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航空母艦“ゲオルギウス”

……………………


 ──航空母艦“ゲオルギウス”



 ついに突貫工事の末に魔王軍で最初の航空母艦が就航した。


 艦名はゲオルギウス。初代魔王名を冠している。


 収容できるドラゴンは20体と少ない。だが、これでも満載だ。


 空母の原型はラインハルトが前々から『こういう兵器があれば有利に戦えるのではないか?』と考えていたものがあったが、いざ作ってみると、ドラゴンたちを収容するのに手間取ることになったのだ。


 しかも、ラインハルトがその発想を得たときにはまだ魔王軍の空軍部隊は航空機関砲で武装しておらず、そのための弾薬庫も必要になった。


 となると、魔王軍の建造技術を凝らしても20体が限界。


 六ヵ国連合軍が繰り出してくるフレスベルグの数に比べれば、とても対応できそうにない戦力だが、彼らは洋上の航空戦力として戦うのだ。そして、洋上を飛行するフレスベルグの部隊は今のところ存在しない。


 だが、ドラゴンたちは洋上飛行の訓練を重ねており、何の目印もない洋上で、迷うことなく目標から空母や、目標から空軍基地へと飛行することができるようになっている。


 ただ、唯一の惜しい点は魚雷が存在しないことだ。


 魚雷があれば確実に敵艦を沈められるだろうが、航空魚雷の開発は空母の開発にリソースが回されて、遅れており、ローレライ作戦までに間に合うかどうか分からなかった。


 そんな中、ローレライ作戦の準備段階ともいえる水上艦による通商破壊作戦が開始された。戦艦2隻と重巡洋艦2隻が出撃する。


 戦艦は41センチ連装砲4基を主砲とし、重巡洋艦は20センチ連装砲4基を主砲とする。


 まず護衛船団の護衛についている駆逐艦やフリーゲート、コルベットでは相手にならない。主砲は全て弾かれ、護衛船団は殲滅されるだろう。


 そして、その通りになった。


 アルトゥル軍港を出撃した魔王軍海軍第1艦隊の水上打撃部隊は敵護衛船団を壊滅に追い込み、ブリタニア連合王国に衝撃を与えた。


 文字通り船団は壊滅し物資は海底へ。護衛艦は必死に抵抗したものの、魚雷を取り外し、爆雷を装備した護衛艦も全滅した。


 魔王軍海軍第1艦隊の水上打撃部隊はそれからも繰り返し船団を襲撃し、ブリタニア連合王国と六ヵ国連合軍は対応を迫られた。


 結果として持ち上がったのは魔王軍海軍水上部隊の捕捉及び殲滅。


 だが、それこそが魔王軍が待っていたものだった。


 六ヵ国連合軍はブリタニア連合王国海軍から戦艦6隻、重巡洋艦6隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦8隻が出撃し、フランク共和国からは戦艦2隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦8隻が作戦に参加した。


