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東美晴の怪奇録 第二巻   作者: 箱天天音/hakoten amane
1/1

〜桜散る緑の季節に〜


第三の録 『琥珀川と晴明』


夢を見た。懐かしい夢。心が苦しい。()()()のことを考えるといつもそうだ。あの人は今どこにいるのだろう。あの人に会いたい、一眼でいいから。そして、謝りたい――


 「ねぇ、琥珀川」

 美晴が琥珀川のことを呼ぶ。そしてテレビを見ていた琥珀川は『なんだ』と返事をする。そう言うと美晴が

「そういえば琥珀川ってさ。平安時代の陰陽師だったんでしょ」

 と言ってきた。

「あぁ、そうだが。それがどうかしたか」

 と琥珀川が言うと

「んじゃあさ、安倍晴明に会ったことあるの?」

 と言った。

「あぁ、あるぞ。と言うより、晴明は俺の親のような人だ」

 と言うと立て続けに琥珀川が

「そうだ、美晴。今から晴明神社に行くぞ。俺も久しぶりに晴明に会いたいと思っていたところなんだ」

 と言って、美晴と琥珀川は晴明神社に足を運ぶのであった。

 

 バスを降りて一の鳥居をくぐり、二の鳥居をくぐろうとした時、衝撃的な物を見た。四神門(しじんもん)が閉まっているのだ。

 これでは晴明に来るなと言われているようでなんだか嫌な気持ちになる。

 とかなんとか考えていると琥珀川が笑って

「美晴、安心しろ。来るなとは言っておらん。ただ少し待てと言ってるだけだ」

 と言う。すると突然何処からか声が聞こえてきた。

「久しいな、琥珀川。お前と会うのは何年ぶりだ」

 と。

 美晴は『えっ、この声が晴明の声』と思う。

「あぁ、そうだな。お前と会うのは十二年ぶりか……式神よ。」

 えっ、と美晴は思う。『なんだよ、この声晴明じゃ無いのかよ』と。

「それより式神。門を開けてくれないか」

 と言うと式神が、

「あぁ……そうだな。おい琥珀川。今の晴明様は少しご機嫌斜めだぞそんな時に晴明様と会っていいのか」

 と言いため息をつきながら、

「まぁ、がんばれよ……こちらは新しい琥珀川の(あるじ)さんかな?新しく主が変わったと聞いていたが、歴代の中で一番琥珀川の好みな女ではないか」

 と言ってきた。

 美晴は『えっ、マジかよ。やば』と思ったが、そこには突っ込まないことにした。

 「まぁ良い。門を開けるように、晴明様に説得してくる。ちょいと待て」

 と言い、式神の気配が消える。

 そして二分後、門が開いた。

「行くぞ」

 と琥珀川が言い、ズカズカと本殿に向かう。そして本殿に着き、本殿の屋根に顔を上げ、一言

「晴明様。琥珀川天流でございます。御姿をお見せください」

 と言った。

 すると何処からか低い声で

「琥珀川ぁ……」 

 と聞こえてきた。その声は怒っているような声だった。その声を聞いて琥珀川が

「何を怒っていらっしゃるのです?お話なら聞きましょう。どうぞ、御姿をお見せください」

 と言った。

 琥珀川が言っても音沙汰(おとさた)が無い。

 そうすると琥珀川が

「おい、美晴。最終手段だ。参拝しろ。そして心の底から『晴明様、御姿をお見せ下さい』と願え」

 と言った。

そうすると突然、東の方向に向かって風が吹いてきた。

そして琥珀川が少し声を張って言う。

「おい!美晴。晴明様だ!東の方向を見よ!」

 と。

 『えっ』と思いながら東の方向を見ると、本当に晴明がいた。

 『うわ、この人が安倍晴明か……』と思っていると晴明が口を開く。

「琥珀川ぁ……お前……」

 怒られると思ったのか琥珀川が半歩後退りする。

「おい琥珀川……お前、あいつが新しい解決役か……」

 そう晴明が言う。それに対して琥珀川は

「そうだが、それがどうかしましたか。晴明様」

 と言うと晴明がうっすら笑みを浮かべて

「歴代の中で一番お前好みの女だな」

 と言った。

 『またその話か……』と美晴は思った。そんな事を思っていると晴明が

「まあまあ、そう拗ねるでない。そうだ、こんな所で立ち話とはなんだ、中に入って話をしようではないか。新しい解決役とも話がしたい。遠慮なく入れ」

 と言って美晴は普段は滅多に入れない本殿に上がれることになったのだ。

 本殿は外からの見た目のような空間では無く、まさに平安時代の殿上人(てんじょうびと)の屋敷のような所だった。

 酒や魚、果物などが出てくる。晴明は遠慮せずに食えと言うがこれは全て供えられた神饌(しんせん)だと言う言葉を聞いてあまりいい気に食べれなくなった美晴に、晴明が話しかける。

