“エクスカリバー”を抜きしもの
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──“エクスカリバー”を抜きしもの
「大佐。一度、“エクスカリバー”を使ってみてもらえないだろうか? 既に人工聖剣“デュランダルMK3”を取り扱えている君ならば、使用者の問題をクリアできると考えているのだが、どうだろうか?」
オズワルドはガブリエルにそう頼んだ。
「分かりました。やってみましょう」
その様子をアルセーヌは不穏な雰囲気を感じながら見つめていた。
人工聖剣“デュランダルMK3”はどうして動いているのか分からない欠陥兵器なのだ。それを模した“エクスカリバー”もまた欠陥兵器であるだろう。しかし、理屈の上では正しい設計だとオズワルドは説明している。
どうなっているのだ? 理屈の上では正しいのに動かない兵器と理屈の上では正しくないのに動く兵器。どうなっているというのだ?
「では」
ガブリエルが“エクスカリバー”の柄を掴むと、エクスカリバーが輝き始めた。
「現実歪曲値、急上昇中!」
「“エクスカリバー”の起動を確認! “エクスカリバー”の起動を確認!」
オズワルドたちは呆気に取られている。
これまでうんともすんとも言わなかった“エクスカリバー”が動いてるのだ。
研究者の中には喜びのあまり神に祈り出すものまで現れた。
「動くようですよ?」
ガブリエルは“エクスカリバー”を軽く振りながら、そういう。
「あ、ああ。確かにこれは動くようだ。しかし、君と同じような人間を探してこなければいけないというのは苦労しそうだ」
「よろしければ探すのをお手伝いしましょうか?」
「本当か?」
アルセーヌはぎょっとした。
いつの間にガブリエルは人工聖剣を扱える人間を把握したというのだ?
「大佐。そのような安請負は……」
「大丈夫です。任せてください」
ガブリエルはそう言ってサムズアップして見せた。
「ブリタニア連合王国空軍は精鋭だと聞いています。案内していただけますか?」
「空軍をかね?」
「はい。空軍をです。私は自らが選ぶのではなく、神々が選ばれた方を教えるのみなのですよ」
ガブリエルはにこりと微笑んで、そう言った。
オズワルドは理解できなかったようだが、アルセーヌにも理解できていない。
一体、彼女は何をしようというのだ?
一行は『空軍のもっとも優れた部隊を』というガブリエルの要求に応じ、王都郊外にある空軍基地を訪れた。そこには大戦時代を駆け抜けた空軍部隊が駐留してるというのである。ガブリエルは彼らに会うことが必要だと言っていた。
しかし、空軍の騎手に人工聖剣を? 何の役に立つというのだろうか?
「第11戦闘飛行師団の基地だ。君の言う通り精鋭の中の精鋭が集まった部隊だ」
「ありがとうございます、提督」
ガブリエルは自動車で空軍基地の中まで進み、そこで閲兵を受ける。
「敬礼!」
空軍将官の声が響き、フレスベルグの騎手たちが一斉に敬礼する。
「第43戦闘中隊だ。この第11戦闘飛行師団の中でも撃墜数は群を抜いている」
ガブリエルは彼らに答礼しながら閲兵を行い、ひとりの女性の前で足を止めた。
「この方が撃墜数トップですね」
「ほう。分かるかね?」
ガブリエルが言うのにオズワルドが少し驚いたように反応する。
「ミシェル・ネルソン空軍中佐であります! 第43戦闘中隊隊長です」
「初めまして、ミシェルさん。この度はあなたが選ばれました」
「……といいますと?」
ミシェルが理解できないという顔をする。
「あなたが人工聖剣“エクスカリバー”の使い手として選ばれたのです。さあ、どうか一緒に来てください」
「ま、待ってください! これは、一体!?」
ミシェルがオズワルドと空軍将官の両方を見る。
「君は選ばれたのだ、中佐。とりあえず、君が“エクスカリバー”を使えるか確かめてみるとしよう。使えれば──空の上でも使い道はあるだろう」
オズワルドはそう言い、ミシェルを自動車に乗せた。
そして、自動車は再び研究所に戻る。
「“エクスカリバー”の使い手を連れてきた。試験室へ」
「はっ! 直ちに」
ミシェルは訳も分からないままに“エクスカリバー”の下に連れていかれる。
「こいつは……。剣?」
「人工聖剣“エクスカリバー”だ。フランク共和国の人工聖剣“デュランダルMK3”のことは君も聞いたことがあるだろう。我々もそれど同等のものを作ったのだ」
「確かに噂には聞いたことがあります。単騎で戦線を動かせるほどの猛者をフランク共和国は生み出したと。それが彼女なのですか?」
「そうだ。ガブリエル・ジラルディエール大佐。そして彼女は“エクスカリバー”の使い手に君を選んだ」
これで説明は終わりだというようにオズワルドが言葉を切る。
「試して見たまえ、中佐」
「……了解しました」
ミシェルが“エクスカリバー”の柄を握る。
それと同時にガブリエルがそれを手にした時と同じような光が放たれ始める。
「現実歪曲値、極めて高い数字です!」
「“エクスカリバー”の起動を確認!」
慌ただしく研究所の職員たちが動き出す。
現実歪曲値? 魔力のことだろう? どうして魔術師でもない自分からそんなものが測定されるのだ? そもそもこの“エクスカリバー”とはなんだ?
「人工聖剣とは世界の闇を払うための道具のひとつ。人類の英知の結晶のひとつ」
ガブリエルが困惑するミシェルに語り始める。
「その使い手は世界を照らす義務がある。来るべき魔王軍との再戦において、我々はこの“人工聖剣”の光を道しるべにするのです」
「そんな大役……」
自分には無理だと厭うとするのをガブリエルが首を横に振った。
「いいえ、いいえです。あなたにはその資格があります。これまであなたの成してきたことを神々は評価されたのです。これからはともに道しるべになりましょう。人類の明日を、切り開いていこうではないですか」
ガブリエルは優し気にそう言って微笑んだ。
「……私にできるですか。そんな大役が」
「できるからこそ、あなたは選ばれたのです」
選ばれた? 何に? まさか神に選ばれたとでもいうのだろうか?
戦いの中では神々に祈ることがある。生き残りたいと神々に祈ることがある。だが、本当に神がいるとは思えないようなことも起きる。
それが戦争だからと言ってしまえばそれまでだが、神々の存在を身近に感じることがあるのもまた戦争だった。奇跡が起きて自分たちが助かることもままあった。
だが、神が自分を選んだと言われても信じられないものだった。
そんな夢物語のようなことがあり得るはずがない、と。
「戦争は辛く、厳しいものです。ですが、それもまた神々が我々を試しておられる証拠です。神々はいます。そして、神々はあなたを選ばれました。それに応えましょう。その役割を果たしましょう」
ミシェルには本当にガブリエルが、神々の遣いのように思えてきた。
それだけ彼女の笑みは天使のようであったのだ。
「私に果たせる役割なら、果たしましょう。これから再び魔王軍との戦いが始まります。その時自分は役割を果たせるでしょうか?」
「果たせます。あなたは空でその役割を果たしてください。あなたなら、きっと大丈夫です。役割を果たせるでしょう」
ミシェルは人工聖剣“エクスカリバー”を見つめる。
これは確かに自分に力を与えてくれそうだと彼女は思った。
「分かりました。役割を果たしましょう」
ミシェルはそう宣言した。
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