表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/117

六ヵ国連合軍の対応

……………………


 ──六ヵ国連合軍の対応



 フランク共和国の戦争を巡る会議は紛糾していた。


「ただちに増援を送るべきだ。それも最低で20個師団は送らなければならない。さもなければ、“ラマルク・カスケード”を阻止することはできなくなる。ただ純粋的な軍事の理屈でも、魔都ヘルヘイムが攻撃を受けたというのは重大だ」


 そう訴えるのは戦争継続派のリーダーとされるジョフロワ・ド・ゴール元帥であった。大戦中は砲兵部隊の指揮官として戦い続け、魔都ヘルヘイム陥落による戦争終結を記念して元帥杖が授けられ、元帥に昇進した。


 “ラマルク・カスケード”の熱烈な支持者で、魔族は全滅させなければならないと訴えてやまなかった。フランク共和国政府が彼を元帥に昇格させたのは、その強固な姿勢を懐柔する意味もあったのだが、そんなことはお構いなしに部下たちを自分の派閥に引きずり込もうとしていた。


 砲兵の指揮官であった彼は魔王軍がみるみる内に砲兵としての実力を身に着け、時として人間を上回る技術を見せるのに、危惧していた。このままでは魔王軍は人間を追い越してしまうのではないかと。


 現に魔王軍の砲兵は進化し続けていたし、装備だけではなく、将兵の質も大戦の間に大幅に進歩した。流石に大戦末期になると航空優勢が六ヵ国連合軍に移り、魔王軍の砲兵も打撃を受け、ベテランの将兵が死に、質は下がった。


 それでもまた時間さえあれば、魔王軍は再び人間を追いかけてくる。


「これは生存闘争だ。この世界には人間か魔族かのひとつの種族しか生存できない。両者は共存できない。我々が生存を望むのであれば魔族は滅ぼさなければならない。徹底的に、容赦なく。だからこそ、私は魔王領占領軍への増派が必要だと言っているのだ!」


 ド・ゴール元帥がテーブルを叩く。


「しかしだね。国民にはもう戦争は終わったと宣言したのだ。それが今になって増派の必要性があるから再動員を行う、などと言っても国民は納得しないよ。それに魔王軍と言っても小規模なものなのだろう? そして、大戦末期の敗残兵。我々が派遣している戦力で本当に不足するとでも?」


 ド・ゴール元帥を含めて4人いる元帥のひとりがそう尋ねる。


 フランク共和国では元帥は空軍にひとり、海軍にひとり、陸軍にふたりいる。


 だが、ド・ゴール元帥を除く全ての元帥が魔王領占領軍の増派に反対の姿勢を示していた。これは軍の中でのド・ゴール元帥の孤立を意味する。


「現に魔王領占領軍の4個師団が壊滅的打撃を受けているのだ! こうしている間に8体の近衛吸血鬼が生まれただろう! いや、兵士たちが拷問されていれば、もっと多くの近衛吸血鬼が生まれた可能性もある! 海軍と空軍に理解は期待しないが、陸軍ならばその脅威が理解できるはずだ」


 そういう言い方をするから軍で孤立するのだと他の元帥たちは思ったが、ド・ゴール元帥は現場で功績を上げている。第1共和国親衛師団“シャルルマーニュ”の魔都ヘルヘイム一番乗りという功績を上げたのは彼なのだ。


 他の国々も戦後の政治のことを考えて狙っていた魔都ヘルヘイムをド・ゴール元帥は真っ先に陥落せしめた。だが、彼はそれで戦争が終わるとは考えていなかった。


 戦争は続く。魔族との戦争は永遠に続く。だが、一時的な平和を得ることはできる。それは魔族を絶滅させることによってのみ成し得るのだとド・ゴール元帥はそう考えていた。だから、魔都ヘルヘイム陥落後も占領軍を最低でも50個師団は配備することを求めた。だが、それはなされなかった。


 荒唐無稽。狂人の発想。肥大した権力欲の現れ。


 ド・ゴール元帥の占領計画はそう評価された。


 それから規模を縮小した案を提案するもそれも却下。


 ド・ゴール元帥はガブリエルを含めた自分たちの派閥で、密かに交渉を進めていたが、その間にも魔王軍残党は動き、魔都ヘルヘイムを強襲するに至る。


「ド・ゴール元帥。あなたの懸念はよく分かっているつもりだ。私もラマルク博士の論文は読んだ。あれが事実ならば恐ろしいことだ。だが、逆に考えて見たまえ。魔王軍が瘴気の原料とする我々の兵士が魔王領に少なければ、魔王軍は軍を再編できないと」