「そういえば、解決役よ。お前の名前はなんと言うのだ?」

 そう晴明が言った。

「ん……私の名前ですか?」

 と美晴が言うと、晴明は

「そうだ。というよりお前以外で解決役の人間がいるのか?」

 と言った。

 ここで美晴は思う。『あれ……そう言えばこれ、優馬ってどういうポジションだ……』と。

「えぇっと……まず私の名前は東美晴と言って……私の他に一人寺内優馬という……助っ人的ポジションの人がいます」

 と美晴は晴明に言った。すると晴明は

「そうか。助っ人として一人いるのか」

 と言った。

 続けて晴明が何か言いにくそうに

「実はだなぁ、琥珀川、美晴。折言ってお願いがある」

 と言った。

「なんですか?晴明さん」

 と美晴が言うと晴明は

「……実はな。会いたい人がいるのだ」

 と言った。

『なら普通に会いに行けばいいじゃない』は思う。

 そう思っていると琥珀川が

「なら晴明様、何も我らに相談せず会えば良いではありませんか?」

 と言う。『琥珀川……よく言った』と心の中で美晴が言う。それに対して晴明は少し顔を赤らめながら

「それが出来ればとっくにやっておるわ。わしも会おう会おうと思うて探しておるが見つからんのじゃ」

 と言う。そして美晴が少し考えて

「わかりました。晴明さん」

 と美晴が言う。そして続けて美晴が

「それで、晴明さんの会いたい人とは誰なんですか?」

 と言うと晴明が恥ずかしそうに

「――さまだ」

 『えっ。なんて言いました?』と美晴が聞き直すと晴明が

「お母様だ!恥ずかしいから何度も言わせるな!」

 と叫ぶ。すると琥珀川が

「ほほぅ。晴明様のお母様ですか。それでは葛の葉(くずのは)様に会いたいと?」

 と言うと晴明は、

「あぁ、そうだ」

 と言った。

 それから少しして、晴明と別れ美晴は図書館へと向かった。

「えぇっと、なになに~。『葛の葉伝説とは葛の葉は、伝説上のキツネの名前。葛の葉狐、信太妻、志田の妻(しだのつま)とも。また葛の葉を主人公とする人形浄瑠璃および歌舞伎の蘆屋道満大内鏡あしやどうまんおおうちかがみも通称「葛の葉」として知られる宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)の第一の神使であり、 安倍晴明の母とされている』か。うーん、よくわかんな~い」

 と美晴が呟く。

 結局、一時間程図書館にいたがなんの成果も得られなかった。


 「ただいま~優馬(ゆうま)桜狐(さき)

 そう言って美晴は茶の間のテーブルの座る。

「おかえりなさい。美晴さん。夕御飯もう少しでできるのでちょっと待ってて下さい」

 台所で夕飯を作っていた優馬が言う。

「あぁ、まって優馬。手伝うよ。二人いた方が早いでしょ」

 美晴が言う。

 食事や家事などは基本日替わりでやるというのが同居のシステムなのだが、この頃最近は優馬に任せっきりで罪悪感を感じていた所だった。

 それに対して優馬は

「あぁ、いや、いいですよ。美晴さんはそこで待ってて下さい。こっちには桜狐がいるんで、もう充分です」

 と言った。

 それから少しして、夕御飯が出来上がった。

「はい。どうぞ。今日の夕御飯はチキン南蛮です」

 そう言って優馬がテーブルにおかずであるチキン南蛮とご飯、みそ汁を置く。

 いただきますと言い、おかずに手を伸ばす。

「んー!おいしぃ。やっぱり優馬の作るご飯は美味しいよ。ありがとう、優馬」

 そう美晴が言う。

「そうですか。ありがとうございます」

 そう言って優馬が照れる。

 それから少しして夕御飯を食べ終わり、皿洗いの手伝いをしてフリータイムとなった美晴は今日の晴明神社での出来事を優馬に話した。

「――ってことになったのよ。分かった、優馬」

「はい。一応」

 と優馬が言うと美晴が首をがっくりと折り

「はぁ、マジでどうしたらええんかなぁ。明日から平日、仕事行かなくちゃならへんのに……はぁ」

 とため息をつく。すると優馬が、

「じゃあ平日は俺が調べて、休日は美晴さんが調べるってゆう感じでどうですか?」

 と言う。それに対して美晴は

「えっ……優馬、大丈夫?優馬は社長さんやろ?うちよりずっと忙しいんとちゃうか?」

 と言う。優馬は大丈夫ですと言わんばかりの顔をして

「いや、この時期は繁忙期でもないし、大丈夫です」

 と言う。

「そうなんだ。じゃあ、そういう感じでおねがい」

 そう美晴は言うのであった。

 それから少し日が経って、夕御飯を食べ終わったタイミングで優馬がパソコンを使いながら調べたことを報告してくれた。

「まず、葛の葉(くずのは)って言うのは伝説上の狐で伏見稲荷大社の主祭神である宇迦之御魂神の第一神使(だいいちしんし)なんです。そしてその葛の葉さんは安倍晴明のお父さんであり、これまた伝説上の人物の安倍保名(あべのやすな)と恋仲になる。そしてその二人の間に生まれたのが今回の件の依頼人である安倍晴明なんですって」

 さらに優馬は続ける

「ちなみに葛の葉は現在の大阪府和泉市(いずみし)にある信太の森(しだのもり)に住んでいて、保名が信太の森を訪れた際、狩人に追われていた白狐(びゃっこ)を助けた際に怪我をしてしまい、その介抱をして家まで運んで見舞ったのが保名が狩人から助けた白狐の葛の葉らしいんです」

 そう優馬が言う。

「ふーん、そうなんだ。ありがと、優馬」

 そう美晴が言う。

 『よし。休日の予定は決まったな』そう美晴は思った。

 美晴が優馬を呼びかける

「はい」

 そう優馬が言うと美晴は

「今週末は大阪に行って信太の森で現地調査するよ。あとちょっと息抜きで大阪旅行でもしよ。今週末は三連休やから、ちょうどええよ」

 そう言った。

 

