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焦土作戦

……………………


 ──焦土作戦



「12時の方角にフレスベルグ多数を確認!」


 魔都ヘルヘイム上空を哨戒飛行していたドラゴンが警報を発する。


「哨戒騎より連絡。敵フレスベルグは半分が爆装しているとのことです」


「焦土作戦か。人間どもめ」


 マキシミリアンは魔王城内に設けられた空軍の指揮所で指揮を取っていた。


「爆装したフレスベルグを最優先で狙え。一撃離脱だ。敵に爆弾を投棄させれば、我々の任務は成功したと言っていい」


「了解しました、少将閣下」


 54体のドラゴンが迫りくるフレスベルグの迎撃に回る。


 まだフレスベルグはドラゴンが機関砲を装備していることに気づいていない。ブレスの距離で戦闘距離を計り、護衛騎は爆装したフレスベルグを護衛している。


「上から仕掛けるぞ。高度を取れ」


 ドラゴンたちの編隊は上空に回り込み、そこから口径30ミリ航空機関砲“グラムB型”で爆装した編隊中央付近のフレスベルグを狙う。


「交戦!」


 一斉にドラゴンたちが機関砲弾をフレスベルグに叩き込む。


 フレスベルグが爆散する。機関砲弾がフレスベルグの体を貫き、口径30ミリの大口径機関砲弾がフレスベルグを粉砕した。


「なっ……! ドラゴンが機関砲を……!?」


「散開! 散開! 護衛騎はドラゴンを迎撃しろ! 爆撃騎は高度を落として退避しろ! 急げ、急げ!」


 フレスベルグの編隊がひとつの生物のように一斉に動く。


 六ヵ国連合軍は2騎1組で敵との航空戦に挑むロッテ戦術を確立しており、魔王軍もまた同じように2騎1組のロッテ戦術で戦っていた。


 護衛のフレスベルグがドラゴンを迎撃に向かう際も2騎1組である。


 フレスベルグの航空機関砲が火を噴き、ドラゴンが身を捻って回避する。そのドラゴンを追うフレスベルグの背後からは別のドラゴンが接近し、航空機関砲でフレスベルグを狙う。機関砲はけたたましい音を立てて砲弾を発射した。


 再びフレスベルグが空に散る。


「無駄玉を撃つなよ。我々の航空機関砲は六ヵ国連合軍のそれより装弾数が少ない」


 口径30ミリという六ヵ国連合軍の航空機関砲より大口径で高威力な魔王軍の航空機関砲“グラムB型”であるが、装弾数が少ないという弱点があった。大口径弾はかさばり、あまり多くを持って行くことはできないのだ。


「了解。一撃必殺の気概で行きます」


「それでこそだ」


 ドラゴンたち54体に対してフレスベルグは護衛騎だけでも64騎だ。爆装したフレスベルグが爆弾を投棄して空戦に参加してきたら、完全に数の差で押される。


 だが、いちいち護衛騎の相手をしている暇はない。このまま魔都ヘルヘイムを爆撃されれば、奪還した意味がなくなるし、勝利しつつある友軍が打撃を受ける。


 なんとしても爆撃を阻止しなければ。


 ドラゴンたちがかなりの距離から低空に逃げた爆装したフレスベルグを狙う。再びフレスベルグがはじけ飛び、編隊が乱れる。


 それでもまだ爆弾を投棄するまでにはいかない。


 護衛騎は必死に爆装したフレスベルグからドラゴンを引きはがそうと攻撃を仕掛けてくる。ドラゴンたちは優先的に爆装したフレスベルグを狙いながら、護衛騎に応戦する。上空で複雑な軌跡が刻まれ、機関砲の曳光弾が光る。


 六ヵ国連合軍側は爆装したフレスベルグというお荷物を背負っての戦闘だった。それも勝利条件は彼らを無事に魔都ヘルヘイム上空へ辿り着かせることであって、ドラゴンを全滅させることではない。


 執拗に爆装したフレスベルグを狙い、護衛騎との交戦を避けるドラゴンたちはそんな六ヵ国連合軍にとって厄介だった。それも相手はこれまでとは違い、長射程かつ速射性のある機関砲を装備しているのだ。