 ここで元帥たちの話を聞いていた大統領が発言する。


「確かに数が少なければ新しく生まれる魔族は少ないでしょうな。しかし、既に存在している魔王軍残党にフリーハンドを与えることになります。我々は私の立案した占領計画案が却下されたたために、魔王軍の残党を逃しているのです。それが再結集して、襲い掛かってきたら? 我々は再び戦争に巻き込まれる。次も勝てるという保証はないのです」


 大統領を説得するというよりは説教するような口調でド・ゴール元帥が告げる。


 そういう嫌味な口調だから、政治家とも上手くいかないのだと元帥たちは思う。


「我々は20年という苦難の末にようやく勝利に近いものを手にしたのです。それを完璧なものとしないのは何故ですか。戦争は終わったと宣言したからですか? 私は反対していた。戦争は終わっていないと。そして、奴らはそれを証明するように魔都ヘルヘイムを襲撃した。魔都ヘルヘイムを魔王軍が奪還すれば、連中の残党どもは行動を活発化させ、より多くの将兵が犠牲となり、より多くの瘴気が生まれるでしょう」


 ド・ゴール元帥が語り続ける。


「その先に待ってるのは破滅です。破滅的な戦争の再来です。我々は20年間の苦労を水の泡にするのです。それがどれほど無駄な行為か! 政治家としての体面を保つための偽りの平和の宣言など撤回するべきだ! 我が国は今も戦時下である!」


「口が過ぎるぞ、ド・ゴール元帥!」


 流石に見かねた陸軍のもう一人の元帥が制止する。


「いいや。言わせてもらう。魔都ヘルヘイムは奪われるだろう。2個師団で魔王軍残党から魔都ヘルヘイムを守り切るなど不可能だ。そして、奴らはまた戦争を始めるのだ。いや、戦争は続いているのだ。これは前の戦争の名残ではなく、今も続く戦争の出来事だ。戦争は続いている。終わってなどいない!」


 ド・ゴール元帥はそう言い切って着席した。


 そして、腕組みして大統領を見る。


「いいかね、ド・ゴール元帥。この世界には我が国と魔王軍しか存在しないわけではない。他にも主権を有する国家があり、我々の路線は国際協調路線だ。我が国だけで戦争の継続かどうかを決めるわけにはいかない。我が国だけでの動員も周辺諸国に不快感を与えることだろう。それは避けなければならない」


「では、他国を説得なさってください。迅速に。それが政治家としての仕事でしょう」


「彼らは我々が魔都ヘルヘイムを他に先駆けて占領したことを快く思っていないところがある。事実、あれは君の独断での攻撃だった。もっと他の部隊が集結するのを待って攻撃するべきだった。ガムラン元帥はそう言っている」


 もうひとりの元帥がド・ゴール元帥の方を見る。


「ここにきて嫉妬とは! 我々が勝利するには攻撃が必要だった! 我々は命令に忠実に攻撃を実行しただけだ! 我々には『速度を以てして、魔王軍へ打撃を与えよ』との命令を受けていたのですからな!」


 ド・ゴール元帥が叫ぶ。


「しかし、他の部隊とも連携しなければならないだろう? 戦争とはそういうものだと私は理解しているが……」


「我々単独で魔都ヘルヘイムを落とせるならそうする! 我々があそこで他の部隊との合流を待っていれば、魔王軍は防衛線を引き直し、我々の犠牲者はまだ増えていたことでしょうな! もし、嫉妬染みた考えを持った相手と交渉するときはそう言っておやりなさい。我々は戦争において最善の選択を下したと」


 ガブリエルはただド・ゴール元帥が叫ぶの後方の席で聞いていた。


……………………

面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人形戦記、あるいはその人形は戦火の中に魂を求めるのか」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[一言] これは第五共和制不可避だね。ただそれが実現する頃には手遅れになってるだろうけど
[一言] 感情的なようで、合理的な人だなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