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シーレーン攻撃

……………………


 ──シーレーン攻撃



 まずアルマが驚いたのは海軍のアルトゥル軍港における設備はドックや埠頭だけではなく、潜水艦用のバンカーも備えているということであった。


 潜水艦は発見されにくいことが重要な兵器だが、一度発見されると脆い。航空爆弾一発で撃沈される恐れがあった。


 魔王軍も六ヵ国連合軍も、『作戦行動中の主力艦が航空攻撃によって沈むことはない』と思っているが、潜水艦だけは別だった。こればかりは航空攻撃で撃沈されるのが分かってるのだ。


 そして、潜水艦こそ、これからの作戦において重要なものだった。


「敵のシーレーンを脅かすのにはもちろん戦艦などの主力艦も使う。だが、主役となるのは潜水艦であろう。潜水艦こそが敵のシーレーンを食いちぎるオオカミになる」


 ラインハルトは海軍首脳部の集まった会議の場でそう宣言する。


「潜水艦による通商破壊作戦は君たちも既に経験があるだろう。ベテランの艦長たちも大勢いるはずだ。期待しているよ」


「はっ!」


 潜水艦隊司令官が敬礼を送る。


 彼女の下には今、18隻の潜水艦が所属していた。軍港を外から見た限りで見た以上の潜水艦が所属していることになる。魔王軍はそれだけ外部からの攻撃から潜水艦を守ろうとしていたのだ。


「それから海軍の対空火器を更新したい。従来の15センチ副砲は戦艦から撤去し、代わりに10.5センチ両用砲を装備する。また空いたスペースを活用し、30ミリ連装対空機関砲も装備させるつもりだ」


「空からの脅威に備えるということですか?」


「その通りだ。恐らく君たちは納得しないだろうが、航空攻撃で戦艦が沈む可能性があるのだ。この方針転換は重要だ」


 ラインハルトは確信に近いものがあった。


 航空攻撃で戦艦などの主力艦が沈む可能性について。


 彼は六ヵ国連合軍が大戦末期に空軍のバンカーを爆弾で破壊しているのを見ている。そして戦艦の砲塔の装甲と甲板の装甲はそこまで立派なものではない。


 ただ、大戦末期に建造された戦艦は、一度六ヵ国連合軍と魔王軍海軍第2艦隊との間で戦われた海戦で砲弾が頭上から振ってくるということを経験したため、水平防御についてはある程度のものが行われている。ここに停泊している戦艦も大戦末期に建造されたものであり、比較的防御は高い。


 比較的だ。バンカーやそういうものに比べれば装甲はないも同然と言っていい。


 これから六ヵ国連合軍か魔王軍のどちらかが敵の主力艦を航空攻撃で撃沈する。その時にラインハルトは備えているのである。


「それから素人考えだが、こういうものを考えている。どうだろうか?」


「これは……。ふむ、なるほど……」


 第1艦隊の司令官が頷く。


「閣下。これは実用可能なのでしょうか?」


「君たちの努力次第だ。いや、君たちだけではないか」


「これまで多くのこのような試みが行われてきました。ですが、海は広いということをどなたもお忘れになっているようなのです。海は広く、ランドマークなどありません。それを踏まえてこれを戦力化できるか考えるべきでしょう」


「是非とも検討してくれたまえ。必要なものはこちらで準備しよう」


「お願いいたします」


 海軍総司令官のエリーゼが頷く。


「それにしても戦争は大きな転換点を迎えそうですね」


「そうだとも。我々は海賊のように戦う。敵の弱点を突き、決戦は避け、敵の主力艦とは戦わない。そういう戦いを戦うことになる。戦争は大きな転換点を迎えたのだ」


「そして空からの攻撃に備える」


「そうだ。空からの攻撃に備える。そんなに空が落ちてくるかのような言い方はやめたまえ。これは可能性としてあり得るものなのだ。私の命を賭けていいが、今後5年の間にどちらかの陣営の主力艦が航空攻撃で撃沈されるだろう」


「それではハリネズミのように対空火器を搭載しなければなりませんね」


「恐らくはそれでも足りはしないだろう」


 航空攻撃による主力艦の撃沈。それはあり得るのだろうか?


 まだこの時点では誰もが疑問だった。


「潜水艦隊は早速だが、作戦を開始してもらいたい。我々が戦艦を始めとする主力艦の改装と、補助艦の戦列復帰を行うまでの間、六ヵ国連合軍の海軍部隊の注意を引き付けておいてもらいたい。希望するものがあれば手配しよう」


「では、大戦末期に陸軍に取られて失われた潜水艦乗りたちを4ダースほどいただけますでしょうか?」


「残念だがそれは無理だ、少将」


「分かっております。若い者にはこれから経験を積ませますので、人員だけを補充していただきたい。この港を守る戦いで相当な数の水兵が死んでおります故」


「分かった。手配しよう」


 大戦末期には大勢の水兵が陸軍に取られ地上戦闘に従事した。海軍陸戦隊は猛々しく戦い、そして猛々しく果てた。


 今の潜水艦隊は潜水艦隊として機能しない。水兵の数が足りないのだ。


 鉄の棺桶と呼ばれる潜水艦に乗り込み、敵を粘り強く探し、そして必殺の魚雷を撃ち込むというのは実に甘美なものだろうとラインハルトは思った。今、水兵たちを使うならば、そちらの任務に回した方がいいとも。


「では、準備ができ次第、作戦開始だ」


 水兵の補充は瘴気から製造されたスキュラたちで行い、潜水艦隊司令官の求める通りに行われた。戦艦などの水上艦隊には改装と乗り組みのための人員が送り込まれた。


 潜水艦隊は取り外していた艦載砲を再装備すると作戦に入った。


 この時代の潜水艦は洋上航行を基本とする。ある意味では半潜水艇とでもいうべきものだ。様々な機能が昔の潜水艦と比べて盛り込まれたものの、ずっと潜りながら活動可能なようにはできていない。


 潜水艦隊は周辺に広く散開し、誰かが獲物を見つけるのを待つ。


「目標発見。船団ではないな」


「まだ敵は護衛船団を組んでいないということでしょうか」


「船団を組むのにも技術が必要だし、全体的に見れば船団の効率は非効率だ。そこに獲物を狙うものがいないかぎり、だが」


 今の商船は魔王軍海軍再出現の報を聞きながらも、船団を組むまでには至っていなかった。商船としては海軍の護衛を求めたが、今すぐにでも差し迫った危機ではないとして、海軍首脳部は護衛船団を組んでいなかった。


 最初の流血はそのために起きる。


「艦載砲、砲撃準備」


「了解」


 105ミリ単装砲が暗闇を航行する商船に向けられる。


「撃ち方始め」


「撃ち方始め!」


 砲声が轟き、商船で爆発が生じる。そのまま潜水艦は商船を砲撃すると、撃沈した。


「洋上航行にて撤収」


 艦長は敵商船が沈むのを確認すると指示を出す。


 魚雷を使うのは大物相手だ。あのような小さな商船などは艦載砲で十分。


 商船が明々と周囲を照らし出す中、潜水艦は撤収し、次の獲物を探す。


 このような襲撃がブリタニア連合王国のシーレーンを相手に繰り返され、ブリタニア連合王国は危機的な状況に陥るのであった。


……………………

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