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【完結】侯爵家の婚約者  作者: やまだ ごんた


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愛の真実

お読みいただきありがとうございます

 ロメオは続けた。

「そして最後にイレリア嬢にかけられていた魔法だが――カイン。君を愛する魔法だ」

 カインはもう何も感じなかった。これまで愛だと思っていた事が、全て作られたものだったのだ。

「これらの魔法はとても弱く、()()()()感じるのが精一杯というレベルだ。母上でさえ3度もイレリアに会う必要があったからね」

「子宮――か」

 カインの問いかけにロメオは頷いた。

 イレリアと初めて結ばれた時、イレリアは処女ではなかった。

 貧しい女性は体を売って日銭を得る事もあるのだと聞いた事があったし、盲信的にイレリアを愛していたカインにとってそんな事は大した問題ではなかった。

 思えば体を重ねてからだった。イレリアに執着するように愛するようになったのは。体を重ねる度にイレリアを欲し、この世の全てが彼女しかいないとさえ思えた。そして、ジルダへの嫌悪を募らせていた――。

「イレリア嬢の魔法には、カインの魔力に惹かれるようカインの魔力を織り交ぜられていたよ」

 ロメオの言葉に弾かれるようにカインは顔をあげた。

「僕の魔力だと――」

 カインの魔力を使って魔法を織るためには、魔法陣にカインの魔力を注ぎ込む必要がある。しかし、カインは仕事以外で魔法陣に魔力を注ぎ込んではいない。

 魔力を吸収した能力者であれば、可能かと思われたが、通常は吸収した魔力は、その能力者の魔力に直接変換され、元の魔力の形を留めない。それが出来るのは唯一――

「ジルダ――」

 カインは胸元の青い宝石を握りしめた。優しい温かさが手の中にある。

「いや――ジルダがするはずがない」

 カインはロメオの目を見てはっきりと言った。

 自分がこの10年間してきた仕打ちを考えると、ジルダが自分を恨んで魔力を提供していたとしてもおかしくはない。

 だが、手の中の優しい温かさが否定していた。

「もちろんジルダじゃないよ。まぁ一番疑わしいけどね」

 ロメオは茶を一口飲むと、すっかり冷めている事に気が付き、新しい茶を淹れさせた。

「ジルダは決して君を裏切らない。イレリア嬢がなぜ君といられると思う?」

「それは――僕が愛しているし、父上もお認めになったから――」

 ロメオは新しい茶をカインに勧めた。花の香のする紅茶に、乳と蜂蜜をいれたものだ。

「ジルダが侯爵に頼み込んだんだ」

 カインは理解が追い付かなかった。


 エスクード侯爵は息子が貧民街の女性に入れ込んでいる報告を受けて、どう対処すべきか考えていた。カインとて若い男だ。若い頃の自分がそうだったように持て余す情熱もあるだろう事は理解していたので、貧民街に頻繁に通っている事は黙認していた。外で会う分にはごまかしようはいくらでもある。しかし、侯爵邸に連れ込み生活を共にするとなると話が違う。

 結婚前の貴族の振舞としては勿論恥知らずな事この上ないが、それ以上にジルダを蔑ろにする息子を許すわけにはいかなかった。

 侯爵はジルダには返しても返しきれない恩があるからだ。

 だが、ジルダは王宮で侯爵に膝をつき侯爵に願い出た。

「彼の方とおられる間のカイン様は魔力が安定しておられます。無理に離すと心が不安定になり魔力溢れ――最悪は暴走を引き起こす恐れがあります。どうか、お二人が共にいる事をお許しください」

 ジルダがそう言うのなら、侯爵は頑なに反対することはできなかった。

 ジルダは侯爵が渋々納得するのを見て、顔をあげた。

「カイン様の魔力は安定はしておりますが、気になる事があります。――何かが混ざっています。とても僅かで正体は掴めませんが、彼の方と――その、関係をお持ちになってからなのは確かです」

 ジルダは言い辛そうに口ごもりながら侯爵に告げると、侯爵はジルダを見た。

「つまり――その何かを探り解決策を見つけるまでは、カインの好きにさせておけと言う事なのだな」

 今度はジルダが頷いた。

「はい。そしておじ様はなるべく彼の方にお近付きにならないようにしてください。彼の方はおそらく精神に作用する魔法を使われているはずですので」


「――そんな。では、ジルダは最初から全て承知していたと言う事なのか」

 カインの問いにロメオは頷いた。

 イレリアといる間の自分はおかしいと気付いたのは夏の月に差し掛かる頃、ティン=クエンに心無い事を言い放ち、ロメオに叱責された時だった。

 よもやと思い、ロメオにイレリアを調べるように頼んだのはカイン本人だった。

 そして、イレリアと少しでも距離を置こうと決めたが、イレリアと会えないと気が狂いそうなほど心が乱れ、向かい合うとその体に縋り付きたくなる衝動がカインを苦しめた。だが、それこそがイレリアが原因だという唯一にして決定的な証拠だった。

 イレリアを欲する衝動は、日を追うごとに弱まっていったが、あの日。

 イレリアの涙を見て心が乱されたところを、イレリアに触れられ、抑制ができなくなりイレリアを貪るように求めた。

 全ての苦労が無に帰したと思われたが、イレリアのあの笑み――母や貴族が浮かべる感情の無いあの笑みを見た途端、自分の中で何かが弾けた。

 あんなに愛しいと思っていたイレリアが気持ち悪い他人のように思えたのだ――

「僕はね、カイン。ジルダからも一つ頼まれごとをしていたんだよ」

 カインはロメオを見た。もう何を聞いても驚かないつもりだ。

「カインの魔力を纏ってイレリア嬢と接する事だ。驚いたよ。母上がイレリア嬢にかけられた魔法を解析する前に、ジルダは気付いていたんだ。――イレリア嬢がカインの魔力に惹かれるよう魔法をかけられている事にね」


ラストまであと15話です。

ここまでお付き合いくださりありがとうございます。

ラストまでお付き合い頂けたら幸いです。

よろしくお願いします。

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