 数でみれば六ヵ国連合軍が魔王軍を圧倒している。


 特にブリタニア連合王国海軍の水上打撃戦力は絶大だ。これならば魔王軍は成すすべなく全滅するだろう。


 そして、釣り餌も用意してある。


 護衛船団がひとつ。フランク共和国からブリタニア連合王国に出港した。


 これに魔王軍海軍が食らいついたと同時にブリタニア連合王国海軍とフランク共和国海軍の両方が出撃し、敵艦隊を撃滅する。


 ブリタニア連合王国海軍とフランク共和国海軍は船団から少し離れた場所を航行し、合図に備える。


 そして、この時、魔王軍では既にローレライ作戦が発動していた。


 魔王軍海軍水上艦隊は予定通り、船団を襲撃すると、敵艦隊に捕捉されながらも逃走を開始、これを逃がすかとブリタニア連合王国海軍とフランク共和国海軍が動き始める。


 だが、ここで彼らはミスを犯していた。


 これは誘導なのだ。魔王領の沿岸部に艦隊を引き寄せる罠なのだ。


 ここで別動隊として行動していた空母“ゲオルギウス”を旗艦とする部隊が合流し、空母からドラゴンが飛び立っていく。


「艦長、敵のドラゴンです!」


「ふん。作戦行動中の主力艦が空軍戦力によって撃沈されることなどない」


 誰もがその神話を信じていた。


 だが、神話は今日、覆った。


「敵ドラゴン急降下!」


「回避行動! それぐらい躱してやれ!」


 ドラゴンたちが急降下して爆弾の雨を敵戦艦に降り注がせる。


「フッドに命中弾! フッドが沈む! 沈みます!」


「馬鹿な!」


 高速戦艦として改装されたフッドという戦艦が魔王軍空軍の爆撃を受けて沈んでいく。これによってブリタニア連合王国海軍の隊列が乱れる。


「敵ドラゴン、陸地から迫ります!」


「対空戦闘!」


 陸地からも空軍基地を出撃したドラゴンの群れがブリタニア連合王国海軍とフランク共和国海軍を目指して突撃してくる。


 今度のドラゴンは低空飛行で迫る。


「連中、何か抱えているぞ」


「魚雷だ。魚雷を抱えている!」


 対空機銃が銃弾の嵐を撒き散らすが、それを意に介せず、ドラゴンたちは迫り魚雷を投下する。投下された魚雷はブリタニア連合王国海軍とフランク共和国海軍の双方の主力艦に吸い込まれるようにして進み、炸裂した。


「ラインハルト閣下は5年以内に空軍戦力によって主力艦が撃沈されると仰られた」


「その通りです、提督閣下」


 第1艦隊の旗艦“ファフニール”の艦橋で第1艦隊の艦隊司令官がそういう。


 そもそも、ローレライ作戦の前提が『敵主力艦隊を自軍の空軍戦力の航続距離内に誘い込み、空軍力を持って撃破する』というものだ。


 空軍力で海上戦力が撃滅できることを前提とした作戦なのである。


「まさか5年と言わずに半年程度で実現するとは」


 ブリタニア連合王国海軍とフランク共和国海軍はドラゴンたちに次々に襲撃され、撃滅されつつある。すでに主力艦は全滅し、補助艦が逃げ惑っている。


「我々の出番はもうなさそうだな」


「ゼーレーヴェ作戦の際には我々にも役割が」


「そうであることを望みたい」


 ローレライ作戦によってブリタニア連合王国海軍とフランク共和国の両艦隊は全滅。フランク共和国海軍はこれ以上の損耗を恐れて海軍基地に引き篭もって現存艦隊主義に陥り、ブリタニア連合王国海軍は旧式戦艦を現役復帰させることになった。


 ブリタニア連合王国に戦慄が走る中、魔王軍海軍は引き続き潜水艦及び水上艦による通商破壊作戦に従事。


 これによって敵主力艦隊を再び引きずり出そうとしたが、作戦は上手くいかなかった。だが、もはや大陸とブリタニア連合王国の海路は完全に封鎖され、魔王軍海軍は機雷の敷設を開始した。


 これを以てしていよいよブリタニア連合王国は孤立。


 物資不足が深刻化し、ブリタニア連合王国が誇る工業力も発揮できなくなる。武器弾薬は運び損ねたものが蓄えられるのみとなり、新規生産はストップした。当然ながら失った艦艇の補充など望むべくもない。


 そして、ブリタニア連合王国が苦しむ中で、魔王軍は確実に駒を進めていた。


 航空母艦“ゲオルギウス”に次ぐ、“ジークフリート”が就航。


 空軍部隊が離発着訓練を行い、戦闘準備を整えた。


 そして、いよいよ魔王軍によるブリタニア連合王国侵攻が開始された。


……………………

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[一言] 圧倒的だなあ
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