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多正面作戦

……………………


 ──多正面作戦



 魔王軍はブリタニア連合王国からの撤退が終わり、再編を済ませて再び防衛配置に付いた。だが問題は山のようにあった。


「このままでは多正面作戦になります」


 陸軍総司令官のリヒャルトが深刻そうにそう述べた。


「戦線を一部縮小しなければ、我々の戦力では守り切れません」


 リヒャルトの悲痛な訴えは事実であった。


 五ヵ国連合軍が相次いで動員を開始し始め、その戦力が国境に集結しつつある。


 数は百数十個師団。魔王軍の今の戦力ではとてもではないが敵う相手ではない。


 リヒャルトたち陸軍はこの状況下でも任務を全うするために、試行錯誤を繰り広げてきたが、結局のところは戦線を縮小するしかないという結論に至った。


 戦線を縮小すれば、それだけ兵力が密集できるし、相手は投入できる戦力が限られるため突破するのが困難になる。


 それが陸軍としての五ヵ国連合軍に対する答えだった。


「了承しよう、リヒャルト。君の思うがままにやりたまえ」


「ありがとうございます、閣下」


 ラインハルトはリヒャルトの提案を受け入れた。


 ラインハルトとしても今のこの広大な魔王領を五ヵ国連合軍から守り抜くのは不可能だと思っていた。土地はあまりに広大すぎ、敵はあまりにも多すぎるのだ。


「では、どのラインまで下がるかね」


「はい。魔都ヘルヘイムとアルトゥル軍港を結ぶ線は守らなければならないと思っています。それ以外については空軍基地は魔都ヘルヘイムにもあるので放棄していいかと」


 リヒャルトは盤上の駒を動かしていき、小ぢんまりとした防衛線を示した。


「我々の土地の大部分をまた敵にくれてやるのか?」


「現状は戦力が足りないのです。我々が30個と数個師団なのに対して、五ヵ国連合軍は百数十個師団ですよ? どうしろというのですか?」


 マキシミリアンが不満を示すのに、リヒャルトが反論する。


「残念だがリヒャルトのいう通りだ。今は耐えるしかない。いずれ反撃の機会は巡ってくる。我々にはまだまだチャンスが残されている。今はそれをありがたく受け取って置くことにしようではないか」


 ラインハルトはそう決断を下した。


 マキシミリアンもラインハルトが相手では黙らざるを得ない。


「リヒャルト。粘りたまえ。1か月でいい。それだけの間、防衛に成功すれば私が問題を解決しよう。君には自由に扱える戦力が与えられ、その戦力によって広大な魔王領を防衛することが可能になる。1か月だ。1か月だけ耐えてくれ」