 そして休日の土曜日、さっそく美晴達は大阪に向かった。京都駅から大阪駅まで電車で向かったのだが、琥珀川達と桜狐が電車内でおおはしゃぎし、朝から疲れる移動であった。

「ふぅー。着いたー」

 大阪駅に着いた時、美晴はそう言って背伸びをした。

「美晴さん。まだまだですよ」

 そう言って優馬がため息をつく。

 美晴は『そりゃあそうなんやけど本当のこと言わんでおくれ』と思った。

 それから少し移動をして、やっと信太森神社に着いた。

「ここかー」

 そう言って美晴は辺りを見回す。神社名に森と入っているだけあって森がもりもりとしている。

 ここで一つ美晴はひらめいた。ここは信太森神社、葛の葉の家のような所なのだから一生懸命祈ったら出てきてくれるのではないかと。

「優馬」

 美晴が呼びかける。

「今から一生懸命『葛の葉さん出てきてください』って祈るから優馬も一緒にやって」

 そう言うと琥珀川が呆れた顔をして

「そんな事で出てくれるわけなかろう。相手を誰だと思っとるのだ?宇迦之御魂の第一神使だぞ」

 と言われると美晴が琥珀川の方を睨み

「そんな事やってみなくちゃわからないでしょ。なんか奇跡が起こって出てきてくれるかもしれないし」

 と言った。

『桜狐、おいで。一緒にやろう』と優馬が桜狐を誘って、美晴と優馬と桜狐で出てきてくれないかと祈ることにした。

 何分経っただろうか。音沙汰がない。そのうち他の参拝客がやってきて『何をこの人らはこんなに熱心に祈っているんだ』と思われそうなため美晴達は潔くやめておいた。

「なんだ、もうやめたのか?」

 そう琥珀川が言ってくる。それに対し美晴は

「そうよ。渋々ね」

 と返した。

『これからどうしよう』美晴はそう思った。息抜きに大阪旅行とは言ったがこんなに早く調査が終わるとは思っていなかった。まぁ調査らしい事はしていないが、それでも何か解決の糸口が欲しかったと美晴は思った。

「図書館にでも行って調べてみる?」

 そう美晴が言うと優馬は

「いや……そんな事しても意味ないと思います」

 と言う。美晴が『なんで』と問うと優馬は

葛の葉(くずのは)伝説って大体は前言ったような感じの話なんですよ。だから結局はなんの解決の糸口も見つからないと思いますけど……」

 そう言った。

「ところで美晴さん。こんなのはどうでしょう」

 優馬が言う。

「まず一つ目に、そもそも葛の葉は伏見稲荷大社に御祀りされている宇迦之御魂の第一神使なんですよね、ならば伏見に行って宇迦之御魂神にお願いしたらどうですか?そして二つ目に、稲荷神の神使、すなわち眷属(けんぞく)なので姿は狐のはずです。ですので狐の好物を供えて、そしてそこに捕獲用の罠を仕掛けておく、ってのはどうでしょうか?」

 そんな事を言ってくる優馬を心底考えが幼稚な人だなぁ思っていた。

 だが、やってみなければ進展も何も無いのでとりあえず帰ったらやってみようと思う美晴であった。

 次の日からは大阪観光となり、とても楽しかった。桜狐はもちろんのこと、琥珀川と(てん)達も大阪は初めてらしく、人間である美晴と優馬よりも、神である琥珀川達の方が大阪を楽しんでいた。


