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城塞の戦力との合流

……………………


 ──城塞の戦力との合流



「無事に敵を壊滅させたようですね、ベネディクタ、バルドゥイーン」


「ああ。敵は壊滅した。今は残党狩りだ。この期に及んで逃げれると勘違いしている連中がいるようだ。塹壕陣地を出て逃走しつつある。追撃殲滅を騎兵部隊に命じてある。逃げられることなく殲滅することができるだろう」


 バルドゥイーンはそう請け負った。


「捕虜は?」


「将校を確保している。ヴェンデルのポータルで輸送してもらえるか?」


 バルドゥイーンはそう言ってヴェンデルを見る。


「了解、バルドゥイーンの兄貴。すぐにポータルを展開して、捕虜たちを魔王城に送るっす。他に何かリクエストは?」


「ない。忠実に任務を遂行せよ」


「了解」


 ヴェンデルは捕虜になった六ヵ国連合軍の将校たちをポータルの向こう側にいる魔族たちに引き渡していく。


「それではいよいよ、残存戦力との合流だな」


「ええ。相手はこれまで包囲されて、辛い状態にあったはずです。迅速に救助しましょう。いきますよ」


「了解」


 アルマにバルドゥイーンが続き、バルドゥイーンにベネディクタが続き、最後尾をポータルを閉じたヴェンデルが進んでいく。


「ここで包囲されていた部隊は?」


「分かりません。魔王軍は大戦末期にはどこにどの部隊が存在するか全く把握できていませんでした。参謀本部ですら、どの部隊がまだ生きていて、どこにて、どの部隊が壊滅しているのかなど分からなかったのです」


「そうでしたな。あれはまさに大戦末期だった」


 末期的。


 魔王軍は大戦末期には部隊間の連携どころか連絡すらもおぼつかず、どこにどの部隊がいるのかすら分からず、部隊は分断されたまま行方不明になっていた。それほどまでに六ヵ国連合軍の攻撃は激しく、全てが飲み込まれたのである。


「ですが、3個師団を相手に粘り強く戦っていた部隊です。期待できるでしょう」


 アルマはそう言って城塞に進む。


 城砦の一部である都市部は六ヵ国連合軍の砲爆撃で廃墟になっている。


 物陰から何が飛び出してきてもおかしくないが、六ヵ国連合軍は壊滅したという確証があるし、生き残っていれば対処できるように近衛吸血鬼としての索敵能力は起動しておいた。これでどこに何が潜んでいようが分かる。


 アルマたちは生き残っている友軍がどうなっているのかを考えながら進む。


 弱り切っているのではないだろうか? 救助が必要なのではないだろうか? 士気はどん底まで落ちているのではないだろうか? 彼らはまだ戦えるのあろうか?


 そんなことを考えながら、アルマが進んだとき、前をオオカミが横切った。素早く建物の影から影に移動したオオカミを見て、すぐさまアルマはここでの生き残りは人狼だと察した。


 人狼は頼りになる兵士だ。人狼ほどタフな兵士もいない。


 近衛吸血鬼には負けるが、と思いつつもアルマは進む。


「止まれ!」


 そこで声が響いた。


 前方で小銃を構えた魔王軍陸軍の軍服を纏った兵士が銃口をアルマに向けていた。


「敵ではありません。友軍です。救助に来ました」


「誰がそんなことを頼んだ?」


「救助は必要だったでしょう?」


「いいや。俺たちは俺たちだけで戦えていた」


 人狼はタフだが、そのタフさが誇りなせいもあって、頑固なところがあるのだということをアルマは思い出した。


「命令です。魔王最終指令が下されたのです。全軍全将兵は『戦い続けろ』という命令が下されたのです。あなたたちもここに籠っているのではなく、魔王軍の一員として戦列に復帰しなさい。これは命令です」


「はっ! 魔王最終指令がなんだ。魔王の無能さのツケを俺たちは支払ってきたんだ。前線で血を流してきた俺たちが後方の無能さのツケを支払ってきていたんだ。今になって魔王最終指令に従え、だと? ふざけるな」


 ぞろぞろと兵士たちが出てきて、同じように銃口をアルマたちに向ける。


「従いなさい。あなたたちの存在が許されているのはそのためだけです。他に存在が許されている理由などないのです。従わないならば──」


 アルマが呪血魔術によって小銃を破壊する。


「あなたたちを殲滅するまでです」


 アルマははっきりとそう言った。


「面白い。人狼と近衛吸血鬼のどちらが優れているか証明してやろう」


 小銃を破壊された人狼が完全なオオカミへと変化する。


 人狼のオオカミへの変化は吸血鬼の霧化とよく似ている。周囲の物質を内包しながら、姿かたちを変化させるのだ。だから、次に人間の姿に戻った時、もし小銃を持っていれば小銃は具現化されるし、もし軍服を着ていたら軍服も具現化される。


「大将、トラブルっす」


「そのようだね」


 そこで後方から不意に声が響いた。


「ラインハルト……!?」


 人狼たちがたじろぐ。


「人狼とは。喜ばしい。君らを生み出すのには苦労するのだ。生き残りがいてくれて助かった。これからは君たちを参考にして、人狼を生み出すことができる。もっとも、君たちほどの実戦経験を得るまでには長い年月がかかるだろうが」


 ラインハルトはゆっくりと人狼たちに近づく。


「止まれ。動くな。その首を食いちぎってやるぞ……」


「できるかね? 出来ると思うかね? 君たち人狼は賢い。実に賢い。勝てる戦いと負ける戦いをすぐさま判断できる。そうであるが故に君たちは優秀だった。だが、同時に不満でもあっただろう。大戦末期には勝てない戦いに無理やり動員されて、無理やり戦わされていたのだから。私のような無能な指導部のせいだと罵ってもらっていい。君たちにはその権利がある」


 ラインハルトは淡々とそう語る。


「どうしたかね? 罵りたまえよ。私は甘んじてそれを受け入れよう。指導部は確かに無能だった。指導部の無能のために失われた勝利はいくつもある。君たちが血を流して戦っていたのに、我々が無能だったせいで失われた勝利だ。それがあれば今の状況は変わっていたかもしれない」


 人狼たちは身動きできずに、銃口をただ向けている。


「だがね、その無能な指導部も今や一新されたのだよ。魔王陛下も四天王も、ほぼ戦死した。残ったのは私だけだ。私は誓おう。二度とあのような無能な指導体制を作らないことを、勝利を失わないことを、君たちが流した血の分だけの勝利が得られることを」


 人狼たちはラインハルトの言葉は聞いてない。


 ただ、彼から感じる気配を感じていたのだ。


 人狼は直観に優れる魔族だ。彼らは相手の強弱をすぐに見分けられる。普通の人間どもはこれまで弱者として見下し、屠り続けてきた。だが、普通の人間が軍を編成して戦争を仕掛けてきても、その直感は働いていた。そして、大戦末期において強さは人間の方が上だとはっきり分かった。


 そのような人狼たちだからこそ、ラインハルトの変化に気づいていた。


 ラインハルトはかつてのただの不老不死の魔術師ではない。もっと何か“別の存在”へと変わっている。そして、それは恐ろしく強い。ここにいる人狼たちが一斉に襲い掛かっても、仮に倍の数の人狼がいたとしても勝利できない。


 人狼たちは自分たちの敗北を戦わずして悟った。


……………………

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[一言] 人狼、なんとか従えられそう
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