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城塞の解放に向けて

……………………


 ──城塞の解放に向けて



「あいつら、呪血魔術への対抗手段を準備している」


「結界型のクローズドな呪血魔術はそうでしょう。ですが、私の呪血魔術は何の区別もなく、相手を捻り潰す」


 アルマはそう言って一斉に敵の歩兵砲を全て叩き潰した。


「ひゅう。流石はラインハルト大将閣下のお気に入りだ」


「そのようなことはありません。私も等しく駒です。戦場における駒です。戦争というゲームにおける駒です。そのことに変わりはありません」


「じゃあ、あたしも暴れようかな!」


 ベネディクタが結界を張り直し、兵士たちから魔力を吸い上げ、相手に叩きつける。


 塹壕の中が炎に包まれ、兵士たちが悲鳴を上げ乍ら塹壕の中でのたうつ。


「ベネディクタ。その調子で雑兵を処理し、敵を攪乱しなさい。ヴェンデル、ポータルを作った時にもっとも抵抗のあった場所は分かりますか?」


「地図のこの地点ですよ。ああ、白魔術の結界が濃い場所が司令部だと」


「その通りです。私は司令部を制圧しに向かいます。あなたはここで待機を」


「了解」


 アルマはヴェンデルの情報に従い、もっとも白魔術の結界が濃い場所を目指す。


「吸血鬼だ! 近衛吸血鬼だぞ!」


「多段魔術準備!」


 白魔術師たちが結界を張るのを止め、アルマに狙いを定めて魔力を込める。


「多段魔術、撃てっ!」


 アルマが自分に向かってきた白魔術の攻撃に目を丸くする。


 それは今まで見たこともないような規模の白魔術だった。


 アルマは間一髪でそれを回避すると、白魔術師たちに呪血魔術を向ける。


 8人の従軍魔術師のうち、5名が潰されて骨と血だけになった。残りは白魔術の結界を作って防御の構えを見せている。


「その程度の白魔術の結界で私の攻撃が防げるとでも?」


 アルマの呪血魔術が白魔術の結界を破壊し、容易にその先にいる人間を血と骨に変える。攻撃に転じようとした従軍魔術師が態勢を整え直そうとするが、その前にアルマの呪血魔術が従軍魔術師を捕え八つ裂きにした。


「雑兵に興味はないのです。死になさい」


 アルマは最後の従軍魔術師の頭を潰す。


「さて、司令部を制圧しましょう」


 アルマはゆっくりと司令部の天幕に向かう。


 警備の兵士が刻印弾で発砲するのを叩き落とし、アルマは兵士たちを潰す。


 彼女は一滴の血を浴びることもなく、司令部の天幕を開いた。


「魔族!」


「近衛吸血鬼か……!」


 司令官の陸軍中将が呻き、参謀たちが拳銃を抜こうとする。


 そこでアルマが指を振ると、参謀たちの手首がへし折れ、彼らの手から拳銃が地面に落ちる。彼らは手首からの出血を手で押さえ、恐怖の目でアルマを見ていた。


「私の呪血魔術は自由魔術です。結界魔術のような精密性はありません。手首の次に腕そのものを失いたくなければ、大人しくしていることです」


「貴様らが魔都ヘルヘイムを奪還したのだな」


 陸軍中将がアルマを睨みつける。


「そうです。我々が魔都ヘルヘイムを解放しました。これから各地で魔王軍が蜂起し、我々はかつての巨大な存在となるでしょう。あなた方にはそれを見学する権利をあげようではないですか。武装解除して、大人しく投降しなさい」


「部下たちの命を保障しろ」


「不可能です。我々には3個師団もの捕虜を抱える気はないですし、あなたの部下たちも魔族の捕虜になるぐらいならば抵抗するでしょう。軍隊とは頭を潰されると確かに弱りますが、完全に死にはしないのですから」


 アルマはそう言いながら手を伸ばし、陸軍中将の腰にあった拳銃を潰す。


「あなた方の身の安全は保障してあげましょう。ですから、降伏しなさい」


「中将閣下! なりません! 魔王軍の捕虜にな──」


 参謀のひとりがそう叫びかけて、その足がへし折れ、悲鳴に代わった。


「降伏しろ、とそう言っているのです。あなた方がそれ以外にこの場から生きて逃れる術はありません。分かりますか、人間?」


「降伏する……」


 陸軍中将は両手を上げた。


「ヴェンデル」


「はい。アルマの姐さん」


「こいつらを魔王城に連れて行きなさい。丁重に扱って差し上げるのですよ」


「了解っす」


 ヴェンデルはポータルを開くと、ポータルから魔族たちが出てきた。ゴブリンやオークたちで、この時を待って待機していた陸軍の部隊だ。


「後はお任せするっす。丁重に、と」


「分かりました、少佐殿」


 ヴェンデルは陸軍中将たちが連れていかれるのを見守った。


「終わりました、アルマの姐さん」


「ご苦労様です、ヴェンデル。ところで、あなたは複数の魔術師が同系統の魔術を使って、威力を増大させる業というのを知っていますか?」


「いや、聞いたことないっす。なんすか、それ?」


「先ほど遭遇した白魔術師が8人で連携して単一の魔術を放ってきたのです。8人分の白魔術です。私でも重傷になり得たでしょう。あなたなら死んでいましたよ。人間たちは新しい魔術の投射方法を確立したようです」


「それは参りましたね」


「人間たちは今も進化を続けているということです。結界を破壊する砲弾といい、複数人での魔術といい、あの、あの化け物の、化け物の人工聖剣といい……」


 アルマが苦しむように頭を掻き毟る。


「アルマの姐さん。あの化け物のことは忘れましょう。あれは例外っす。人間どもが全員あんな化け物になったわけではないっす。あれは……案外、どこかでのたれ死んでるかもしれないですよ」


「それは許されません! あれを殺すのは私です! 私が殺すのです!」


 鬼気迫る様子でアルマが叫ぶ。


「八つ裂きにしてやる……。まず手足を潰して、それから腹を抉り、ゆっくりと頭を潰してやる……」


 アルマの様子にヴェンデルはかける言葉がなかった。


「まあ、今はいいです。今は我々がすべきことをしましょう。司令部の人間は押さえました。後は数名の雑兵を確保して、残りは皆殺しにしてしまいましょう。ヴェンデル、あなたは私に随伴しなさい」


「はい、アルマ少将閣下」


 アルマはいつもの冷静なアルマに戻り、戦場に向かう。


 ヴェンデルもあの化け物──ガブリエルには遭遇してる。アルマと近衛吸血鬼たちがあの“剣の死神”と交戦したところを目撃した。


 その時にガブリエルはアルマの右腕を切り落とし、一瞬で数十名の近衛吸血鬼を始末した。圧倒的戦闘力を前にアルマたちは完敗したのである。


 アルマが殺されず、そして右腕が復帰しているのはヴェンデルがポータルで戦場から離脱させ、捕虜というよりも血液パックとして生かしておいた人間の血を吸わせたからである。あの時のアルマは完全な混乱状態で落ち着かせるのに酷く苦労した。


 だが、何とかアルマは落ち着き、ラインハルトに敗北を知らせに行ったのだ。


「またあんなことになるのは勘弁っすよ」


 ヴェンデルはアルマに随伴しながら、そう呟いた。


 今度は助かるという保障はないのだ。


……………………

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[一言] アルマも取り乱すことあるんだなあ
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