三連休最終日、美晴達は京都に戻り伏見稲荷大社に行って宇迦之御魂にお願いをしに行った。

 『お願いします、宇迦之御魂神様。葛の葉さんに合わせて下さい』一生懸命お願いした。

 すると突然、強い風が吹いてきた。

 美晴達が目を開けるとそこには……何も居なかった。

『なんだ。何も無いのかよ』そう美晴が思っていると一つ、おかしな事に気づいた。静かなのだ。空間が。

『えっ』と思い後ろを振り向くと……今までいた参拝客が一人もいないのだ。

「えっ……何これ」

 と美晴が呟く。

 幸い優馬や琥珀川達はいる。

『よかった。優馬はおるな』そう思っていると優馬が本殿の屋根を指差して言う。

「美晴さん!あれ、葛の葉さんじゃないですか」

 と。

 『マジで』と思いながら指の指す方向を見ると確かに誰かいる。

 琥珀川にあれは葛の葉かどうかを尋ねる為、琥珀川の方を見ると、美晴は確信的なものを見た。琥珀川達と桜狐が平伏しているのだ。

 正直言って稲荷神の中での琥珀川達の位がどれ程の物か分からないが、白菊命婦の事を様づけではなく呼び捨てで呼べるのだからそれなりに高いと思っているが。

 とかなんとか思っていると、屋根にいた葛の葉らしき人物がジャンプをして美晴達の背後に着地した。

 「琥珀川、添、鈴、華、白蘭、そして桜狐。おはよう」

  そう葛の葉らしき人物が言うと琥珀川達は口を揃えて

「おはようございます。葛の葉様」

 と言った。

 『よし』と美晴が思う。いや、優馬もそう思っていた事だろう。

「あの!葛の葉さん。あなたに会いたいと思っている人がいるんですけど」

 美晴がそう言うと葛の葉が美晴を睨みながら

「おい人間。口の聞き方には注意したまえ」

 と言った。

 美晴が謝ると続けて葛の葉が

「まぁ良い。それでなんだ。(わらわ)に会いたいという人がいると?」

 と言う。

「そうなんです。あなたの子ども、晴明が会いたいと言っているんです」

 と言うと葛の葉が少し首を傾げて

「晴明?……あっ、童子丸(どうじまる)のことか。」

 童子丸とは安倍晴明の幼名だ。

「はい。会っていただけますか。晴明に」

 と美晴が言うと葛の葉は少し考えて

「あぁ、よいぞ。お前ら、信太森神社に行ったらしいな。宇迦之御魂様が会ってやれとうるさいから出て来てやったのだ」

 と言った。

 それから少しして、葛の葉含め美晴達は晴明神社へと足を運んでいた。

 一の鳥居を通り、二の鳥居である四神門の中央に晴明がいた。気づけば美晴達以外の参拝客がいなくなっていた。      

「お母様‼︎」

 と晴明が叫ぶ。そのままスタスタと葛の葉の方へ小走りで行き目の前で立ち止まり一言、

「お母様、今までどこにいたのですか?散々探しましたよ」

 と言った。それに対して葛の葉は

「知っている。それに……お前が探し回ったところ全てにおったぞ」

 と言う。

 晴明がポカンという顔をして

「では何故出ていらっしゃらなかったのですか」

 と言うと

「いや、ただ改めて出るとなると恥ずかしくて出なかっただけだ」

 と言う。

『ただ……それだけで』と晴明が言うと葛の葉も『あぁ、ただそれだけだ』と言った。


 「ふぅ~。これで一件落着ってことやな」

 晴明神社の帰り道美晴はそんな事を言った。

「えぇ、そうですね。美晴さん」

 と優馬が返す。続けて優馬が

「大阪旅行、楽しかったですね~」

 と言う。

「うん。楽しかった」

 そう美晴が言うと優馬は少し何かを言いたそうにしている。

美晴がどうしたのと尋ねると優馬は

「いや、なんでもありません」

 と言った。

「そう言えば美晴さん」

 優馬が言う。

「蝉っていつから鳴くようになりましたっけ?」

 と優馬に聞かれて耳を澄ますと確かに蝉の声が聞こえる。

「あぁ……大体、三日前くらいから」

 と美晴が言うと優馬はそうですかと頷きながら言った。

 そんな事を言いながら優馬は思っていた。

(言えるわけないよなぁ。俺が美晴さんの事、好きだなんて)

 もう季節は夏。梅雨が明け、夏本番がもう少しでやって来る所に、美晴へ密かに想いを寄せる人がこんなに間近にいる事を美晴はまだ、知らなかった。


チョコっとブレイク 『忍び寄る影』


 ある日の晩の事である。

 とある所にある大きな屋敷で、ある一人の女性が神楽を踊っていた。

 その女性の名は――高月桃香(たかつきももか)

 彼女の家は鬼の保護と監視をしている。

 その神楽は高月家で管理されている鬼のための舞なのか、はたまた()()()()()に操られた舞なのか、それは桃香しか知らない。

 だが、見渡す限り桃香と演奏団の周りには鬼は一人もいない。

 すると突然、桃香が天を仰ぎ

浦松(うらまつ)様よ!我に全身全霊を尽くしてお力を‼︎」

 と叫ぶ。

 そして叫び終えた瞬間、雷のようなモヤのような物が桃香の体を直撃する。

 ふらふらっとなった桃香の体を近くにいた高月の家の者が支える。

「大丈夫ですか!()()()

 桃香の体を支えた者が言う。

 すると桃香はうつらうつらと眠たそうな目をして

三輪(みわ)……私は――誰に見える?」

 と言った。


 話は変わり、これまたある日のことである。

 会社でお昼ご飯休憩をしていた美晴に、こんなメールが届いたのだ

『美晴ちゃんへ、突然ごめん。だけどもう限界。誰かに話を聞いてほしい。この心の中にあるわだかまりを誰かに話したらきっと少しは楽になると思う。美晴ちゃん、お願い。私の話を聞いて。もう美晴ちゃんしかいないの。私の味方は、美晴ちゃんしか。千智(ちさと)より』

 千智、高松千智(たかまつちさと)は小中高校ずっと仲が良かった友達である。優馬と伏見稲荷大社へ京都案内と言う名のデートをした時に千智の母親と出会い、千智が鬱のような状態になっていると言われ心配していたが、なかなか連絡が取れずにいた。

 そんな中でのこのメール、美晴は今がチャンスと思い千智へ電話をした。そして今週の土曜日に千智の家へ行って話を聞く約束を取り付けたのである。


第四の録『千智の鬱と怨霊』


ピンポンとインターホンの音が聞こえる。お客さんが来たようだ。『あぁ、高松さん。こんにちは、千智……いますか?』という美晴の声が聞こえる。『やった、本当に来てくれた』そう千智(ちさと)は思った――


 ガラガラという音を立てて玄関の扉が開く、

「あぁ、高松さん。こんにちは、千智……いますか?」

 そう美晴が言うと高松は

「わぁ、美晴ちゃん。本当に来てくれたんや。嬉しい。ありがとな。千智は自分の部屋にいるから。あぁ……そうやな、案内するから上がって上がって」

 と言う。

 テクテクと階段を上がって千智の部屋に行く。高松がコンコンとノックをし『千智、美晴ちゃんだよ』と言うと静かに扉が開いて

「入って……」

 と言う沈んだ千智の声が聞こえた。

 美晴が部屋に入る瞬間、高松が小声で『なんかあったら教えて』と言われた。別に小声で言う事なのかと思いながら頷き部屋の中へ入っていく。

 その部屋は薄暗かった。カーテンが閉められ、夏場だというのに寒いと思ってしまうぐらい肌寒く、そして、なぜか息苦しさを感じた。

 なにも息切れや動悸などがあるわけでもない。ただ、ずっとここにいると気が滅入ってしまうような。この部屋だけ少し酸素が薄いような。そんな気がした。

「美晴ちゃん……」

 美晴を呼ぶ声が聞こえる。声からして千智だろう。

 千智を探すとベッドの前に体育座りのような体勢で座っていた。

「わっ!千智。そこにいたの」

 美晴が驚いて言う。そして立て続けに美晴が

「千智……元気……じゃないか」

 と言う。

 それに千智は頷き、

「美晴ちゃんは良いよね。恵まれててさ。良い大学行って、良い所に就職してさ……私なんてからっきし駄目だよ。入社後すぐに上司に怒られるし、いろんなヘマするし、もう駄目かも……本当にさ……」

