海軍救出
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──海軍救出
まず反応したのは六ヵ国連合軍の空軍部隊だった。
彼らは周辺を哨戒飛行していたが、その彼らがアルトゥル港に向かってくる魔王軍空軍部隊を捕捉したのである。
「哨戒騎より本部。敵空軍部隊を捕捉。数は……なんだあれは……」
『本部より哨戒騎具体的に報告せよ』
「骨だ! 骨が空を飛んでいる!」
そう叫んだ直後、哨戒騎は魔王軍空軍の航空機関砲によって撃墜された。
魔王軍空軍はスケルトンドラゴンを戦列に加えた。
通常のドラゴンとバディを組むようにして編隊を編成し、ロッテ戦術もその編隊で行われた。魔王軍空軍部隊はこれにてようやく攻撃的制空戦闘が行えるようになったのである。敵から航空優勢を奪い取るという攻撃的な作戦が行えるのだ。
魔王軍空軍の出現に慌ただしくフレスベルグが編隊を組んで上昇していく。
彼らは魔王軍空軍部隊を捕捉すると攻撃に入った。
空で複雑な軌跡が描かれ、魔王軍空軍部隊と六ヵ国連合軍空軍部隊が乱舞する。命がけの乱舞だ。少しのミスでも命取りとなる。それでも魔王軍空軍部隊は今のところ、優勢を維持していた。
単純な航空機機関砲の威力の違いと、数の有利だ。そう、魔王軍はついに物量で局地的ながら六ヵ国連合軍に勝ったのだ。
スケルトンドラゴンを数に加えたことで魔王軍空軍部隊の数は2倍となり、それが全力で投入されているのだから、敵から航空優勢を奪えるほどの空軍力が結集していると言っていい。
しかも、対空機関砲や高射砲を取り入れたことで拠点防空の負担が減った魔王軍に対して、六ヵ国連合軍は未だに対空機関銃がしか存在しない。そしてドラゴンの鱗はライフル弾であろうと軽く弾いてしまう。
魔王軍が航空優勢を確保できるのも当然と言えた。
上空で空軍が航空優勢を確実に確保していく中、魔王軍近衛軍と陸軍も行動に移っていた。
最初に動いたのは第1教導猟兵旅団“フェンリル”で、彼らは六ヵ国連合軍の砲兵陣地に近づくと爆薬を放り込んでいき、砲兵を次々に無力化する。弾薬庫も爆破し、砲兵が戦闘不能になったところで散開し、各司令部を潰しに向かう。
六ヵ国連合軍の対応は後手後手だった。
彼らはまさかアルトゥル港を攻撃しているときに背後から襲われるなどとは思わず、兵力の転換にも時間がかかった。その上、将軍たちの中にはアルトゥル港を落としてから、後方の魔王軍の相手をしてはどうか? などという暢気なことをいうものもいる始末で、とにかく対応が遅れた。
それも仕方ないと言えば仕方ない。
彼らはもうすぐアルトゥル港を落とせるはずだったのだ。悲願が目の前で成就しようとしているところに乱入してきた魔王軍は余計な連中でしかない。
だが、こういう場合も想定しておくべきだったのだ。
六ヵ国連合軍は魔都ヘルヘイム奪還に失敗し、損害を負ったという知らせはこのアルトゥル港を攻略中の部隊にも入ってのだから。
それでも対応しなかったのは怠慢でしかない。彼らは魔王軍はもう脆くも崩れ去り、アルトゥル港のように要塞化された陣地を前に六ヵ国連合軍が損害を恐れて撤退しただろうとばかり思っていた。
魔王軍を甘く見た報いは判断を下した将兵たちだけではなく、六ヵ国連合軍の将兵の血でも払わされることになる。
砲兵が無力化された六ヵ国連合軍の陣地に砲弾が降り注ぐ。黒魔術の刻印弾だ。それが雨あられと降り注ぐ。六ヵ国連合軍の将兵は塹壕陣地に籠り、砲撃をやり過ごせることを神々に祈った。
そして、魔王軍近衛軍が突撃してくる。
