魔都ヘルヘイム決戦に向けて
……………………
──魔都ヘルヘイム決戦に向けて
「前進だ、前進。とにかく進め。損害に構うな。下手に策を講じても無駄だ。奴らが決戦に応じざるを得ない状況を作り出す」
ガリエニ大将から指揮を引き継いだブリタニア連合王国陸軍の将軍の指示はシンプルだった。とにかく進み続け、魔都ヘルヘイムを目指せ。それだけである。どんな損耗がでようが気にすることはなく前進を続け、魔都ヘルヘイムを戦場にする。
確かにこの戦法はある意味では有用であった。
下手に策を講じても全軍で相手できない状況では魔王軍に撃破される。そうであるならば、数に物言わせて突き進み、魔都ヘルヘイムでの決戦を敵に強いた方がいい。数の多さという優位さを活かしている。
六ヵ国連合軍はテンポを上げて前進し、魔都ヘルヘイムに迫っている。
「朗報だ」
その六ヵ国連合軍の迫る魔都ヘルヘイムの魔王城でラインハルトが言う。
「あれから新たに我々の戦列に1個大隊の人狼が加わった。これはクラウディアに任せよう。第1教導猟兵大隊は第1教導猟兵連隊に再編成し、クラウディアは中佐に昇格させるとする」
「それはどうも、閣下」
クラウディアが頷いてそう返す。
「それからドラゴンの1個飛行隊が合流した。これで空軍は72体のドラゴンで編成される飛行隊を手にしたことになる。励みたまえよ、マキシミリアン」
「はっ、閣下」
マキシミリアンが頷く。
「よくないニュースは六ヵ国連合軍がもう魔都ヘルヘイムまですぐの地点に迫っているということだ。合計で9個師団。君たちが削ったおかげでかなり数を減らせた。だが、彼らにはまだ空軍がいる。総合的な火力は我々を優に上回るだろう」
火力の差は歴然だった。
敵が数十個連隊規模の砲兵を有しているのに、魔王軍は陸軍の魔都ヘルヘイム防衛隊を含めても5個大隊。軽野砲の砲兵大隊が2個、榴弾砲の砲兵大隊が2個、重砲の大隊が1個。それだけしかないのである。
敵は魔都ヘルヘイムを更地にしようと思えば可能なだけの砲兵を集めて投入してきている。それなのに魔王軍は六ヵ国連合軍が気にも留めないような規模の砲兵しか保有していないのである。
空軍の規模も今だ2桁。六ヵ国連合軍が3桁の単位でフレスベルグを投入できる。
このまま魔都ヘルヘイムで戦えば、魔都ヘルヘイムは赤魔術の刻印弾によって破壊しつくされ、象徴としての意味を失うだろう。嫌顔でも決戦に持ち込まれては、魔王軍も損害をだし、魔都ヘルヘイムをまた脱出しなければならないかもしれない。
いずれにせよ、今の状況はあまりにも絶望的過ぎた。
「防衛計画はどのように?」
「まずは敵の砲兵を潰そう。そうじゃないと話にならない。第1教導猟兵連隊の破壊工作と砲兵の対砲兵射撃で、敵の砲兵を最優先で叩く。幸い、魔王城からの見晴らしは最高だよ。相手の砲兵の位置は丸見えだろう」
ラインハルトが愉快そうに笑う。
「だが、恐らくそこまでしても敵の砲兵は叩き切れない。敵の砲兵を完全に叩くのは不可能かもしれない。我々は敵の砲兵の影響下で戦う覚悟をしなければいけないね。敵の圧倒的火力の下で、我々は這いつくばって、敵と戦うのだ」
ラインハルトはそう語った。あくまで真面目に。
「戦争の勝敗は火砲の優劣によって決まるとも言えるが、我々がそれをひっくり返して見せようじゃないか。我々は二度もこの魔都ヘルヘイムを人間どもに奪わせるわけにはいかないのだ。決して、決して」
ラインハルトが静かに語る。
「さて、防衛戦闘だが、近衛軍、陸軍、空軍の共同作戦になる。各司令官は意志疎通を図っておくように。我々は今は身内で争っているような暇はないのだ。特に近衛軍と陸軍は協調しなければならないよ」
