表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/117

城塞奇襲

……………………


 ──城塞奇襲



 六ヵ国連合軍は地点アルファ・ツーとだけ呼ばれる要塞を包囲して、既に2週間が経過していた。未だに城塞は陥落せず、攻撃は度々失敗してる。


「中将閣下。本国はなんと?」


「撤退はスケジュール通り、だそうだ。全く、本国の連中は何を考えてやがる。魔都ヘルヘイムは奪い返され、各地で魔王軍の残党どもの行動が活発化しているというのに、兵力を削減する? どうかしているとしか思えん」


 城塞アルファ・ツーを包囲する3個師団の軍団を指揮するブリタニア連合王国陸軍中将は呻きながら、地図を見渡す。


「我々の師団にも撤退命令が出ているものがある。最低限、ここを畳んでおきたい。だが、敵は間違いなく人狼、なんだな?」


「間違いありません。偵察班が確認しております」


 そう、城塞アルファ・ツーに立て籠もっているのは人狼たちだった。


「朝になったら総攻撃を仕掛ける。それまでは警戒を密にしろ。白魔術で敵の呪血魔術の妨害を実行しつつ、霧化による侵入に警戒。全将兵に聖水を配布しろ。我々は勝利する。撤退するまでには勝利する」


 勝利は言っても極局地的な勝利だ。


 城砦アルファ・ツーは城塞と都市の複合体だ。都市機能は既に六ヵ国連合軍の砲爆撃で破壊し尽くされているが、それでも遮蔽物としての機能を維持している。


 六ヵ国連合軍はこの城砦アルファ・ツーを包囲し、砲爆撃とともに歩兵が攻撃を仕掛けたが、全ての攻撃は失敗に終わり、損害だけが出ている。


 それも当然。相手は人狼なのだ。


 もっとも戦いに優れた種族。戦闘のみに特化した魔族。


 彼らは吸血鬼のように霧化して高速移動することも、呪血魔術を使うわけでもない。だが、その身のこなしは生まれながらにして戦士であり、また白魔術の刻印弾を受けても耐えられるだけのタフネスを持ち合わせている。


 変化によってオオカミそのものに変化することもでき、巨大なオオカミが襲い掛かってくるのに人間の兵士は本能的な恐怖を覚える。その恐怖を抱いている隙に、人狼は瞬く間に人間たちを排除してしまうのである。


 その上、厄介なのが人狼が人間に偽装できることだ。


 敵の軍服を奪った人狼が後方の兵站基地に忍び込み、兵站基地を派手に爆破したり、命令書を途中で奪ってすり替えて届けたりして、人狼たちは六ヵ国連合軍に多大な混乱をもたらしてきた。


 だが、その人狼も包囲されてしまえば、そのような能力を発揮できない。そのはずだった。だが、彼らは奪った軍服を装備を使って、敵の隊列に紛れ込み、偽りの報告をして、六ヵ国連合軍の部隊をキルゾーンに誘い出す。


 とにかく、人狼のせいで六ヵ国連合軍は友軍すら信頼できなくなりつつあった。


「なんとしても落とさなければならない。全ての火砲の照準は城砦アルファ・ツーに定めておけ。それから何度も言うが、魔王軍の奇襲に警戒しろ。奴らは魔都ヘルヘイムを奪った。2個師団を平らげることぐらい連中には朝飯前ということだ。我々は3個師団だが、だからと言って安心できるものではない」


「了解しました、中将閣下。後方においても敵の攻撃への警戒を厳重に行います」


「紫外線照射装置も携行させろ。歩哨は兵士2名と従軍魔術師で構成。常に白魔術の結界を張って、霧化による高速移動による攻撃に対処する」


「了解」


 3個師団の戦力は極めて高い警戒態勢にあった。


 戦線後方にも防御陣地が構えられ、刻印弾を使用する銃火器が配備される。


 現状で魔王軍に逆包囲などはないだろうが、魔王軍の近衛吸血鬼などは1体存在するだけでも師団が壊滅するという。魔都ヘルヘイムはそういう近衛吸血鬼に襲撃されたのだろうという意見が主だった。


