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聖剣の勇者と最弱の四天王

……………………


 ──聖剣の勇者と最弱の四天王



 エドウィン市街地に走った閃光。


 それは建物を薙ぎ払い、魔族を薙ぎ払い、ブリタニア連合王国陸軍の兵士たちを薙ぎ払い、その射線上にいたもの全てを破壊し尽くした。


「司令部、陥落とのこと!」


「残された希望は我々だけだ、ミシェル中佐」


 空軍大佐がミシェルに告げる。


「ええ。そのようですね……」


 畜生。自分たちの街を破壊してまでして本当に勝利できるのか? これじゃあ、魔王軍に占拠されるのと変わらないんじゃないか?


 それに加えてまだ友軍は撤退を完了していない!


 そんな中でミシェルは聖剣の力を使っているのだ。


 本来ならばフレスベルグから攻撃を放つ予定だったが、空軍基地は壊滅的な打撃を被り、もはや機能していない。そこでミシェルたちには地上で人工聖剣“エクスカリバーを使用せよ”との命令が下されていたのだ。


 人工聖剣の力は膨大なもので、軽々と建物を破壊し、魔族を薙ぎ払う。友軍まで巻き添えになってるが、司令部は既に組織的行動が取れなくなっていた友軍を見捨てていた。


 ミシェルは再び人工聖剣“エクスカリバー”を振るい、魔王軍に打撃を与える。


 魔王軍は建物などの遮蔽物に隠れるが、人工聖剣を前にしては意味がない、その膨大な白魔術に“近い”魔術は膨大な魔力を帯びて射出され、建物ごと完全に破壊し尽くしてしまうのである。


「いいぞ。このまま勝利するんだ」


 大佐が喜びの声を上げる。


 殺戮の嵐は吹き荒れ、エドウィンの建物が崩壊していく。


「しかし、大佐殿。街が……」


「街など構うものか! 人工聖剣の威力を連中に思い知らせてやれ!」


 大佐は完全に力に憑りつかれている。


 ミシェルは友軍が逃げ去ってくれていることを祈りつつ、街に向けて人工聖剣“エクスカリバー”を振るう。人工聖剣は求められていた役割と撤退敵意果たした。


 魔族を殺す。魔族を殺す。魔族を殺す。


 付随的な被害が含まれていようとも、人工聖剣は役割を果たしている。


 人工聖剣は血に飢えた猟犬のように魔族を殺し続けている。


 ミシェルがいくらやめるべきだと考えても、“エクスカリバー”は魔族の血を求め続ける。もっと大勢の死を。もっと確実な勝利を。そう“エクスカリバー”は願っているようだった。


「魔族を殺せ! もっとだ! もっと、もっとだ! 殺しつくせ!」


 大佐も“エクスカリバー”に当てられたように叫ぶ。


 貴重な空での一騎打ちの機会は失われた。空軍の兵士は今は陸戦部隊として戦っている。それが屈辱なのだ。魔王軍が正面から戦わず、卑劣な手で空の戦いを自分たちから奪ったことが屈辱的なのだ。


 その屈辱を晴らすために人工聖剣を使う。


 全く以てとミシェルは思う。


 全く以て末期的だとミシェルは思う。


 誰もかれもが狂っている。勝利のためと名が付けば、何をしても構わないと思っている。イカれている。狂っている。正気を喪失している。


「もっと叩き込め、中佐!」


「はい。大佐殿」


 狂っているのは自分も同じだ。


 今はただ魔族を倒すことだけに執着し、剣を振るうことをやめない。


 だが、魔族もただ斬撃からが逃れるだけではなかった。


「これが人工聖剣、か」


 魔族たちが港湾まで撤退する様子を眺めてラインハルトが呟く。


「なるほど。確かに人工の聖剣。だが、そのようなものがどうして機能している? そんなものは機能しないはずだ。それは神々の領域であるが故に。人工聖剣とは成立しないことの代名詞のようなものではないか」