 その話を聞いて美晴はキュゥと心が締め付けられるのを感じた。正直言って大学に関しては千智の方が上だと思うが。そこは相手を刺激しないように触れないでおいた。

「いや……そんな事ないよ。私だってあの会社入ったばかりのころは色々な人に色々怒られたし、実は私昔の頃本気でやばいミスしちゃって会社潰しかけた事あったし……」

 そんなことを言いながら美晴は思い出したくない事を思い出してしまったと思った。

「それにさ……千智。話は変わるんだけどこの部屋薄暗くない?こんな暗さだったら気持ちも暗くなるよ」

 そう言って美晴はカーテンへ手を伸ばす。

 すると突然、千智が顔を上げ『ダメ‼︎やめて‼︎』と叫ぶが美晴の手は止まることなくカーテンを勢いよく開けた。

 そして部屋の中にサッと入って来る日の光が千智の腕に当たった瞬間――『ギャー!痛いー!』と言う千智の悲鳴が美晴の耳をつんざいた。

「えっ、あっ、ど、どうしたの千智、千智‼︎」

 美晴が呼びかける。千智は『痛い痛い』と言いながら腕をさする。

 美晴が『ちょっとごめんね』と言い腕を見ると――光が当たったと思われる所が赤く(ただ)れていた。火傷をした様な爛れかただった。

 『えっ……どうしよう』と思いながら美晴は部屋に入る瞬間に高松から言われた事を思い出す。『何かあったら教えてね』美晴は『なにかってこの事なのか』と思いながら部屋のドアを開け、高松を呼ぶ。

 高松が来てカーテンを閉める。高松は千智の治療をしながら

「美晴ちゃん、きちんと言ってなくてごめんね」

 と言う。

 一応の処置を終え、千智をベッドに寝かせて、下の階で高松と話をする事になった。

「美晴ちゃん。本当にごめんね。びっくりしたでしょ」

 と言う高松に対して美晴は

「いやいや、カーテンを開けたのは私ですし、私が悪いんです。こちらこそ、ごめんなさい」

 と謝る。そして

「えぇっと、それで一体あれはなんなんですか?前に千智が鬱だっている事は聞いてますが、あんな症状鬱に無いですよね」

 と美晴が言う。

「そうなのよ。本当に。ちょうど引きこもり始めた時からそんな感じで、最初は皮膚に発疹ができる程度だったんだけど……だんだん悪化していって、こんな感じ。こんなんじゃ部屋の外にも出れないし家の外にも出られないから困っててねぇ」

 と高松が言う。それに対して美晴は

「今みたいな症状になる前に医者には診てもらいましたか?」

 と言うと高松がため息をつき

「最初の頃と今みたいな症状の頃に診てもらったよ。もちろん、今の症状の時は外になんか出られないからお医者さんに来てもらってね。答えはどれも一緒、『分からない。原因不明』って感じで、皮膚科の先生とか総合病院の先生とか大学病院の先生とか、本当に色々な先生に診てもらったけど答えはどれも同じ、『分かりません』だった」

 と言った。

 『もう本当に、なんなのかしらねぇ。何か悪霊にでも憑いてるんじゃ』と高松が言う。美晴は『悪霊』と言う言葉を聞いた瞬間『これはもしや……人ならざる者が起こした怪異なのか……』と思った。

 それから少し話をして美晴は高松の家を後にした。


「ただいま―。優馬。ご飯今作るからちょっと待ってな」

 家に帰り一目散に夕御飯の支度をする。

「美晴さん……家に帰ってきて第一声がそれですか」

 と優馬に言われる。美晴は『なに、それ以外になんかある』と言ってIHの電源を入れる。

 ふと違和感に気づいたのはそれから少しした時だった。琥珀川がいない。

「あれ、優馬。琥珀川はどこ行ったん」

 と言うと優馬は

「琥珀川さんですか?確か『伏見稲荷の稲荷達と酒飲んでくる。午後五時辺りには帰る』って言ってましたよ。だぶんもう少しで帰って来るんじゃなんでしょうか」

 と言う。

 『なんだ……あいつ。あいつに酒飲む友達っていたんだ』思っていると、ガラガラっと玄関が開き琥珀川が帰ってくる。

「よぉ、美晴。帰ったか」

 と言って台所に一番近い座布団に座る。

 そのまま琥珀川は美晴の顔を凝視し、何やら九字切りの様なものをし始める。そして美晴に向けて五芒星を宙に描き最後に『散ずる』と呟いてそのままそっぽを向いた。

 夕御飯を食べ終わり、暇な時。琥珀川に今日あった事を相談してみた。

「――って事になって、なんかこれは人ならざる者が起こした事なんじゃないかなって思ってさ、一応相談してみたんだけど……どう。関係ある?」

 美晴がそう言うと琥珀川は少し考えて、

「うーむ、美晴。今の時点では判断は難しいが、一般的な鬱の症状では無い事や極端に日の光、そして太陽を怖がる点や日の光に当たると爛れるなどという点では、悪霊に通ずる点があるが……」

