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航空戦力の強化

……………………


 ──航空戦力の強化



 ラインハルトは魔都ヘルヘイム奪還に向けて動き始めた。


 死体穴からドラゴン1体と近衛吸血鬼1体、吸血鬼8体、及びオークとゴブリンを作成。ドラゴンを除く全員に黒魔術の刻印弾とGew1888小銃が支給された。ゴブリンやオークは当然だが、生まれたばかりの近衛吸血鬼と吸血鬼も呪血魔術のような魔術は使えず、戦闘力は武器に依存するため、装備は必要だった。


「吸血鬼の小隊が隊列を組んで霧化による高速移動で突撃し、銃剣を敵の喉に突き立て、相手の喉を抉る様を見たら、君たちも人生観が変わるだろう。戦場は何も空だけではないと。そう、戦場は広いのだ。どこまでも広い」


 ラインハルトはマキシミリアンを含むドラゴンたちにそう語りながら、クルアハン城の傍に建設された新しい武器の製造ラインにドラゴンたちを案内した。


「私は常々思っていたのだ。吸血鬼はおろか、ゴブリンですら武器を使うというのに、ドラゴンである諸君らはどうしてブレスという原始的な攻撃手段で満足しているのかということに。速射性においても、威力においても、それは六ヵ国連合軍のフレスベルグが使用する口径20ミリ航空機関砲“アルマスMK6”に劣っている」


 しかも、相手は刻印弾を使っているのだ、とラインハルトは付け加える。


 確かにフレスベルグはブレスを吐けないが、強力な航空機関砲を装備している。白魔術の刻印弾を使用することで、ドラゴンへの効果は高く、地上を機銃掃射することにも役立つものである。


 対するドラゴンは航空戦も地上への火力支援ももっぱらブレスであった。航空爆弾を装備して、爆撃を行うこともあるし、そのための爆撃部隊も存在している。だが、航空戦だけはブレスだけだった。


「制空戦闘を行うドラゴンは身軽な方がいいという理屈も聞く。だが、君たちはエーテルの波に乗って飛ぶのだ。重量など関係ないし、六ヵ国連合軍のフレスベルグが実際に機関砲を装備しているのに、君たちが装備できないという理由はなかろう?」


 事実、エーテルの波に乗って飛行する彼らに重量の問題などあってないようなものだった。それでも誰も装備の開発を言い出さなかったのは、やはりドラゴンのプライド故である。ドラゴンのプライドの高さが、フレスベルグと同じように武器に頼って戦うということを嫌わせていた。


 爆撃部隊は事実上の左遷であり、ドラゴンは己が体のみで戦えるのだと彼らは誇らしげに語るのである。


 だが、技術の進歩がそれを陳腐なものに変えた。六ヵ国連合軍のフレスベルグが装備する機関砲はドラゴンたちの誇るブレスを上回る性能を有する。


 このままでは永遠に航空優勢は奪われたままだ。それではいけない。


「君たちも武器を手にするべきだ。文明を感じよう。その肌で、その腕で、その体で、その翼で、文明を感じよう。ただ、人を殺すというための文明というものを感じよう。殺戮のために生まれた文明を感じよう。戦争という最大の宴のための文明を感じよう」


 そこでマキシミリアンがひとつの巨大な武器を取り出した。


「航空機関砲“グラムB型”。口径30ミリ。六ヵ国連合軍のフレスベルグが使用しているものより大口径だ。フレスベルグに掠っただけでも肉を引きちぎり、骨を砕くだろう。直撃すれば死は確実。それも使用するのは刻印弾だ。どうなるかは予想できるだろう?」


 マキシミリアンはラインハルトの説明が終わるとそれを構え、コンクリートで出来た目標に向けて射撃する。砲弾はコンクリートの目標を瞬く間に破壊する。


「このようにブレスよりも発射レートは短く、従来より大幅に戦闘力は上昇する。さあ、君たちの武器だ。手に取りたまえ。そして、この魔王領の大空を羽虫のように飛び回るフレスベルグどもから奪い返してやろうではないか」


