城塞の解放はまもなく
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──城塞の解放はまもなく
軍団司令部を失った3個師団は師団司令部も次々に喪失し、連隊司令部が失われ、部隊が孤立していく。
そして、孤立したところを撃破される。
「燃えろ、燃えろ! 焼けただれて、死んじまえ!」
ベネディクタが敵を燃やす。
彼女の結界は可能な限りの範囲を広げて、3個師団のうち1個師団の兵員を完全に収めた。その威力は絶大かつ、従軍魔術師は魔力を吸われて結界を展開することも、反撃することもできない。
「結界破砕弾の射撃に合わせて多段魔術を展開する。3カウント!」
だが、人間たちも負けてはいなかった。
結界破砕弾。人類が新たに開発した兵器だ。
文字通り、結界を破砕するための砲弾である。黒魔術による結界も、呪血魔術による結界も、そして白魔術による結界も同様に破壊できる。
今のところ、37ミリ歩兵砲での運用しかできないが、これから開発が進むだろう。だが、今あるのは37ミリ歩兵砲での運用可能な砲弾だけだ。砲弾を装填し、赤黒く、そして半透明に染まった結界に向けて37ミリ歩兵砲の砲口が向けられる。
「撃てぇ!」
37ミリ歩兵砲が砲声を響かせて、結界破砕弾を結界に叩き込む。
「多段魔術、撃てぇ!」
多段魔術はひとりの人間が放った魔術にさらに魔術を上乗せし、さらに上乗せしと、威力を高めていくのである。
複数人が通常の威力の魔術を放っても近衛吸血鬼のような怪物相手には効果がない。空軍基地の鉄筋コンクリートでできたバンカーを軽野砲で撃ち続けても意味がなかったように、近衛吸血鬼やドラゴンを相手に通常の魔術は意味がない。
だから、人間は魔術の威力を増幅させる方法を生み出そうとしてきた。
そして、研究の末に生まれたのが多段魔術。
それが今、ベネディクタに狙いを定めて放たれた。
「なあ!? 畜生、あぶねえな!」
ベネディクタは間一髪でそれを回避すると再度結界を展開して、魔力を急速に吸い上げ、炎にして従軍魔術師たちに叩きつける。
「ああ! ああ!」
「助けてくれ! 助けて!」
従軍魔術師たちは炎に包まれ、地面をのたうつ。
「もう一発だ! 結界破砕弾装填!」
「させるか!」
37ミリ歩兵砲も炎を浴びて砲弾が暴発する。
「畜生。対策取ってくるな、人間どもも」
ベネディクタが呻く。
その間に、バルドゥイーンのガルム戦闘団も攻撃を行っていた。
「進め! 砲兵の援護下で突撃せよ!」
2個砲兵大隊が砲撃を行い、ゴブリンとオークたちが突撃していく。
そして、近衛吸血鬼と吸血鬼も突撃する。
霧化して高速移動し、出現すると同時に銃剣を敵に突き立てる。同時に塹壕の中に手榴弾をばら撒いて、また霧化して高速移動する。手榴弾によって塹壕内の六ヵ国連合軍の兵士たちは打撃を受け、そこにオークとゴブリンがなだれ込んでくる。
塹壕陣地は瞬く間に制圧され、後方から徐々に砲兵陣地に近づく。
六ヵ国連合軍は後方からの敵襲に備えて、後方の砲兵陣地のさらに後ろに陣地を設けていた。その陣地が制圧されているのだ。
ガルム戦闘団が砲兵陣地に迫る。
このままならば六ヵ国連合軍の砲兵陣地は蹂躙される。
「撃てぇ!」
だが、六ヵ国連合軍はそう簡単には屈さなかった。
口径85ミリの軽野砲と口径155ミリの榴弾砲に水平射撃用のキャニスター弾を装填して、迫りくるガルム戦闘団に向けて放つ。
キャニスター弾でも刻印弾であることには変わりなく、霧化して高速移動していた吸血鬼たちを吹きとばす。さらにゴブリンやオークも砲弾の直撃を受けて肉塊になる。
「敵砲兵の砲撃により第1歩兵大隊に損害!」
「舐めた真似を。砲兵陣地を砲撃しろ。吹き飛ばせ」
「了解!」
前線に迫ったガルム戦闘団の兵士が観測班を務め、2個砲兵大隊が敵の砲兵陣地を狙って砲撃を開始する。
