戦いの終結
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──戦いの終結
古代死竜の体から黒い瘴気が溢れ出ると、それは古代死竜の負った傷を癒し始めた。ミシェルがつけた傷が瞬く間に癒されて行く。
「そんな……」
「畜生め」
そして、古代死竜はついにミシェルたちの眼前に立った。
長い首を下ろしブレスの姿勢を取った古代死竜に対して──。
「はああああああっ!」
ミシェルは突撃した。
古代死竜に頭を狙ってただがむしゃらに突撃し、その刃から最大の斬撃を放った。
それと古代死竜のブレスが衝突し、大爆発が引き起こされた。
古代死竜すらも吹き飛ぶほどの爆発を浴びてミシェルが無事でいられるはずはない。だが、どういうわけか人工聖剣“エクスカリバー”だけは無事に残った。
そして、役割を終えた古代死竜が消滅する。
「やれやれ。思った以上の敵だったな」
廃墟と化したエドウィンの街をラインハルトが進む。
「アルマ。無事かね?」
「は、はい、閣下」
「君は近衛軍の残存戦力を取りまとめたまえ。これでブリタニア連合王国は陥落した。後は陸軍の師団を駐留させてゲリラ狩りだ」
「畏まりました、閣下」
ラインハルトはアルマにそう言うと古代死竜とミシェルが衝突した場所に向かう。
「ほう。これが人工聖剣か」
そして、地面に落ちていた人工聖剣を見つけ出し、持ち上げた。
次の瞬間、激痛がラインハルトの体を駆け巡り、彼が倒れかかる。
辛うじて痛みに耐えた彼は人工聖剣をゆっくりと分析する。
「なるほど。これはただのガラクタだ。人間たちもどうしてこれが動いているのか分からずに使っていたのだろう。このような仕組みで動くはずがないのだ。あのような“神の力”を発揮できるはずもなし」
ラインハルトは人工聖剣を見つめながらそう呟く。
「ただ、持つ人間によってはこれは使えるということか。それが神々のこの戦争における役割か。彼らもまたこの戦争に勝利するつもりなのか。面白い」
ラインハルトがくつくつと笑う。
「戦乙女の導くヴァルハラにならばいつでも行く覚悟があるがが、実在する神々の世界には興味はない。だが、敵となるならば話は別だ。同じプレイヤーとして心からお相手いたそう」
ラインハルトが空を見上げる。
「神々よ! 戦わんとするならば覚悟せよ! 我々はただ地上で生きる生き物であるに限らず! 神々が我々の戦いに介入するのであるらば、我々は天界にまで前進しようではないか! それまで怯えて過ごすがいい! 地上のものの逆襲に怯えて、震えよ!」
ラインハルトは神々に宣戦布告した。
自分が勝利するとの確かな決意を含めて、ラインハルトは戦線布告した。
「ラインハルト大将閣下。今のは……」
「あれだけの猛威を振るった人工聖剣は本来ならばまるで動かないもの。それを動くようにしたのはひとえに神々の介入あってのこと。であるならば神々は敵だ。我々は神々を相手に戦争をするのだ」
「神々との戦争を……」
ラインハルトは想像もつかなかったことを言う。それが彼の魅力である。
絶対に不可能だ。絶対に応じられないという戦局をライなハルトは潜り抜けてきた。
死体の山を作り、その上で踊るのはラインハルトだ。
ああ。それの何と素晴らしいことかとアルマは思った。
「了解しました。神々が相手だろうが我々は戦いましょう」
「ありがとう、アルマ。君ほど忠実な部下を持てたのは喜びの限りだ」
そう言いながら、ラインハルトは何もない空間に穴を開け、そこに人工聖剣“エクスカリバー”を収めてしまう。
「さて、厄介な国は片付いた。我々はまた一歩勝利へと向かった。また一歩戦争の終わりへと進んでしまった。だが、神々が戦争の相手ならば、相手として不足なし。八つ裂きにして屠って、神殺しを成し遂げよう」