「畏まりました、閣下」


 リヒャルトがラインハルトの指示に頷く。


「それでは諸君。それぞれの役割を果たしたまえ。空軍は航空優勢の確保。近衛軍は火消し。海軍は海上輸送の妨害と通商破壊作戦。以上だ」


「了解しました、ラインハルト大将閣下」


 ラインハルトは最後に満足そうにうなずくと、部屋を出ていった


 そして、彼は自身の研究室に向かう。


「結局のところ、黒き腐敗はそのまま使用しても無駄だということだ」


 ラインハルトがひとり呟く。


「使用するならば、何かと合わせて使用するべきだ。そう、似たような物質と」


 ラインハルトは瘴気の詰まった容器を開く。


「瘴気は黒き腐敗とよく似ている。ともに人体には有害で、ともに負の感情から生まれる。実によく似ているではないか」


 ライなハルトは瘴気の収まった容器の中に黒き腐敗を注ぎ込んでいく。


 瘴気と黒き腐敗はよく混じり合い、瘴気が増幅される。


「さあ、今こそ私の理論を試すべき時だ。生まれたまえよ」


 ラインハルトがそう告げると容器から1体の吸血鬼が生み出された。本来ならば吸血鬼どころか、ゴブリンを作るにも足りない量で吸血鬼が生み出されたのだ。


「実験は成功だ」


 ラインハルトは満足そうに笑った。


「立ちたまえ」


「はい」


 生まれた吸血鬼が立ち上がる。


「動作に問題はない。異常は見られない。完璧だな」


 ラインハルトは頷きながら瘴気の量を見る。


「これならば何百万体もの人狼や吸血鬼、そしてゴブリンにオークが生産できるだろう。素晴らしいことだ。我々はようやく数の上で五ヵ国連合軍を上回ることになるのだ」


 瘴気は今も発生している。


 その瘴気に黒き腐敗を混ぜるだけで何十倍、何百倍もの数の魔族が生み出せるのだ。これを利用せずしてどうするのか。


 そして、ラルヴァンダードの言葉が正しければ黒き腐敗に適応したものは能力が向上している。どのようなものかは実際に投入して見なければ分からないし、魔族が新たに生み出されるまでには時間を要する。


 だから、ラインハルトはリヒャルトに1か月持たせrうように命じたのだ。1か月の時間があればラインハルトは前線に数百個師団を展開できる。


 銃火器や火砲などの装備の生産も時間がかかる点だ。ただ、魔族を生み出して意味はない。魔族を戦えるようにして送り出さなければならない。


 装備の生産は今は防空軍団用の高射砲、対空機関砲の製造を行っている。だが、それも直に終わるので、いよいよ本格的に歩兵用装備と火砲の生産が行える。


 とにかく、大量の歩兵のための装備と砲兵のための装備が必要だ。空軍は今のところ増産する計画もないし、地上軍のための装備を生産してこそ意味がある。


「大量の魔族を。地を覆い尽くさんばかりの魔族を。最悪の場合、銃はふたりにひとつだ。肉癖となって突撃してくる自分たちの何十倍もの魔族を見せれば、五ヵ国連合軍も地獄をみることになるだろう」


 だが、ラインハルトは思った以上に急がなければならなかった。


 五ヵ国連合軍の攻勢が始まったのだ。


 ルーシニア帝国を先頭に五ヵ国連合軍が一斉に魔王領へと侵攻を開始。


 魔王軍は陸軍総司令官リヒャルトの下、国境線での防衛を完全に放棄しており、ただ地雷だけが五ヵ国連合軍の歩みを遅らせた。


 だが、ただの地雷原などプロの軍隊にとっては突破するの容易い。


 爆薬を使って地雷原を破壊し、さらには空爆と砲撃で地面を耕して道を作る。


 魔王領の中でも縮小した戦線である魔王城とアルトゥル軍港を結ぶ戦線の兵士たちは五ヵ国連合軍の恐ろしい数の兵力による圧力に晒された。


 火砲が1日中砲撃を行い続ける。それもとんでもない規模の砲兵が塹壕を砲撃し続ける。それが終わると敵の歩兵が突撃してくる。


 魔王軍は機関銃と火砲でそれを迎え撃つ。機関銃がバタバタと敵歩兵を薙ぎ払い、砲兵が彼らを空高く吹き飛ばす。


 それでも劣勢なのは魔王軍だった。


 魔王軍は塹壕を奪われるようになり、奪還のために出血する。


 リヒャルトは近衛軍のも応援を要請し、近衛軍も五ヵ国連合軍の膨大な兵力による圧力に耐えるために戦いに身を投じた。


 空軍は辛うじて航空優勢を維持しており、五ヵ国連合軍は散発的な爆撃と、一時的な航空偵察しか行えていない。


 1週間目で1個大隊が壊滅し、2週間目でさらに1個大隊が壊滅し、3週間目でさらに1個大隊が壊滅する。リヒャルトは胃が痛むのを感じながら、ラインハルトがこの状況を打破できるものを用意してくれるのをひたすらに待った。


……………………

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新連載連載中です! 「人形戦記、あるいはその人形は戦火の中に魂を求めるのか」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[一言] さっきまでブラックホークダウン見てました、本当に戦争って何なんだって感じですね。
[一言] ピンチじゃん
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