 続けて琥珀川が

「その事と何かしらの繋がりがあるかもしれんから言うが、さっきまでお前の神力(しんりき)が下がり穢れていたのだ。」

 と言うと美晴が『神力?何それ』と言う。

 そう言うと琥珀川が

「神力と言うのはだな、読んで字の如く神の力の事だ。我ら神々が人間の憑神になる時はその神の唾液と神力を主となる人間に吹き込むのが憑神契約の仕方なのだ。」

 さらに琥珀川が続ける。

「そしてその神力の強さは憑神である神の力によって左右される。美晴の場合は憑神である俺が衣食住や五穀豊穣を司る稲荷神である為、神力の強さは相当だ。という事は、稲荷神の神力でさえも下げ穢す力が美晴が今日行った所にあるのだ」

 と言う。

 美晴はその話を頷きながら聞いて、

「じゃあ、お願い!もしこの事が悪霊うんぬんなら解決したいの、このままじゃ千智が可哀想だよ」

 と言った。そして琥珀川が

「よろしい。だが解決役の規定上、千智という人が美晴に解決してほしいと願い出たという事で良いな」

 そう言うと美晴が頷いた。

 そしてそんな美晴を優馬がじーっと見つめていた。


 それから何日か過ぎ、その日は美晴は有給を取って千智の家にいた。

 今日の最大の目的は千智をどうこうでは無く神力の穢れについてだ。

 美晴は午前中はずっと千智の家にいる。ずっといればその分神力が穢れてくだろうと美晴は思ったのだ。『高松にこれまでの千智の様子やどうして鬱になったかを詳しく聞く』という建前で、今美晴は千智の家にいる。

 「では、高松さん。今日はありがとうございました。千智には今日どんな事を聞かれたかなんて、教えないで下さいね」

 そう言って玄関のドアを閉め、振り返るとそこに白蘭(びゃくらん)がいた。

「うわ!びっくりした。白蘭、迎えに来てくれたの?」

 そう言うと白蘭が

「琥珀川様の仰せ(おお)により、今回の依頼人の家周辺に穢れや神力が下がる程の力のある所を探せと言う事でな。ついでに美晴様のお出迎えして来いとの事」

 と言った。

『そう、ありがとう。白蘭』と美晴が言うと少し照れて『ありがとうございます』と白蘭が言う。『んじゃ、行こうか』と美晴が言って美晴と白蘭は歩き出した。

 「んで、白蘭。なんか千智の家周辺には気になる所あったの?」

 そう美晴が言うと白蘭は少し渋い顔をして

「……実は、依頼人の家周辺には無かったのですが……実はあの家からただならぬ穢れを感じるのです。これは私の自論ですが、今回の件にはその穢れが原因かと」

 と言った。

 えっと美晴は思う。白蘭が言ってることが本当にそうなら千智の鬱や皮膚の爛れなどは全部その穢れのせいだと言う事だ。

 「えっ、白蘭。それ……本当?本当だったら結構やばくない。あとその穢れってきちんと祓ったり出来るの?」

 と美晴が言う。それに対して白蘭は

「あぁ、出来るぞ。せっかくだから我らの特性について話す事にしよう」

 そう言って白蘭は話を続ける。

「最初に我らにはそれぞれ何かに(ひい)出ているのだ。まず共通して言えるのは陰陽術(おんみょうじゅつ)が一つ、そしてそれに加えて琥珀川様は鬼に関する事、(てん)は戦闘、特に剣術などの武器を使った戦闘だ。(すず)も戦闘、だが、添と違い柔術などの体を使った戦闘、そして(はな)は祓う事。悪しきものを祓い清める事に秀でている。ちなみに、あの家は華に祓ってもらおうと思う。そして最後に私、白蘭は人を操る事に秀でているのだ。以上が我らの特性だ。美晴様は琥珀川様に加え我らも使役出来るため、何か困った事があれば名前を言って召雷と言えば我らはすぐに飛んで来るから。早く美晴様にも名前を呼んでほしいものだがな」

 と言った。

 美晴は『これきちんと覚えられるかな』と思いながらこの話を聞いていた。

 その日の夜、白蘭は琥珀川に今日の調査の結果を報告し、琥珀川と白蘭、そして美晴でこれからどうするかを話し合った。

「そうか……依頼人の家が穢れていると。ありがとう、白蘭。では美晴、次の土日のどこかで依頼人の家を祓う事にする。この事に参加するのは俺と美晴。そして華の3人だ」

 そう言った。

 こうして、次の土日の何処かで千智の家を祓う事になったのだ。


 そして日曜日、遂にその日がやってきた。千智の家を祓うのだ。琥珀川は千智の家を見るなり

「これはこれは……結構時間がかかりそうだ」

 と言った。

「ねぇ、琥珀川」

 美晴が呼びかける。『なんだ』と言った琥珀川に対して美晴は

「琥珀川にはこの家、どう見えてるの?」

 そう言った。

「どう見えてるのと言われてもなんとも言えないのだが……家全体の空気が(よど)んでいるように見える」

 と言った。

 「では始めるぞ。美晴、白蘭」

 そう言って琥珀川は何かしらの印を組み『いでよ、悪しき怨霊よ』と叫んだ。すると目も開けられない強さの風がフッと吹いた。そして美晴が目を開けるとそこは――美晴の知らない所だった。そこは洞窟の開けた所のような場所だった。