 あの巨大なドラゴンを見たものは誰も司令部に事実を報告できなかった。


「大戦末期でも近衛吸血鬼たちは悪夢だった。それが再び我々に牙を剥くとなれば、危機的だ。大戦末期は我々には数があった。数百個師団という戦力があった。今の我々にあるのは十数個師団だけで、それも撤退しつつある」


 中将がゆっくりと語る。


「この戦争は今も続いている。終わってなどいない。終わったと考えるのは楽観的かつ無責任な判断だ。その後方の過ちは現場の血で補われる。つまりは我々の血によって。だが、それでも我々はブリタニア連合王国としても義務を果たさなければならない」


「たとえ死に至ろうとも、義務を全うする次第です」


「諸君らは良い兵士だ」


 そのころ、城塞アルファ・ツーの付近にポータルの展開位置を探ろうとヴェンデルが手を伸ばしていることには、流石の彼らも気づいていなかった。


「白魔術の結界だらけっす。これは相当後方にポータルを展開させるしかなさそうですよ。それで構わないすか、バルドゥイーン准将閣下?」


「構わない。それでやってくれ。我々は敵の注意を引くのが仕事だ。ベネディクタとアルマが奇襲に成功すればそれで作戦は進むことになる」


「了解っす。じゃあ、ここら辺に、と」


 結界が入り口と出口の両方に展開され、バルドゥイーンのガルム戦闘団が前進していく。近衛吸血鬼を先頭に吸血鬼、ゴブリン、オークが続いていく。陸軍と違って近衛吸血鬼が存在し、ゴブリンやオークの割合は少なく、吸血鬼が多いのが近衛軍の特徴だ。


「前進! 前進せよ! 近衛軍の誇りにかけて勝利する!」


「了解!」


 バルドゥイーンはまずポータルを潜り、それから部下たちが続く。


「ガルム戦闘団移動完了っす」


「それでは暫くしてから、我々のポータルを」


「バルドゥイーンの兄貴が敵の注意を惹きつけてくれるといいっすけど」


「彼は役割を果たすはずです。誰よりも命令を重視しています」


「アルマの姐さんよりも、ですか?」


「訂正します。彼は私に次いで命令を重視しています」


 その間にもヴェンデルはポータルを展開できそうな場所を探っていた。


「見つけたっす。今すぐ殴り込むっすか?」


「ええ。そうします」


「バルドゥイーンの兄貴からの連絡を待った方がよくないっすか?」


「大丈夫です。バルドゥイーンならば任務をこなしているはずです」


「……分かったっす。では、ポータルを開くっす」


 ポータルが再び開かれる。


「お先に失礼!」


「ベネディクタ! 全くあの子は。ヴェンデル、行きますよ」


「了解っす」


 そして、呪血魔術が使える近衛吸血鬼3名が戦場に赴いた。


 理論的には彼らは六ヵ国連合軍の師団を壊滅させられる。軍団でもそうだ。


 だが、人間は常に装備と戦術を進歩させてきた。


 奇襲するのは容易ではないことをアルマたちは思い知ることになる。


「よっと。うわっ!」


 ベネディクタがポータルから飛び出たと同時に刻印弾が飛んできた。


 刻印弾が一発だけではなく何十発と飛んでくる。


「ひゅー。熱烈大歓迎だな! まあ、とりあえず燃えておけ!」


 ベネディクタが炎を放つのに兵士たちが塹壕の中に伏せる。


 そして、また刻印弾が飛来した。それも小口径のそれではなく、口径37ミリの歩兵砲からだった。水平射撃で発射された刻印弾はベネディクタの呪血魔術による結界を破壊した。破壊したのだ。


「結界が破壊された!? この野郎! よくもやってくれたな!」


「ベネディクタ。退きなさい」


 そこでアルマの声が響き、彼女は刻印弾を呪血魔術で受け止め破壊すると、歩兵砲の方に力を移し、歩兵砲ごと六ヵ国連合軍の将兵を地の染みに変えた。


……………………

面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人形戦記、あるいはその人形は戦火の中に魂を求めるのか」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[一言] 一筋縄にはいかないか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