 ブレスを使うドラゴンとの戦いに慣れすぎていた六ヵ国連合軍のフレスベルグ騎手たちは不慣れな戦いを戦うこととなり、全体的に不利であった。


 だが、ドラゴンたちが一方的に敵を屠れたかと言えばそうでもない。彼らもまた機関砲を使っての実戦は初めてであり、慣れないところがあった。ついついブレスの交戦距離で戦おうとする癖があった。


 だが、ドラゴンたちは確実に爆装したフレスベルグを撃墜しつつある。


 1体、2体、3体、4体とフレスベルグが撃墜され、空のに舞う血の花火となるのに六ヵ国連合軍指揮官は焦っていた。


 空軍に下された命令は第404号作戦計画に基づく作戦だった。


 魔都ヘルヘイムを放棄せざるを得なくなった場合の最終手段。全てを灰燼に返し、廃墟だけにしろ。いわゆる焦土作戦である。全てを破壊し、魔都ヘルヘイムを敵の手に渡すなというのが、この命令であった。


 既に六ヵ国連合軍は魔都ヘルヘイムで戦死するか、撤退した。


 2個師団の砲兵連隊も無差別砲撃の準備に入っていた。可能な限り魔都ヘルヘイムを破壊し、撤退せよとの命令が下されていたのだ。


 なので、爆撃も砲撃もやめるわけにはいかなかった。


 魔都ヘルヘイムが魔族たちの支柱だということは分かっていた。だから、ここの制圧に2個師団も配置していたのである。六ヵ国連合軍も魔族はここを人間たちが制圧している限り、抵抗する士気を衰えさせるということを分かっていた。


 だから、渡せない。ここを渡すわけにはいかない。渡してしまえば、魔王軍が息を吹き返す。士気が高揚され、各地に潜伏している魔王軍の残党たちも活動を活発化させ、占領に対する抵抗を始める。


 それだからこそ、破壊してしまうのだ。


 六ヵ国連合軍の将軍たちの中には占領した段階で全てを破壊し、更地にしてしまうことを提案するものもいた。そうならなかったのはひとえに、六ヵ国連合軍がまだ戦争の終わらせ方を理解していなかったからだ。


 魔都ヘルヘイムを占領すれば、魔族は講和に応じるかもしれない。


 そんな思いが六ヵ国連合軍の政治家や将軍たちの中にはあったのである。


 その結果がこれだ。


 後方が犯した過ちのツケは前線で支払わされようとしている。


「クソッタレ! 全騎、爆弾を投棄しろ! 作戦遂行は不可能! 繰り返す、作戦遂行は不可能! これより基地に帰投する!」


「了解!」


 ついにドラゴンたちによって打撃を受けた六ヵ国連合軍の空軍部隊が撤退する。


「追撃を!」


「ダメだ! 我々は魔都ヘルヘイム上空の航空優勢を保つことだけを命じられている! 深追いはするな! 我々にはまだまだ戦わなければならない戦いが残っているのだ!」


 若いドラゴンが言うのに、指揮官はそれを否定した。


 六ヵ国連合軍が撤退したのは幸運だった。そのまま制空戦闘に入られていれば、ドラゴンたちは駆逐された可能性すらあった。六ヵ国連合軍は爆撃こそできないものの、砲兵の着弾観測は行えるようになる。


 それでも六ヵ国連合軍は作戦目標が達せないと判明した段階で無駄な犠牲を避けるために撤退を行った。


 彼らもまた戦力不足なのだ。本国の無理解で魔王領占領軍の兵力は撤退を続けているのだから、当然だと言えるだろう。


「ああ。炎が降り注ぐぞ。死をもたらす雨が降る」


 ラインハルトがバルコニーでそう呟いたとき、魔都ヘルヘイムが炎に包まれた。


 六ヵ国連合軍の砲撃が始まったのだ。


……………………

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― 新着の感想 ―
[一言] ドラゴン達はひとまず役割を果たせたか どれくらい生き残れるかなあ
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