 そしてその場所は少し肌寒く感じた。そして、息が詰まった。

「おい。見ろ!こいつが元凶だ!」

 琥珀川はそう言って洞窟の壁が少し(えぐ)られていて高台のようになっている場所を指差す。

 そこにいたのは(おきな)の面を被り、浄衣(じょうえ)をきた男か女か分からない人、いや、怨霊だった。

「美晴、今日にしといて良かったな。あと三日遅れてたら怨霊通り越して鬼になってたぞ」

 そう琥珀川が言った。えっと美晴は思って

「鬼になってたらどうなってたの?」

 と言う。琥珀川から帰って来た答えは『高月家の管轄になる』と言った。

「いや……そう言うことじゃなくて、鬼になったら千智はどうなってたのって事」

 そう言うと琥珀川は

「そうだなぁ、人間としての知性、理性、感性、が全て失われ姿は人間だが中身は鬼というものになる」

 そう言った。

「おい…………お前」

 怨霊が口を開く。そして次に琥珀川の方を指差してこう言った。

「お前――栄明(はるあき)だな……」

 そう言うと琥珀川の目の色が変わる。狐色に変わったのだ。最初はゆったりと怨霊の方に近づいていた琥珀川は、だんだんと足のスピードを上げながら怨霊の方に近づいていた。

「琥珀川様!あまり感情的になるのではなりません!」

 華がそう叫ぶ。だがその叫びは琥珀川には届いてなかった。そのうち琥珀川が怨霊目がけて大きく飛び、持っていた笏も剣に変え怨霊を切りつける。

「痛い……痛い……やめろ、栄明」

 怨霊が言う。それからは琥珀川と怨霊の激しい攻防戦となった。闘いが長くなる程両者にも疲れが見えてきた。

「栄明……うるさい……どっか行け」

 そう言って怨霊は琥珀川に向けて衝撃波の様なものを出す。それを正面から受けた琥珀川は吹き飛ばされ洞窟の壁に勢いよくあたる。

 それでも立ち上がれるのは琥珀川が人間より身体が丈夫、なおかつ琥珀川自身が神であるからだろう。

 だが次の瞬間――琥珀川の体が大きく揺らいだ。そしてそのまま膝から崩れ落ちる様にして倒れる。

 すんでのところを美晴が支え、琥珀川の体を揺さぶる。

「琥珀川!どうしたの!ねぇ!琥珀川!」

 美晴がなんど呼びかけても返事が無い。呼びかけてもぴくりとも反応しない。

 『もしかして琥珀川死んじゃった?』そう美晴は思った。

「大丈夫ですよ。美晴様。琥珀川様は死んでなんかないです。気絶してるだけですよ。そもそも琥珀川様は元人間でもう死んでるんです」

 そう華が言った。『ならいいや』そう思った美晴だったが、次の瞬間いっきにこの闘いが不利になったのを悟った。

「これで……邪魔は……いなくなった……」

 怨霊がそう言った。

 『ヤバい……どうしよう』そう美晴は思った。

 前に白蘭が言っていた事を思い出す。『華は戦闘には不向き』だというとこを、そして今この戦いに誰が必要かを考えていた。

 あっとひらめき美晴が叫ぶ

「添!白蘭!召雷」

 と。次の瞬間、

 雷の轟音と共に添と白蘭が現れる。

「美晴様。大丈夫でしたか」

 添が言う。

「うん、大丈夫。それより琥珀川が……」

 そう美晴が言うと添と白蘭が琥珀川の方を見るなり。

「琥珀川様……」

 とショックを受ける。

 美晴が添、華、白蘭を呼びかける。

「添、あなたは怨霊を切りつけて、できるだけダメージが大きくなるようにね。白蘭、白蘭の操る事ってさ……こういう怨霊とかにも対応してる?……そう、対応してるんだ。なら怨霊操って攻撃できない様にしてくれる。そして華、あなたは弱ってそして白蘭の操りで攻撃できない怨霊を祓って」

