魔都ヘルヘイム強襲
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──魔都ヘルヘイム強襲
「しっかし、まあ我々の出戻りも早かったすね」
「はあ? クソ遅いだろう。あたしは2、3日で戻ると思ってたぞ」
「ベネディクタの姐さん、本当に戦況分かってました?」
ヴェンデルがジト目でベネディクタを見る。
「負けてた。だがな、あたしたちがいれば六ヵ国連合軍の連中を百万人は道連れにしてやれた。まあ、ラインハルト大将閣下のやることに文句は言わないが」
「数字がめっちゃ子供っぽいっすね」
「うるせえ。それより、ポータルはまだ開けないのか?」
ベネディクタの背後にはガルム戦闘団が控えている。
2個歩兵連隊、1個騎兵大隊、2個砲兵大隊、1個工兵中隊、1個戦闘団司令部中隊。
これからこの戦力といくつかの新設された大隊で人間に奪われた魔都ヘルヘイムに殴り込みをかけるのである。
「言っときますが、俺の呪血魔術は万能じゃないんすよ。ポータルの出現位置にものあったら展開できないですし、いざってときにポータルを展開しないと向こう側の結界に敵が気づいてド派手な歓迎を受ける羽目になりますからね?」
「あーあ。どうでもいい。さっさとやれ」
「もー……。おっと。いい感じの場所を捉えたっす。アルマ少将閣下! バルドゥイーン准将閣下! 準備完了っす!」
ヴェンデルがそう言って、ガルム戦闘団の隊列前方で腕組みしていたアルマとバルドゥイーンに知らせる。
「ここは我々だけで十分だが?」
「魔都ヘルヘイムを取り戻すのです。私も当然戦います」
「そうなるか」
「あなたも戦うつもりでしょう?」
「ああ。久しぶりの戦闘だ。鈍っていなければいいが」
アルマとバルドゥイーンがそう言葉を交わす。
「ヴェンデル。ポータルを開きなさい。最大限に。今この時を以てして、我々は魔都ヘルヘイム奪還作戦を開始します!」
アルマが高らかと宣言し、ヴェンデルが大規模なポータルを展開する。
「いくぜっ!」
「いくぞ!」
「いきます!」
ベネディクタ、バルドゥイーン、アルマの3名が突撃する。
「ひゃっほう! 一番槍もらいっ!」
ポータルが出現した向こうは六ヵ国連合軍の魔都ヘルヘイム占領軍の司令部になっていた。当然ながら軍人たちが多くいる。だが、非武装だ。司令部で武装する必要はない。
そこのベネディクタが結界を展開し、軍人たちの魔力を吸い上げ、炎として周囲一帯に振りまく。炎に包まれた軍人たちは何が起きたのかも分からず、自分を焼いていく炎に叫び、のたうった。
「ベネディクタ。城まで燃やす奴があるか」
「城はまた建て直せばいいのです。ここは敵の撃破に集中を。敵の司令部を完全に壊滅させます。迅速に動きますよ」
アルマは遠隔操作で逃げようとしていた軍人たちを纏めて血と骨に変えた。
「なるほど。その通りだ。私も派手に暴れさせてもらおう」
バルドゥイーンの呪血魔術は結界を必要としない、オープンなものだった。
彼が手をかざすと、無数の金属の槍が現れ、それがぐるりと周囲に広がる。
「魔族だ!」
「刻印弾を使え!」
ようやく応戦に駆け付けた警備の兵士たちが小銃を構える。
「放て」
金属の槍は一斉に周囲に飛翔し、兵士たちを貫いた。
全てが的確に急所を貫いている。頭、喉、心臓、肝臓などの血液が多く流れる場所を貫き、大量出血を引き起こす。その血を槍は吸収して、再びバルドゥイーンの元に戻る。
「鈍っていないようですね」
「ああ。安心した」
バルドゥイーンの呪血魔術は金属操作。魔力を自在に金属へと変換し、自由に操ることができる。血を吸った金属の槍がバルドゥイーンの元に戻れば、近衛吸血鬼として力の源となる血液を補充し、さらなる攻撃の拡大に繋げられる。