第1近衛擲弾兵師団“ガルム”を先頭に六ヵ国連合軍の陣地に魔王軍が突撃してくる。近衛吸血鬼と吸血鬼による霧化による高速移動で塹壕に入り込まれ、銃剣で兵士たちが滅多刺しにされる。
ゴブリンやオークも塹壕に飛び込み、塹壕から敗走する六ヵ国連合軍の将兵に向けて機関銃を掃射する。機関銃の射撃で逃げ出した兵士たちがバタバタと倒れる。
こうなるともはやようやくアルトゥル港の観測地点を確保しようとしていた六ヵ国連合軍の部隊も孤立した状態になってしまう。砲兵は壊滅。後方の予備も全滅。残るは自分たちだけで、それも魔王軍に包囲されている。
司令部は第1教導猟兵旅団の攻撃で陥落していた。全ての司令部が沈黙し、命令が下されることはなかった。
手足をもがれ、頭を奪われた六ヵ国連合軍の将兵にできるのは戦い続けることだけであった。ただひたすらに戦い続ける。自分たちが全滅するまで銃を手放さない。1体でも多くの魔族を道ずれにする。
そして、それはなされ、六ヵ国連合軍の残余部隊は少なくない流血の末に殲滅された。これで六ヵ国連合軍の陸上における包囲は解けたのだ。
後は海上における包囲を突破するのみである。
「ヴェンデル。準備は良いですか?」
「動いている目標相手はやりにくいんすけどね。まあ、大丈夫っすよ」
アルマが尋ねるのにヴェンデルが頷いた。
「では、行きましょう。ベネディクタ、敵艦のうち1隻は無傷で確保しますよ」
「了解」
ベネディクタがにやりと笑う。
「では、ヴェンデル」
「はい」
洋上のブリタニア連合王国海軍の艦艇上にポータルが出現する。
「今です!」
「いくぜー!」
アルマとベネディクタがポータルに突撃する。
そして、ポータルから出たとき、そこはブリタニア連合王国海軍の巡洋艦の後部甲板だった。兵士たちの姿は見られない。戦闘状態にあるブリタニア連合王国海軍の艦艇だ。
「で、どうするんだ?」
「内部に突入します。まずは艦橋の制圧を。自沈命令を出させるわけにはいきません」
「了解」
アルマとベネディクタが巡洋艦の内部に突入していく。
「ま、魔族!?」
「死になさい」
突然現れた魔族に驚き慌てふためく水兵をアルマが捻り潰す。
苛烈な攻撃が続き、アルマが捻り潰し、ベネディクタが燃やす。だが、まだ火災発生の警告は出ていない。アルマたちは迅速に制圧していき、艦橋に迫った。
「この先が艦橋のはずです」
「捕虜は?」
「必要ありません」
「了解」
アルマが扉を破壊して艦橋に飛び込む。
「なあっ!? ま、魔族だと!?」
「死に絶えろ」
アルマが兵士たちをねじり殺し、ベネディクタが焼き払う。
「これで1隻確保できましたね」
「だけど、船内にはまだまだ敵がいるぜ?」
ベネディクタが述べるように船内にはまだまだブリタニア連合王国海軍の水兵たちがいる。それを殲滅しないことには制圧できたとは言えない。
「大丈夫です。彼らは気づいていません。このまま艦を別の艦にぶつけます。そして、一気に包囲艦隊の殲滅を図りますよ」
「大胆んでいいねえ」
「ええ。大胆に行きましょう」
アルマは船の舵を自身の呪血魔術で動かすと、狙いを近くの同型の巡洋艦に向けた。そして、猛スピードでその巡洋艦に突撃していく。
目標の巡洋艦がアルマたちの巡洋艦の接近に気づいたときには手遅れだった。巡洋艦は両方とも大破し、浸水して沈んでいく。
「ヴェンデル! 次のポータルを!」
『了解です』
ヴェンデルがポータルを新しく作り、アルマとベネディクタが飛び込む。
そして、彼女たちは次の艦艇に狙いを定めた。
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