 と美晴が言うと添達はこくりと頷いた。

『行くよ』と言う添の声で一斉に添達が動き出す。

 白蘭は怨霊を完全というわけではないが操り、大きな攻撃をできない様にし、添は怨霊を切りつけ、華は一生懸命怨霊を祓おうと奮闘している。

「俺に……こんなのが……効くと……思うか!」

 怨霊が衝撃波を出そうとしたらしいが、白蘭の操りで失敗する。

「クソッ……こんな奴らに俺が祓われるとでも……」

 そう言って怨霊はなんとか白蘭の操りから逃れようとする。

 ちょうどその瞬間――大きな地鳴りと共に大きな地震が大地を揺らす。

「ひっ……」

 怨霊が怯える。

 そしてその声は怨霊だけに聞こえていたのだ。

相葉(あいば)(きみ)よ。全くにお前は役に立たんなぁ。そんなんで私のお(そば)が務まるとでも……」

 と。その恐怖に耐え兼ねたのか怨霊が天を仰いで叫ぶ。

「ひぃぃ、清流様!申し訳ございません!」

 そう怨霊が言ってその怨霊はどこかに飛んでいった。

 美晴達は一瞬何が起きたか分からなかった。美晴達から見れば地震に怯えて『()()()』と言って何処かに飛んでいったのだ。

「えぇっと……解決ってことで良いかな?」

 そう美晴が言うと添達ははっとして

「ええ、そういうことでいいのではありませんか」

 とほぼ同時に添達が言う。

「あと、この洞窟ってどう出んの?」

 そう美晴が言うと華が

「これは穢れで出来た異空間のようなところです。その穢れを祓えばこの空間から抜け出せますよ」

 と言うと華は印を結び『祓え給え、清め給え』と言う、そして柏手を打つと目の前がはっと明るくなる。そして目を開けるとそこは千智の家の前だった。

 「うぅ……」

  琥珀川が唸る。一斉にして琥珀川の方に行き、呼びかける。

「琥珀川、琥珀川!」

 そう美晴が呼びかけると琥珀川はゆっくりと目を開け

「美晴……添、華、白蘭……」

 と言い、次にはっと飛び起きて

「怨霊はどうした、どうなった!」

 と言う。

「大丈夫ですよ。琥珀川様、怨霊は逃げました。」

 と白蘭が言うと琥珀川は

「逃げた?まぁ良い。とりあえず、ありがとう。添と白蘭は美晴が呼びつけたのか?……そうか、ありがとう」

 と礼を言った。

 二日後、千智から『鬱が治ったかもしれない』という趣旨のメールが届いた。『よかった』と美晴は思った。


 その日の夜、美晴が眠っている時間帯、白蘭と琥珀川が話をしていた。

「琥珀川様……」

 『なんだ』と琥珀川が言い白蘭が次に言った言葉で琥珀川は衝撃を受ける。

「実は、あの怨霊……逃げる時に()()()と言っていたのです。もしも本当に怨霊が言った清流があの清流であるならば……この次に言う言葉はもう……お分かりですよね……」

 そう言った。

「なんだと!清流とな!それが本当なら……とてもまずい、今度こそこの国が、世界が終わるかもしれん。天照大御神(あまてらすおおみかみ)様にはこちらから報告しておくから、あまり清流の事で探りを入れないように、逆に勘付かれる」

 と琥珀川が言った。

 この清流という人物がどのような人物で琥珀川とどう関係があるのかは、意外に早く分かるかもしれない……


番外<それはいつもの日常?> 添の誕生日


ある日の夜、もう人間達はとっくに寝ているというのに琥珀川は突然目覚める。そしてそのまま琥珀川はこの日のために用意しておいた酒を取りそのまま縁側の方へ向かう。

 どっとあぐらをかいて琥珀川は酒を飲み始める。何杯か口にして左側に話しかける。

「どうした、添。なんか用か」

 と言う。

 さわやかな風が吹きそこに出てきたのは添だった。

「どうしたじゃないですよ。琥珀川様。覚えててくれたのですね。私の誕生日」

 と添が言う。

 そう言われると琥珀川は

「ふん、そうだったかの」

 と言う。それに対して添は

「そんなこと言って、きちんと覚えてるじゃないですか。覚えてないのなら、じゃあなんで酒器が二つもあるんですか」

 と言う。

「……忘れるものか。今日はお前の誕生日なんて」

 そう琥珀川が言うと添は『お隣、失礼しますね』と言って琥珀川の隣に座る。

 そして琥珀川の隣に座るなり添が

「いやー、良かったです。結構人の誕生日とかをよく忘れる琥珀川様が私の誕生日覚えててくださるなんて」

 と言う。それに対して琥珀川は

「添と鈴と華と白蘭の誕生日は完全に記憶してる。美晴と優馬、桜狐の誕生日は覚えてないしそもそも聞いてない」

 と言う。

 それから少し添と酒を飲み交わし、程よく酔いが回ってきた頃、添がこんな事を言ってきた。

「琥珀川様~。久しぶりにあの呼び名で呼んでいいですか~。でも眠くなっちゃいましたよ~」

「添、お前は本当に酒に弱いな」

 そう琥珀川が言うと添はえへへと笑いながら琥珀川に寄りかかる。

「んー。おやすみなさーい。()()()()

 そう言って添はそのまま寝てしまった。

 『添にお父さんなんて呼ばれるのはいつぶりだろうか』そんな事を琥珀川は思っていた。添を含め鈴と華にも普段はあまり言うなと言っているが、たまにそう言われるのも良いものだと琥珀川は感じた。

 さて、と琥珀川は思い、もう寝る事にした。琥珀川は布団に入る瞬間、星を読むのを忘れたと思ったがそんなことお構いなしで寝るという結論に辿り着いた。

 その日の夜空は晴れていて星々がキラキラと輝いてとても幻想的な夜空だった。

 ――だが一つ、妙に輝いていた星があったのを琥珀川は気づいてなかった。


あとがき この小説を読んでくださった皆さまへ


どうも皆さん、箱天天音です。東美晴の怪奇録第二巻が遂に完成しました。(パチパチ)いやーめでたい。本当にめでたいねー。結構自分的にはもうちょっといい作品が出来そうな気がしたけどこれが今現在での表現力の限界です。もっと上げて皆さんが夢中になるような作品をいつか作れたらいいなぁと思って毎日生きてます。

 さて、今回はどうだったでしょうか。第三の録『琥珀川と晴明』ではあのスーパー陰陽師安倍晴明とその母親の物語です。そしてなんと⁉︎優馬君が美晴にお熱だということが発覚しました。(キャー)この恋模様はどうなっていくんでしょうね。(いつ優馬を告らせようかなぁ)

 そして第四の録『千智の鬱と怨霊』では千智の鬱は怨霊のせいだった⁉︎。

そしてなんと、琥珀川と添の関係が明かされた。

 そしてチョコっとブレイクと第四の録で共通して出てきた清流とはいったい……。

 と言うことで、第三巻も作ろうと思ってますので、応援よろしくお願いします。

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