 ラインハルトは斬撃が吹き荒れる中を進む。


「これがラルヴァンダードの言っていた神々の介入方法か? なるほど。これは随分と大げさな介入だ。大胆な介入だ。じっくり味わおうという気持ちは欠片もないな」


 ラインハルトの目の前に斬撃が迫る。


 しかし、彼が身を守るように手を振る斬撃は消えた。


「白魔術に似た、“何か”か。いったいこれはどこから生み出されてるのだろうね」


 消え去った斬撃の臭いを嗅いで、ラインハルトがそう呟く。


 そうしている間にも次から次に斬撃はラインハルトの周囲の建物を破壊する。


「大将閣下!」


 そこでアルマが現れた。


「大将閣下! ここは危険です! 直ちに退避を!」


「ここから逃げてどこに行こうというのだい、アルマ。ここから撤退するつもりか? そのようなことを私が認めるとでも?」


「も、申し訳ありません! 直ちに部隊を編成し、この斬撃を放っている人間を──」


「その必要はない。私が片付けてしまおう」


 ラインハルトはそう述べると、右手を掲げた。


「滅ぼしたまえ。何もかもを。蹂躙し、八つ裂きにし、食らいつき、殺しつくすがいい。殺せ。滅ぼせ。古代死竜アンシエント・ネクロドラゴン


 ラインハルトの詠唱とともに巨大なドラゴンが姿を現した。


 それはゆっくりと翼をはためかせると、そんままミシェルたちの方に向かう。


「ば、化け物だ!」


「勝てない! 勝てるはずがない! 逃げろ!」


 ミシェルの傍にいた将兵が逃げていく。


 だが、大佐とミシェルは逃げなかった。


「やれるか、中佐」


「努力はします」


 大佐の問いかけにそう答えると、ミシェルは古代死竜に向けて“エクスカリバー”の刃を大きく振るった。


 “エクスカリバー”から斬撃が放たれ、古代死竜に衝突する。


 大量の瘴気と白魔術に似た“何か”が衝突し、大爆発を引き起こす。エドウィンの市街地は完全に吹き飛び、港に逃れた魔族たちだけが難を逃れた。


「やったか……?」


 砂埃の立ち込める中で、大佐が目を凝らす。


「生きているようです」


 そして、ミシェルがそう告げた。


 古代死竜は生きていた。生きて、口の中に炎を渦ませつつあった。


「防御します! 後ろへ!」


 ブレスが放たれる。


 ブレスはミシェルたちを狙って放たれ、ミシェルたちに直撃したかに見えた。


 だが、そうはなっていなかった。


 人工聖剣から放たれている魔力が結界を構築し、ミシェルたちを強力な、石すら溶かすようなブレスから守っていた。


「まだやれますよ。やりますか?」


「ああ。もちろんだ」


 ミシェルも大佐も戦場の空気に飲まれていた。


 とにかく勝利を。勝利以外の何物も欲さない。あの怪物を倒して勝利する。


 戦場特有の高揚感。それが彼女たちに湧き起っていた。


「死ねっ!」


 ミシェルの斬撃が古代死竜に命中し爆発する。


 何度も、何度も、何度も、ミシェルは斬撃を放ち続け、古代死竜は次第に動きをよろめかせていた。それでも古代死竜は向かってくることを止めない。ずっと、ずっと、ミシェルたちの下に向かってくる。


「このっ! くたばれ!」


 古代死竜が明確に傷を負っていくが、その歩みは止まらない。進み続けてる。流石のミシェルも撤退を考えるが、既に現地はブレスの影響で火の海だ。


「覚悟を決めるしかない……っ!」


 2度目のブレスを防ぎながら、ミシェルはここで死ぬ覚悟を決めた。


 そして、2度目のブレスを受けきったのちに反撃に転じる。


 斬撃、斬撃、斬撃。


 ミシェルの放つ斬撃で古代死竜は確実に倒れかけている。


 そのはずだった。


……………………

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[一言] アルマ生きてたか ドラゴン強いなあ
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