ラインハルトとは愉快そうにそう言った。
「この国にもう用はない。我々は凱旋するのだ。大陸へ、魔王領へ、魔都ヘルヘイムへ。高らかと軍靴の音を鳴らし、帰途に就こう。この戦いはまさに英雄的だった。まさに命をかけていた。誇るべきものだ」
その後、近衛軍はヴェンデルのポータルで撤退。陸軍のいくかの師団も撤退した。残った陸軍部隊は沿岸防衛とゲリラ狩りを進めていくこととなる。
魔王軍は六ヵ国連合軍の一角を倒したと意気揚々となり、士気は大幅に向上した。
だが、魔王軍を取り巻く状況が未だ危機的なのは言うまでもない。
倒したのは海の向こうの島国。
今の魔王軍を取り囲んでいるのは陸軍国五ヵ国。そのうちフランク共和国は既に数十個師団の動員を開始している。それに呼応するように他の国々も動員を始めている。
戦争の季節は始まったばかりだ。今から戦争の季節は始まるのだ。
六ヵ国連合軍──五ヵ国連合軍の大規模動員と魔王軍の大規模な軍の生産が始まり、再び以前の大戦の続きが繰り広げられようとしていた。
だが、人間たちはまだ足並みが揃っていない。彼らの歩調は乱れており、かつてのような脅威とはなっていない。時間の問題ではあろうが、その時間が魔王軍には必要だった。それも大量に。
魔王軍はさらに陸軍30個師団と空軍2個飛行隊を創設したが、それでは足りない。近衛軍も行わねばならず大量にあったはずの瘴気がみるみる減っていく。
数において不利は魔王軍の負け始めた転換点から始まったことであり、今に至るまで後を引いている。
ブリタニア連合王国で得た死者が瘴気を吐き出すまでに至るならば、さらなる師団の増強が見込めるだろう。ブリタニア連合王国では捕虜も大量に得ている。それらを使えば大量の瘴気を生み出すことがきたいできるはずだ。
そうなれば、いずれは数の不利を覆すこともできるかもしれない。
しかし、それには時間が必要なのだ。
不運にも魔王軍はよりよって近衛軍が打撃を受けている。人工聖剣によって。
ラインハルトは人工聖剣を研究室に持ち込み、研究を進めていた。
「なるほど。やはりガラクタだ。それ相応の技術は施されているようだが、決定的なメカニズムに欠ける。どうして人間たちはこれが動いていることに疑問を抱かなかったのだろうか。それとおも動けばそれでいいという精神で動かしていたのだろうか?」
何と愚かなとラインハルトはため息を吐き、人工聖剣がテーブルに乗せる。
「さて、では我々も人工魔剣を作ろうではないか。そう難しいことではない。メカニズムがいい加減でもそれが動くと信じさえすれば動くのだ。人間と魔族たちの開発してきた物の中でここまでいい加減なものがあっただろうか?」
ラインハルトはそう述べると、人工聖剣にそっくりな配置で魔力が流れるように調整する。だが、それそのものには何の意味もない。人工聖剣はラインハルトのいうようにガラクタ。どうしてそれが動いているのかすらも分からないようなガラクタなのだ。
「このようなところだろうね」
完成した人工魔剣を前にラインハルトがそう呟く。
「面白いものを作っているね?」
そこで不意に少女の声が響いた。ラルヴァンダードだ。
「これはラルヴァンダード様。あなたにも力を貸していただきたい。そのガラクタはご覧になりましたか?」
「見たよ。これほどまでに愚かな創造物もない。全て神任せ。人間が人間として戦うのではなく、神の力でいかさましているだけだ」
「それでは我々もいかさまをしようとは思いませんか?」
ラインハルトが尋ねるのにラルヴァンダードはにやりと笑った。
「喜んで」
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