「諸君! これより航空機関砲“グラムB型”は戦闘航空団の標準装備となる! 使用方法を熟知し、予想される事態が記載されたマニュアルをよく読むように! 我々がブレスだけで戦う時代は終わったのだ!」


 ラインハルトとマキシミリアンがそう宣告する。


「了解しました! ラインハルト大将閣下! マキシミリアン少将閣下!」


 ドラゴンたちは全員が了解した。


「これで航空戦力は大幅に増強されるだろう。一時的にしろ、魔都ヘルヘイムの航空優勢が確保できれば、それで結構。フレスベルグの爆撃というのは、存外厄介なものだ。爆撃によって一時的にせよ進軍を抑えられても面倒だ。砲兵陣地が潰されれば、もはやそれは悪夢だ。悪夢というのも存外味わい深いものなのだがな」


 ラインハルトはドラゴンたちを置いて、新しい造兵廠を出る。


「悪夢とは甘美なものだ。また眠りに落ちて続きが見たくなるほどに。全てが崩壊していく、自分が追い詰められていく、何もかもが破綻する。恐怖と苦しみで胸が激しく脈打つことすら愛おしい。それして、それらは夢でしか味わえない。現実にそんなことが起きてしまったら、我々は戦い続けられない」


 ラインハルトはぶつぶつとそう呟きながら、作戦会議室を目指す。


「やあ。順調なようだね、ラインハルト」


「これはこれはラルヴァンダード。あなたも楽しめていますか? この私のエゴを。私は復讐を語り、魔王軍の栄光を再びと語る。だが、実際にはそんなことは考えていない。ただ、戦争がしたいだけなのです。全ては私のエゴ。敗戦を認めず、敗残兵を率いて、恥辱に塗れながら戦う。それは快楽だ。だが、勝利したときの解放感とそれで戦いが終わってしまったという虚しさは、言葉では言い表せない。だが、私のエゴはそれを求めている。闘争を、果てしなく続く闘争を」


 いつもの喪服のように真っ黒な服装のラルヴァンダードが現れ、つかつかとラインハルトに近づいてくる。そして、真っ赤な瞳でラインハルトを見上げた。


「君は狂っているよ。誰もが君を正気だとは思わない。アルマぐらいかな。君についていけるのは。それ以外はただ勝利を得るための戦争だと思っている。この先にあるのは勝利だと信じている。それを君は裏切っている」


「そう裏切っている。許しがたい裏切りだろう。全ての魔族の期待は戦争に勝利すること。だが、私にはそんなことはどうでもいい。私が望むのは戦いだ、闘争だ、戦争だ、殺し合いだ、原始的な本能に基づく行動だ。そこに栄光はないし、そこに勝利はない。魔族たちが期待しているものは、何もない」


 ラインハルトはそう語ってくつくつと笑った。


「世界を敵にして戦った魔王ジークフリートの意志を私は確かに継いでいる。彼は勝ち目のない戦いに挑んだ。戦争の終結点も決めずに、ただひたすら戦線を拡大して、戦い続けた。私にとっての理想だった。彼の理想がどうあれ、あれはまさに私の求めていたものだった。あれこそが、美しい」


「君は病気だ、ラインハルト。とても深刻な病気だ。戦争依存症とでも言うべきだろう。君が人の営みに介入することの喜びを感じたのは闘争からだった。缶詰ひとつを奪い合う崩壊した世界を見て、君は人の営みの愚かさに、脆さに、面白さに気づいた」


 ラルヴァンダードがうっすらとした笑みを浮かべながら語る。


「君は闘争の先に何を見る? ボクはそれが気になってしょうがないよ。どんなに楽しい宴に終わりはやってくる。そこから君が何を導き出すのか、ボクは君の出す答えを楽しみにしている。もちろん、それまでの過程もね」


 ラルヴァンダードはそう言って消えた。


「闘争は終わる。戦争は終わる。戦いは終わる。それこそが真の悪夢だ。だが、私も気になる。この無分別にして、礼儀を知らぬ戦争の果てに何があるか」


 ラインハルトはそう言って、作戦会議室に向かう。


……………………

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― 新着の感想 ―
[一言] ドラゴンが武器持ったら確かにめちゃくちゃ強そう
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