そう言ってラインハルトがアルマとリヒャルトに視線を向ける。
近衛軍と陸軍は昔からリソースを奪い合っていた。
近衛軍も陸軍も役割は似ているからだ。陸上で戦う軍。空軍や海軍ともリソース争いは起きたが、近衛軍と陸軍ほど争わなかった。
近衛吸血鬼を作り、近衛軍に編入するべきだと主張する近衛軍。それよりも通常の吸血鬼や人狼を作って、数を稼ぎ、戦線維持に尽力するべきだと主張する陸軍。質か、それとも数か。その争いは延々と続いていた。
ラインハルトが全ての生産を仕切るようになってから、この手の苦情はなくなったが、今でもアルマとリヒャルトの関係は良好とは言い難い。
アルマはもっと近衛軍の規模を増やすべきだと考えているし、リヒャルトは陸軍の債権を急がなければかつてのようには戦えないと思っている。
どちらの言い分ももっともだ。そもそお今は魔王軍全体の規模が小さすぎる。少ないリソースを奪い合うのはほぼ当然と言えた。
だが、魔都ヘルヘイムの命運をかけた戦いで仲違いするほどアルマとリヒャルトも馬鹿ではない。お互いにできることを全力でやって、協力しようという考えが双方にあった。これで近衛軍と陸軍はきちんと連携するだろう。
「空軍は魔都ヘルヘイム上空の制空戦闘を。しっかり守ってくれたまえ。航空優勢は重要だ。敵の観測騎に魔都ヘルヘイム上空から砲兵を見つけられれば、砲兵は対砲兵射撃でやられてしまうし、敵の空軍部隊に爆撃を受けても魔都ヘルヘイムは灰燼と化すのだ」
「畏まりました、ラインハルト大将閣下」
ラインハルトの言葉にマキシミリアンが頷く。
「よろしい。では、敵が魔都ヘルヘイム内に侵攻してきた場合だ」
ラインハルトが話を進める。
「都市を破壊し尽くされるのは不味い。だが、市街地戦を恐れる六ヵ国連合軍にとってベストな選択肢は赤魔術の刻印弾で可能な限り、都市を破壊してしまうことだ。仮に魔都ヘルヘイムが奪えなかったとしても、魔都ヘルヘイムを破壊したという実績は残る」
それは正しい選択だとラインハルトは語る。
「敵の目的は我々の戦意を挫くことだ。当初からたったの18個師団の増強で、魔王軍の殲滅など考えていない。もし、考えていたのだとすれば現場の将兵が哀れだ。だが、18個師団もあったならば魔都ヘルヘイムを灰燼に帰し、我々魔族に大打撃を与えられただろう。精神的な打撃を。戦意を挫く打撃を。魔都ヘルヘイムが破壊されれば、魔族たちの抵抗はやっと盛り上がってきたのに、また下降するだろう」
だからこそ、魔都ヘルヘイムは狙われているのだとラインハルトは語る。
「魔都ヘルヘイムは守らなければならない。魔王城については私が責任を持って守ろうではないか。諸君らには魔都ヘルヘイム市街地を守ってもらいたい。この素晴らしい都市を破壊させるなど決して許してはならない」
ラインハルトはそう言って幹部たちを見渡した。
「ですが、閣下。具体的にはどのように防衛を? 敵の砲兵は潰しきれず、かつ市街地を火砲による破壊から守るのは不可能に思えます」
リヒャルトが率直に尋ねた。
「簡単だよ。人間には魔族にはできるが、彼らにはできないことがある。それを利用してやればいい。実に単純な話だ。敵の指揮官の判断力にもよるところがあるが、恐らくは上手くいくだろう。彼らは連合軍だ。6つの国が結束した連合軍だ。であるからこそ、難しいこともあるというもんだよ」
「は、はあ……」
リヒャルトは理解できない様子だった。
「では、諸君らに伝授しよう。この魔都ヘルヘイム防衛線で如何にして勝利するか」
ラインハルトは語り始めた。
……………………
面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!




