迫る侵攻
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──迫る侵攻
「六ヵ国連合軍はブリタニア連合王国を救援しようとしているそうだ」
朝の軍議の席でラインハルトがそう言う。
「間に合うのですか?」
「間に合いそうにはないね。その前に我々がブリタニア連合王国を落とす」
アルマが焦って尋ねるとラインハルトが首を横に振った。
「だが、これはもはや時間的猶予はあまりないということを意味する。我々は迅速にこのブリタニア連合王国を陥落させなければならないのだ」
ラインハルトは愉快そうにそう言った。
「それでは侵攻作戦を発動させよう。我々は敵の臨時王都エドウィンを陥落させる。その後のことは都市を破壊して、二度と人が住めないようにするだけだ」
ラインハルトはピクニックにでも行くような明るさでそう言った。
「近衛軍、準備はできております」
「陸軍も準備完了です」
「空軍も動けます」
「海軍も支援に当たります」
全軍全将兵が戦闘準備を整えている。
「よろしい。では、侵攻開始だ。奴らに思い知らせてやろう。魔王軍とは何たるかについて。魔王軍の恐ろしさについて、魔王軍の強大さについて。彼らに徹底的に教育してやろうじゃあないか。臓腑に刻み込むような苦痛を以てして、魂を抉るような苦痛を以てして、彼らに教えてやろう。これが魔王軍だ、と」
ラインハルトは高らかとそう宣言する。
「奴らに死を。我々に勝利を。作戦開始」
「了解!」
そして、魔王軍全軍が動き始める。
第1教導猟兵旅団“フェンリル”はヴェンデルのポータルで迅速にエドウィン近くの空軍基地に移動する。彼らは敵の軍服を着て、空軍基地に接近すると歩哨を始末し、管制塔や厩舎などに向かう。そして、そこに一斉に梱包爆薬を放り込んだ。
管制塔が吹き飛び、弾薬庫が大爆発を起こし、厩舎ではフレスベルグが死んでいく。
この最初の奇襲によって、ブリタニア連合王国は空軍力を喪失した。
それから魔王軍空軍が上空を押さえる。
空を完全に制圧した魔王軍空軍は航空優勢を保ったまま、爆撃を行う。彼らにとっては久しぶりの対地攻撃だ。彼らは残っているフレスベルグを爆撃で始末し、敵の陣地に対して航空爆弾を投下する。
殺戮の嵐が吹き荒れ、ブリタニア連合王国の兵士たちは死んでいくが、これはまだ始まりに過ぎない。
近衛軍3個師団が海から上陸してきたのだ。
臨時王都エドウィンは海に面した街である。その港湾には生き残った旧式艦が停泊していたが、魔王軍は容赦なく旧式艦を撃沈していき、上陸船団が港に押し寄せた。
完全に背後を取られることになったブリタニア連合王国軍は前線から兵力を剥がして、海側に張り付けようとするが、前線では魔王軍陸軍が攻撃を行っていた。
海からも陸からも包囲され、航空優勢を喪失したブリタニア連合王国軍はもはや殴られるためのサンドバック状態だった。
海上からなエドウィン市内に近衛軍が浸透。各地で市街地戦が繰り広げられる。
「燃えろ、燃えろ、燃えちまえ!」
ベネディクタは自分を包囲するブリタニア連合王国陸軍の兵士たちから魔力を吸い上げ、それを攻撃力として発揮する。
炎がブリタニア連合王国陸軍の兵士たちを焼き、彼らは碌な抵抗もできないままに焼き殺されて行く。
「──以上の座標に火力支援要請。繰り返す──」
ブリタニア連合王国陸軍の兵士たちは街のあちこちでバリケードを作り、敵に向けて火力支援を要請した。
ひとつ間違えば壮大なエドウィンの街並みが破壊されるのにも構わず、ブリタニア連合王国陸軍の砲兵が火力支援を行う。歩兵の有する迫撃砲も思う存分に火を噴く。
「あぶなっ!?」
危うく吹き飛ばされそうになったベネディクタが驚きの声を上げる。
「結界破砕弾装填!」
「装填完了!」
「撃てえっ!」
ベネディクタの結界めがけて37ミリ歩兵砲から結界破砕弾が叩き込まれる。
「またその手か。となると──」
「多段魔術、撃てえっ!」
白魔術の多段魔術が飛んでくる。もちろん、攻撃が分かっているならばベネディクタでも余裕で回避できる。
「お返しだ。燃えろ」
ベネディクタは結界を再展開し、生き残っている従軍魔術師たちと、歩兵砲に向けて火を放った。両方とも勢いよく炎上し、もがき苦しみながら地面に倒れていく。
「ベネディクタ。まだこの辺りにいたのですか」
「仕方ないだろ。敵の抵抗が激しいんだ」
「そうですか。では、私とともに前進しますよ。一気に敵の司令部を叩きます」
「了解」
アルマの言葉にベネディクタはにやりと笑うと、街の中を焼き払いながら、勢いよく敵の司令部を目指して前進していく。
「結界破砕弾──」
「させません」
アルマが歩兵砲の砲身を歪め、操作している兵士たちをねじ切り殺す。
「焼けちまいな!」
そして、トドメにベネディクタが炎を放つ。
「いいですね。快調な前進です」
「あたしたちだけ先行してもいいのか?」
「我々だからこそ先行しなければならないのです」
ベネディクタもアルマも今の近衛軍3個師団の指揮系統にはない。アルマは近衛軍総司令官であるが、実際に近衛軍を動かしているのはバルドゥイーンたち師団の師団長たちだ。アルマは人事を決定し、部隊の配置を決めるだけだ。
ベネディクタは当初から近衛軍に所属していながら、近衛軍の指揮系統にない。彼女は自由な前線での戦いを求め、それをラインハルトによって与えられていた。
「海軍が砲撃を開始したぞ」
「バルドゥイーンたちが要請したのでしょう」
海軍の戦艦もブリタニア連合王国海軍の旧式艦を始末したのちに、市街地に砲弾の雨を降り注がせていた。沿岸部ではこのような火力支援もできるのだから、制海権を握った意味はあるというものだ。
海軍の支援の下で近衛軍が前進する。
近衛軍はまだ呪血魔術の使える近衛吸血鬼は育っていないが、それでも人間の何倍も高い戦闘力を有する近衛吸血鬼と吸血鬼たちで編成されている。吸血鬼たちは霧化の高速移動で、敵に銃剣を突き立て、前進していく。
ブリタニア連合王国陸軍はもはや総崩れであり、各地のおける局所的な防衛線ができることの限界となった。
そんな中をアルマとベネディクタが突撃し、敵の司令部を発見する。高い無線用のアンテナが立った頑丈そうな建物が間違いなく司令部だ。
「いきますよ、ベネディクタ」
「了解」
そして、アルマが司令部の扉を破壊し一気に中に押し入る。
「近衛吸血鬼!」
「ここまで戦線は後退していたというのか!?」
ブリタニア連合王国の将軍たちが動揺する。
「ベネディクタ」
「あいよ」
そして、アルマの命令で将軍たちに火が放たれる。将軍たちはひとり残らず焦げカスにされ、息絶えたのだった。
「我々の目標はこれで達成ですが……」
アルマは広げられていた地図を眺める。
「どうにもまだ人工聖剣の使い手が見つかっていません」
その時、白い光が走った。
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