水平射撃を行っていた六ヵ国連合軍の砲兵は砲弾の直撃を受けて吹き飛ばされる。砲弾が誘爆し、砲兵陣地が炎に包まれて行く。砲弾の雨から逃げる術はなく、砲兵陣地は砲弾の雨によって制圧された。
そして、ガルム戦闘団が再び突撃を開始する。
この時点でベネディクタの攻撃とアルマの攻撃、そしてガルム戦闘団の攻撃によって、六ヵ国連合軍の3個師団のうち2個師団規模の戦力が壊滅していた。
残る1個師団は城塞を包囲する部隊で、城塞の中にいる魔王軍残党と対峙している。
つまりは彼らは逆包囲に近い状況に合い、挟撃される状況になったのである。
もっとも、城塞の魔王軍残党とアルマたちが連携していない。挟撃とは形ばかりであり、実際はアルマたちだけの攻撃である。
「全軍前進! 人間どもを蹂躙せよ! 砲兵は射撃を継続!」
2個砲兵大隊が砲撃を継続する。
「やはり砲兵の力が足りない。もっと砲兵が必要だ。敵が刻印弾を使用し、友軍歩兵を食い止めるのを阻止するのには砲兵が必要だ。敵の塹壕陣地に有効な打撃を与えるためには、210ミリレベルの重砲が必要になる。
だが、今のガルム戦闘団には75ミリ軽野砲と155ミリ榴弾砲しかない。
バルドゥイーンは今後、部隊を拡張するとすれば砲兵から拡大したいと思っている。砲兵は吸血鬼のように瘴気を大量に損耗する魔族でなくとも扱える。ゴブリンやオークが吸血鬼のそれに匹敵する戦果を上げられるのである。
これほど費用対効果の高いものもないだろう。
問題は魔王軍全体の装備不足だ。
空軍に航空機関砲“グラムB型”を供給するための生産ラインを作ったので、魔王軍の生産ラインは圧迫されている。砲兵のための野砲などを生産するための、生産ラインは辛うじて動いている状況だ。
魔王軍は正式採用小銃であるGew1888小銃やMG88重機関銃の生産ラインもギリギリで稼働し、何とか供給が間に合っている状況なのだ。ゴブリンやオークを戦闘員として動員したために、生産状況は悪化している。
「戦力の単純な増強よりも、生産体制の強化が必要か。だが、それは私の管轄するところではない。ラインハルト大将の管轄だ。今の魔王軍の最高指導者にして、我々が指揮下に置く部隊の他のことを管轄するのラインハルト大将閣下、ラインハルト摂政閣下、ラインハルト上級集団司令官閣下だ」
バルドゥイーンは准将に過ぎず、管轄するのは1個旅団戦闘団のみだ。それが魔王軍の生産体制に口出しするのは管轄を越えている。
だが、現場が何を必要としているかを伝えることは問題はないだろう。
前線にはもっと大量の砲兵と重砲が必要だ。砲兵は戦争の王なのだから。
「第2歩兵大隊。敵包囲網と突破! 制圧にかかっています!」
「塹壕陣地を全て制圧したら、いよいよ友軍と合流だ。砲兵は援護を続けろ。そして、突撃を継続せよ。突撃だ。突撃せよ。突撃し、殺せ、殺せ、殺せ。銃剣で滅多刺しにして、手榴弾で吹き飛ばし、ライフルで撃ち抜け」
バルドゥイーンが剣呑な命令を下す。
ガルム戦闘団は砲兵がひたすらに砲撃を続けて黒魔術の刻印弾で敵を屍食鬼に変えつつ、屍食鬼な仲間を襲い、食い殺していく。
「よう。ガルム戦闘団の連中か? ここから先は制圧したぞ」
ベネディクタが焼死体の死体の山の上でそう言う。
「ベネディクタ。生き残りを取れと命令されたはずだぞ。全て燃やしてどうする」
「仕方ないだろう。あたしに手加減なんてできないんだ」
バルドゥイーンが責めるのに、ベネディクタは飄々とそう言った。
「あんたは生き残りは取れたのか?」
「ああ。将校たちを確保した。情報源として利用できる」
「仕事熱心なことで」
ベネディクタは肩をすくめた。
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