「ガルム戦闘団全部隊に告ぐっ! ただちに魔王城の全フロアを制圧せよ! 敵に容赦はするな! そして、今は殺すことのみに集中しろ! ひたすらに殺せ!」
「了解っ!」
一斉にポータルから魔族たちが魔王城の中に突撃していく。
既に六ヵ国連合軍は異常に気づいており、通信基地となっている部屋では各地に救援を求める声を上げていた。だが、そこに乱入してきた吸血鬼によって、全員が屍食鬼に変えられ、通信基地からの通信は途絶えた。
司令部ではバリケードを作って抵抗しようという動きがみられ、機関銃も持ち出されて、銃口を魔族たちに向ける。
ゴブリンとオークが無謀にも波状攻撃を仕掛け、機関銃に蜂の巣にされる。
だが、それは囮だった。本命の近衛吸血鬼は陣地に潜り込み、機関銃を制圧し、他の歩兵たちも制圧していく。兵士たちが屍食鬼に変わっていき、魔王城の中は死者の呻き声で満たされつつあった。
「バルドゥイーン。制圧完了だぜ。あたしはここから誰も逃がさなかった!」
「お前は私の指揮系統に存在しないだろう。何を報告している。まあ、アルマが加わっている時点で何も言えないが」
バルドゥイーンが言い、魔王城を見渡す。
前庭の制圧も進んでおり、水平射撃される対空機関銃の射撃を押し切って、魔王軍ガルム戦闘団が前庭を制圧した。出血はあったが、まだ致命的ではない。
まだ致命的ではない。
だが、この時点で出血している時点で自分はラインハルトに言われたことを守れていないとバルドゥイーンは後悔した。もっと慎重に作戦を進めるべきだったか? 魔都ヘルヘイム奪還ということであまりにも興奮しすぎてはいなかったか?
「魔王城は取り戻せたようだね、バルドゥイーン」
「ラインハルト大将閣下! しかし、損害が出ています」
「確認したが、近衛吸血鬼や吸血鬼に損害はない。死んだのはゴブリンやオークだけだ。それぐらいならいくらでもまた生み出せる。今の段階では気にする必要はない。問題はこれからだよ」
ラインハルトが魔王城の前庭に進み、そこから見渡される市街地を見る。
「市街地戦での損耗をどれほどまでに抑えるか。魔王城は奇襲攻撃だった。勝てて当然だ。だから、君の指揮官としての素質は市街地戦とそれに続く野戦で試される。それに君は自分が焦りすぎていたのではないかと思ったようだが、兵は神速を貴ぶという。速度は武器だ。その点を間違えないように」
「はっ。心しておきます」
「あまり慎重すぎる指揮官は勝機を逃してしまうことがある」
私が言えた義理ではないが、とラインハルトはくつくつと笑う。
「ラインハルト大将閣下! 近衛軍は全軍が次のステップに進む準備ができております! 次は市街地の奪還を!」
「そうだ、アルマ。次は市街地を獲ろう。ヴェンデルにポータルを魔王城前庭に向けて移動させるよう指示したまえ」
「畏まりました」
アルマが霧化して移動する。
「市街地、か。もう魔族がここで暮らすことは遠い未来の話になるだろう。我々はイナゴだ。蝗害だ。餌を求めて次々に新しい目標を狙い移動していく。都市から都市へ、国家から国家へ。我々の闘争は止まることはない」
ラインハルトがそう呟くように述べる。
「どう思う、バルドゥイーン。平穏の中で老人のように緩やかに死ぬのと、苛烈な戦場の中でゴミのように死ぬのと、どちらが望ましい?」
「ゴミのようであろうと私は戦場で死ぬつもりです」
「素晴らしい。君は間違いなく兵士だ」
ラインハルトは小さく笑うと、そのまま市街地を見つめ続けた。
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