聞いて、驚きを隠せなかったと言った。そして、この事は誰にも言ってはいけないとも思ったと。

 粗野な男は普段は領地の港で仕事をしており、首都に来るのは年に数度ほどだった。言動は乱暴だったが、自分達に対しても決して暴力は振るわなかったし、人間扱いとまではいかずとも、仕事終わりにはぶっきらぼうに食事の残りのパンや干し肉を分け与えてくれた事もあり、女性は覚えていたと言う。

「確かに、あの人達が用意したものは私らには持て余すもんでしたがね――平民だったら涙を流して喜ぶ様なもんばかりでしたよ」

 あの男は貧民街の暮らしをわかっていなかった。だから平民の感覚で食い物を選んだりしていただけなのだろうと、女性は付け加えた。

 あれは扇動などではなかった。あの人は態度は粗暴だが、他の人たちを同じように自分たちを虫けらのように扱うような悪い人ではない。住民達もイレリアの名を出されて頭に血が昇っただけだ。ただの気持ちが行き違った事故だったのだと、女性は一生懸命カインに訴えた。

 話を聞いて、商団の倉庫を覗きに行ったカインは、件の男を見つける事は出来なかったが、顔や体に打撲痕を持つ男達を数人見つける事ができた。

 その事実に頭が真っ白になったカインは、急いでアバルト侯爵邸に向かったという次第だった。


「うちの人間だったよ――」

 カインは頭を抱えて絞り出すような声で言った。

「ウチの商団の人間を使えるのは、うちの人間だけだ――そして、ヨルジュ……イレリアの侍従はうちの商団から連れてきた男だ」

 カインの中でイレリアへの想いが決定的に崩れた。

「カイン、落ち着くんだ。不幸な事故だってその女性も言ってたんだろ。――確かに結果は最悪だが、行為自体は善意からくるもんだろう」

 ロメオの言葉にカインは首を横に振った。

「違うんだ。ロメオ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