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人工聖剣の衝撃

……………………


 ──人工聖剣の衝撃



「つまり、ミシェル・ネルソン中佐が単独で破壊したと? 人工聖剣とやらで?」


 ブリタニア連合王国エドウィンの臨時首都。


 そこに設置されたブリタニア連合王国軍総司令部では困惑の声が漏れていた。


「作戦に参加した多くの将兵が目撃している。『人工聖剣から放たれた光が工業地帯を破壊した』と。その航空偵察でも破壊が確認されている」


「人工聖剣“エクスカリバー”。そこまでの性能だったとは」


 空軍総司令官がそう告げ、海軍総司令官が頷く。


「それでは人工聖剣を量産してはどうか? これだけの威力をもたらすものならば、量産すれば我々の勝利はほぼ確実ではないか!」


「無理だ。人工聖剣は使い手を選ぶ。フランク共和国が“デュランダルMK3”を量産していないのと同じこと。あれはガブリエル大佐にしか扱えず、こちらはミシェル中佐にしか扱えないというわけだ」


「むう。その有効性は認めるが兵器としては欠陥品だな。兵器とは誰もが扱え、集団で威力を発揮するから意味があるというのに」


「仕方あるまい。そもそも“デュランダルMK3”に対する抑止力としての“エクスカリバー”だったのだ。フランク共和国が戦争が終わった後にどこに“デュランダルMK3”の刃を向けるか分からなかったからこその“エクスカリバー”だ」


 元々人工聖剣“エクスカリバー”は人工聖剣“デュランダルMK3”への抑止力として開発されたものだった。強大な暴力そのものである“デュランダルMK3”が人間同士の戦争に投入されたらという危機感を抱いての開発経緯があった。


 だから、魔王軍との戦いに投じられることなど考えていなかったし、こんなギリギリになってその効果が目に見えて現れるとは思ってもみなかったのだ。


 今さら量産しようにも研究所は既に魔王軍の手の中にある。そして、適合者を見つけることなど現状では不可能に近い。


 結局のところ、ミシェルが持つ、一振りの“エクスカリバー”でやっていくしかないのである。


「しかし、人工聖剣とは何を原動力にして動いているのだ?」


「本人の魔力を増幅させていると科学者たちは言っている。だが、増幅させるメカニズムについては彼ら自身も理解していないようであったが」


「つまり、よく分からない仕組みで動いていると?」


「それについてはフランク共和国も同様だそうだ」


 何ということだと陸軍総司令官が呻く。


 自分たちはよく分からない兵器に頼って、生き延びようとしているのだ。どうやって動いてるのか分からない以上、どうやって直していいかも分からない。そんなものが兵器として存在していいのだろうか?


 だが、人工聖剣はその価値を示した。工業地帯は破壊され、魔王軍が六ヵ国連合軍の装備で向かってくる可能性は低くなった。


 しかし、将軍たちはよく分からない兵器で戦っているかと思うと背筋がぞっとするのを感じた。もはや、何が起きてもおかしくはないのだ。


「とにかく、使えるうちに使ってしまうことですな。ミシェル中佐を魔王軍への対地攻撃にも参加させましょう。魔王軍が一挙に消えてくれればありがたいではないですか。王都ロンディニウムの奪還も夢ではない」


「同意する。ミシェル中佐を魔王軍への対地攻撃に使おう」


 空軍総司令官の提案に陸軍総司令官が頷く。


「海軍の行動はどうなのですか?」


「相変わらず、魔王軍の対艦攻撃を恐れて港から出られない。それに残っているのは旧式艦ばかりだ。魔王軍との艦隊決戦を挑んでもワンサイドゲームで撃破されるだろう」


「通商破壊作戦は?」


「潜水艦が従事しているが、魔王軍は船団護衛の駆逐艦をしっかり整備している。それにスキュラたち。あの化け物どもによって活動中の潜水艦がいくつ撃破されたことか」


「芳しくないですな」


 海軍はほぼ無力化されてしまった。


 本来なら魔王軍を海上封鎖するはずのブリタニア連合王国海軍は自分たちが海上封鎖され、そして反撃に転じようにも魔王軍海軍は強力だった。


 対潜水艦用の小型空母から護衛駆逐艦に至るまで惜しげもなく、魔王軍の海上輸送の護衛に使っている。


 そのためブリタニア連合王国海軍は手も足も出せない。何せ、ドラゴンたちときたら夜中でも軽空母から離発着できるのだ。


 ブリタニア連合王国がじわじわと追い詰められていき、今や工業地帯は停止状態。市民の生活必需品にも困窮するような有様であった。


「なんとしても魔王軍をブリタニア連合王国本土から駆逐しなければならない。ミシェル中佐には全力を尽くしてもらおう」


 陸軍総司令官はそう述べた。


「戦争計画についてだが、今の我々では攻勢に出るのは難しい。戦力が圧倒的に不足している。故に敵を迎え撃った後に反撃するという形を取りたい」


「悪くないアイディアだな」


「感謝する。魔王軍の狙いは間違いなくこの臨時王都エドウィンだ。敵の狙いさえ分かっていれば、我々も対処のしようがある」


 陸軍総司令官はそう宣言して地図を広げる。


「敵の侵攻ルートとして考えられるのはこのラインだ。敵は航空偵察の結果からして進軍経路を3つほどに分岐させると思われる。我々は敵の合流を阻止しつつ、粘り強く防御を行う。そして、敵がある程度の損害を負ったところで反撃に転じる」


 陸軍総司令官がそう説明する。


「ミシェル中佐にはこの段階で出撃してもらう。敵が崩れかけたところにあの攻撃を浴びせれば、もはや勝利したも同然ではないか」


 陸軍総司令官は満足げにそう言った。


「確かに成功しそうな計画ではあるな」


「だが、現実問題、ここまで上手くいくものなのか?」


 空軍総司令官と海軍総司令官がそれぞれそういう。


「上手くいかなければ我々は終わりだ。これ以上逃げる先はない。連中はブリタニア連合王国を、我らが祖国を征服し、民を皆殺しにするだろう。我々の王室も」


「そうだな……」


 海軍総司令官が呻くような声で同意した。


「我々はブリタニア連合王国を守る。敵にこの地を渡したりはしない。もし、反撃ができずとも、時間が稼げれば六ヵ国連合軍、特にフランク共和国軍が救援に来てくれる可能性もあるのだ」


 陸軍総司令官がそう述べる。


「よもや祖国の命運が他国頼み。それもフランク共和国頼みとは」


「仕方あるまい。彼らはまだ最新鋭艦ほ保有している。そして、今は対空攻撃能力を高めているという話であった。それならば救援も期待できようよ」


 海軍総司令官が述べるようにフランク共和国海軍は先の戦いの反省を活かして、対空兵装を大きく盛り込んだ艦艇を作成中であった。地上においても対空機関砲や高射砲が開発され、首都や戦場に送り込まれつつある。


「それでは陸軍と空軍の息の合った戦いを。海軍は引き続き、魔王軍の増援を阻止することに専念していただきたい」


「努力しよう」


 海軍総司令官がそう言って頷いた。


「魔王軍の侵攻についてはこちらでも適時偵察を。空軍も可能な限りの航空偵察をお願いしたい。頼めるだろうか?」


「もちろんだ。祖国を守るために我々は宣誓したのだ」


 空軍総司令官も頷く。


「では、共に守ろうではないか、この臨時王都エドウィンを」


……………………

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[一言] 優秀な人達が多いなあ 手強いかも?
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