包囲された城塞
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──包囲された城塞
リヒャルトたち陸軍は陸軍情報部の新設に向けて動き、マキシミリアンたち空軍は後進のドラゴンの育成に当たり、アルマたち近衛軍は救出作戦に向けて動いていた。
「敵の地図による情報ですと、この位置にまだ孤立した陸軍部隊がいるそうです」
アルマはリヒャルトがまだ解析はできないからと回してきた六ヵ国連合軍魔王領占領軍司令部の地図を広げて、バルドゥイーンたち幹部に見せた。
地図の上には戦線を示す線が描かれており、いくつかの包囲を示す丸い円がある。戦力を示す駒も本来は置かれていたのだが、戦闘の混乱で床に散らばり、この円を構成している軍隊の規模については分からなかった。
とは言え、そう大規模な部隊が展開しているはずはない。
六ヵ国連合軍は撤退を進めている。ゲリラ戦の終了時に20個師団だった戦力は撤退と損耗によって、残り14個師団程度になっている。増派も補充も行われず、六ヵ国連合軍は撤退を進めていた。
各地にある円の大きさと数を比較すれば、この円を構築している敵の規模は分かる。
「恐らくこの包囲を構築している師団の規模は3個師団。魔都ヘルヘイムを警備していた軍の規模よりやや大きな規模です。問題は不意を打つのは難しいということ。向こうは既に戦闘状態にあり、どこも警戒しているでしょう。さらには魔都ヘルヘイムが奪還されたという知らせを受けて六ヵ国連合軍は極めて高い警戒状況にあるはずです」
魔都ヘルヘイムの奪還は六ヵ国連合軍の現場の将兵に衝撃を与えただろう。2個師団が守る都市が陥落したのだ。
そして、彼らは考える。次に狙われるのは自分たちではないかと。
後方の政治家たちが何を考えていようと、戦地で生死をかけて戦うのは現場の将兵だ。撤退の意志に反して、部隊を増強しようとしたり、警戒を強めたりは当然するだろう。そうすることで自分たちの命が守られ、任務が果たせるならば人間も魔族も同じように行動するものだ。
「いつものようにヴェンデルのポータルで転移すりゃ不意打ちはかませるだろ?」
「あなたは楽観的過ぎます、ベネディクタ。ヴェンデルのポータルは完全な不意打ちを保証するものではありません」
アルマがそう言うと、ヴェンデルが手を振った。
「相手が白魔術で結界を展開していたらこっちのポータルは展開できないし、こっちの結界の展開に気づかれたりしたら出口で熱烈大歓迎っす。まあ、あまり期待されすぎても困るということで」
「使えねーな」
「失礼っすね。ある程度条件が整えば、不意打ちは可能っすよ。ただ、絶対ではないというだけで。ベネディクタの姐さんは0か100しかないんすか?」
ヴェンデルが呆れたようにそう言う。
「うるせえ。お前の呪血魔術がへぼいのが悪いんだろうが」
「へぼくないっす」
「どうせ、軍隊をよそに飛ばすことぐらいしかできないくせによ」
「……まあ、そうっすね。それぐらいしかできないっす」
やけに素直にヴェンデルが自分の罵りを受け入れたことにベネディクタが首を傾げる。普通なら何か言い返しそうなものだが、と思ったが、実際にヴェンデルにできるのはポータルを生成することぐらいだ。
「ふたりとも。生まれたばかりではないのですよ。呪血魔術が使える近衛吸血鬼は今では貴重な存在なのです。しっかりしてください」
アルマがため息交じりにそういう。
「それで? ここの友軍を救出するんだよな?」
「そうです。ここに仕掛けます。ですが、ですがです」
アルマが言い聞かせるように語り始める。
「敵の兵卒はある程度焼き殺しても構いません。ですが、将校は確保してください。彼らからは聞きたいことがいろいろとあります。そもそも、魔王領占領軍はどこに兵站基地をおいているのかということや、総司令部が壊滅した今、どこで指揮統制が行われているのか。そして、それと同時に苦痛を与えて、瘴気の材料にしなければなりません」
「あたしは焼く以外にできることはないぞ」
「なので、バルドゥイーンのガルム戦闘団や私が同行するのです。あなたは雑兵を焼いていなさい。私たちは敵の頭脳を押さえ、情報を聞き出し、瘴気を少しでも増やすべく拷問を行います」
「はいはーい。ベネディクタちゃんは雑兵を燃やしますよっと」
ベネディクタはもう飽きたというようにそう言い放った。
「バルドゥイーン。この作戦は慎重に進める必要があります。ラインハルト大将閣下からは情報の重視を命じられたばかりです。ここで我々がその命令に背くようなことがあり、ラインハルト大将閣下を失望させるようなことがあってはなりません」
「分かっている。だが、司令部の位置を特定は難しいし、我々は生きたまま人間を捕える手段など訓練されていない」
バルドゥイーンが渋い顔をしてそう言う。
「武器を突きつければ大抵の敵は降伏します」
「人間とはそれほど脆弱であったか?」
「ええ。彼らは刻印弾でなくとも撃たれれば死にます。脆い生き物なのです。そして、肉体は精神に影響を与える。脆弱な肉体の精神もまた脆弱なのです」
「確かに言われてみればそうだな。人間の精神は脆弱だ」
バルドゥイーンがアルマの言葉に頷く。
「最悪、手足をもぐくらいことはしても構いません。生きていればいいのです。瘴気を生み出すという面では手足はある方がいいですが、情報源としてならば、手足がなくても口と脳さえあれば喋れます」
アルマはそう言うと地図の上に駒を置いた。
「ガルム戦闘団は東からポータルで強襲。その後、敵の注意を引き付けてください。その隙に再度ポータルを展開して西側からベネディクタと私が突入します。どちらかが司令部を見つけたら、司令部要員は生かしたまま、地図などの資料も、無線機も破壊せずに確保してください」
「了解した」
バルドゥイーンが頷く。
「アルマの姐さん。ポータルをふたつ開くっていうことですよね? それが可能かどうかは分からないっすよ。上手い位置を見つけられればいいっすけど、そうじゃなかったら、この作戦はおじゃんっす」
「上手くやってください、ヴェンデル。期待しています」
「はあ。まあ、努力はするっす」
ヴェンデルは渋々というように頷いた。
「では、以上です。それぞれ作戦準備に入ってください」
「了解」
バルドゥイーンとベネディクタが出ていく。
だが、ヴェンデルは残っていた。
「ヴェンデル? どうしました?」
「ちょっと引っかかることがあってっすね。ラインハルト大将閣下は今も不老不死の魔術師という存在なんですか? 全く別の存在になっている、なんてことはないですよね? 例えばもっと高次元の存在とか」
「どうしてそう思うのですか?」
「あのドラゴンすよ。あれは明らかにこの時代のものでもなければ、ただの魔術師が顕現できるものではなかったっす。ラインハルト大将閣下は魔族というよりも人間に近いっす。彼は不老不死の魔術師であり、黒魔術を行使するから、魔王軍四天王の座に就いたっす。それが全く別のものになったきがしてならないんすよ」
確かにヴェンデルの指摘する通りだ。
あれだけのドラゴンは見たことがないし、あれだけのドラゴンを顕現させる力が不老不死の魔術師という人間の延長線にしかない、ラインハルトにできるはずがない。
ならば、ラインハルトは何になったというのだ?
「ラインハルト大将閣下が何になっていようと、我々は従うのみです」
「盲目的っすね。だけど、それが楽でいいのかもしれないっす」
ヴェンデルはそう言って立ち去った。
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