撃破されて行く六ヵ国連合軍
……………………
──撃破されて行く六ヵ国連合軍
「大尉がやられた!」
「装備は! 装備はまだ来ないのか!?」
ガルム戦闘団が列車を襲っていたとき、陸軍も動いていた。
「弱いな。所詮は人間か」
喉笛を噛み千切って、吐き捨てるようにクラウディアが言う。
陸軍は人狼のみで編成された1個大隊をそのまま運用することにした。
第1教導猟兵大隊。それがクラウディアの大隊に与えられた部隊名だった。
教導部隊というからには戦線後方での後進の育成に当たるべきなのだが、この教導というのは欺瞞名称だ。実際は純粋な戦闘部隊である。
大戦末期に数多くの教導部隊が前線にエリート部隊として投入されては損耗した。彼らは後進を育成することもできず、その役割を果たせずに果てていった。その呪われた教導の名がつけられたことに、クラウディアは少し嫌な気分になったが、部隊の名前ぐらいでだたをこねるほど彼女は子供ではなかった。
第1教導猟兵大隊は六ヵ国連合軍の鉄道を爆破して戦闘を進む装甲列車の戦闘力を奪い、同時に内部に突入した。
今は列車内での戦闘が繰り広げられている。
装備を後方の貨物列車に預けていた六ヵ国連合軍にとっては一方的に狩られる立場に落ちたと言っていい。人狼たちは容赦なく六ヵ国連合軍の将兵を遅い、死体に変えていく。後方でも装甲列車が梱包爆薬によって爆破され、後方からも人狼たちが迫る。
「装備を持ってきました!」
「応戦しろ!」
武器庫から機関銃が持ち出され、クラウディアたちに向けて射撃を始める。
「舐めた真似を」
クラウディアはオオカミ化して、車両内を縦横無尽に駆け回ると機関銃の射手の首に食らいついた。鮮血がほとばしり、射撃が止まる。
「撃て、撃て! 数撃てば当たるはずだ!」
六ヵ国連合軍の将兵が小銃で射撃する。
「応戦だ」
クラウディアは六ヵ国連合軍の残した機関銃を軽々と構えると敵の歩兵に向けて掃射した。歩兵はなすすべもなくなぎ倒される。
「撃て、撃て! 少佐殿を援護しろ!」
ヴァルターたちもクラウディアに追いつき、六ヵ国連合軍の将兵に対して小銃で応戦する。射撃の腕は戦争のために生まれたと言える人狼の方が優れているのは言うまでもなかった。六ヵ国連合軍の将兵は不意打ちに加えて、大規模なへ威力が活かせない環境で撃破されていってしまう。
「一気に制圧するぞ。続け」
「了解!」
ここでも指揮官率先だ。
指揮官であるクラウディアがオオカミ化して車両の中を駆けていく。敵を食い殺し、撃ち殺し、刺し殺す。車両の中の将兵は次第に数を減らしていき、窓から逃亡するものも現れたが、狙撃によって射殺される。
クラウディアたちは突撃を続け、車両を一挙に掌握した。
「武器弾薬は奪っておけ。偽装に使える」
「了解」
敵の兵士に紛れて不意を打つのも、人狼の得意技だ。
「では、制圧完了だ。次の車両を狙うぞ」
第1教導猟兵大隊は六ヵ国連合軍の将兵の軍服と武器を奪うと、次に向かった。
補給の面からも独立して行動し続ける第1教導猟兵大隊が敵の武器を使うというのは好都合だ。六ヵ国連合軍の装備の企画は統一されている。ライフル弾、拳銃弾、砲弾。全てにおいて統一されたものが使用されている。
一部の特殊な重砲の類は規格が異なることもあるが、そういう部隊は今は相手にしなくていい。今、相手にするのは通常編成の歩兵部隊だ。
クラウディアたちは六ヵ国連合軍の武器と軍服を装備して、次の車両を狙う。
次も線路を破壊しておき、そしてその線路の傍でクラウディアと数名が待つ。
「おーい! 止まれー!」
ヴァルターが装甲列車に向けて手を振る。
「どうした? 何があったんだ?」
「魔王軍のサボタージュだ。また近くにいるかもしれないから警戒している。あんたたちは鉄道師団だろう? 修理していってくれないか?」
「もちろんだ」
鉄道師団の将兵が装甲列車から降りてくる。
「魔王軍もちまちまとしたことをするな……」
「ああ。全くだ。もっと大胆にやればいいのにな。こんな風に」
クラウディアが銃剣で鉄道師団の将校の首を背後から貫いた。頸椎が破壊され、同時に首を流れる頸動脈が切れる。
将校は何が起きたかも分からずに死亡した。
それが合図となり、第1教導猟兵大隊の全員が出てきた兵卒たちを襲い、殺害する。同時に装甲列車に人狼が飛び込み、そこにいた兵士の喉笛を噛み千切った。
装甲列車は音もなく制圧され、残るは車両内の兵士たちだけになる。
「梱包爆薬を各車両に。吹き飛ばせ」
「了解」
第1教導猟兵大隊の人狼たちが車両の周りを駆け巡り、目にもとまらぬ速さで時限信管をセットした梱包爆薬を車両に下に放り込んでいく。後方の装甲列車から怪訝に思った鉄道師団の兵士が姿を見せるが、銃剣で刺突され、喉笛を食いちぎられ、首を折られ、音もなく始末された。
そして、梱包爆薬が次々に炸裂していく。
車両ごと兵士が吹き飛ばされ、兵士の残骸が周囲に散らばる。
もう辺りは血の海と化し、人間のパーツがそこら中に散乱してた。
悲鳴や呻き声が聞こえる当り、また生き残りはいるのだろうが、これでは生き残っていてもどうしようもない状況なのは明白だった。
「生き残りを始末しろ。確実に。ひとりずつ。手を抜くな」
「了解、少佐殿」
第1教導猟兵大隊の人狼たちが生き残りを始末していく。
「しかし、連中の軍服だけは進歩していないな」
「カーキ色。その一色。魔王軍も迷彩服を導入したのは大戦末期ですが」
「ああ。カモフラージュは重要だ。戦場で死にたくなければ、敵に気づかれなければいい。その点、近衛軍の連中が黒い軍服にこだわってる理由が分からない」
自分が纏っている軍服を眺めながらクラウディアが言うのにヴァルターが頷く。
「近衛軍はもはやプライドで動いているような連中ですから。合理性がないんですよ」
「そうかもしれないな。せめてプライドでも持っていなければ、狂人の近衛などやっていられまい。私がごめんだな」
クラウディアはそう言うと、部下が全ての兵士を処刑したかを確認しに向かった。
「終わったか?」
「はっ。これで最後です」
「よろしい」
人狼は感覚器官が優れている。
視力は抜群だし、嗅覚は言うまでもなく、そして聴覚も優れている。
人間の心臓の音を聞いて、どこ人間が潜んでいるかを当てることもできるし、敵の規模を知ることも、敵が警戒しているかどうかも知ることができる。
「迅速に次を襲うぞ。六ヵ国連合軍が集結しきるのが先か、こちらが各個撃破仕切るのが先かだ。そして、恐らく六ヵ国連合軍の集結を完全に阻止することは不可能だ。だが、数を減らしておくことはできる」
クラウディアが破壊された貨物車の中から兵糧を見つける。
「我々は単独で行動し続ける。友軍の支援はない。それでも戦えるな?」
「もちろんです、少佐殿」
ヴァルターたちが敬礼を送る。
「では、諸君。六ヵ国連合軍を温かく歓迎してやろう」
そう言ってクラウディアは兵糧の缶詰をヴァルターに投げ渡した。
彼らはまた装備を回収し、兵糧を回収し、次の車両を襲う。
……………………
面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!




