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飛行隊救出作戦

……………………


 ──飛行隊救出作戦



 魔王軍空軍第4戦闘航空団第1飛行隊は、自分たちが立て籠もる空軍基地で猛烈な砲爆撃を浴びていた。上空を忌々しいフレスベルグが飛び回っては航空爆弾を投下し、空軍基地を包囲する2個師団からは朝も夜も関係なく砲撃を浴びていた。


 それでも地上部隊が空軍基地に突入しないのは、それだけドラゴンが恐ろしい相手だからということである。


 ドラゴンは地上にいても脅威である。恐ろしい規模のブレスを振りまき、同時にその銃弾すら弾く体で反撃を加えてくる。ドラゴンの鱗は刻印弾でも貫通できず、人間の歩兵にとってドラゴンとはどうにもならない相手であり、ドラゴンにとって人間の歩兵とはどうあっても負けるはずがない存在であった。


 だから、こうして砲爆撃によって安全に仕留めようとしているのだ。


 ドラゴンを直接相手にするのはリスクが大きすぎるというのは人間側の指揮官の結論だった。各地で寸断されたドラゴンの飛行隊に迂闊に攻撃を仕掛け、返り討ちに遭った部隊の話は聞こえてきている。


 それならば、ドラゴンに直接挑むのは愚策であり、彼らを地上に押し付けたまま、砲爆撃で決着をという結論になるのは当然と言えた。


 六ヵ国連合軍の誰もがガブリエルのように戦えるわけではない。むしろ、彼女だけが例外なのである。


 激しい砲爆撃で滑走路はクレーターが刻み込まれ、辛うじてコンクリート製のバンカーだけが破壊されずに残っていた。流石の六ヵ国連合軍も鉄筋コンクリートで固められたバンカーを破壊する術は持たず、ドラゴンたちはそこに避難していた。


「ここは打って出るべきだ!」


 年若いドラゴンが主張する。


「魔王軍最終指令に従うならば我々も戦うべきなのです! それをただ隠れてやり過ごすなど決して許されるものではありません!」


「現実が見えていないのか?」


 年配のドラゴンが咎めるような口調で言う。


「先ほどから降り注いでいる砲弾は刻印弾だ。あれを受ければ我々とて無事では済まない。それに加えて上空のフレスベルグ。上空に上がったと同時に連中から機関砲の射撃を受けて撃墜されるのがオチだ」


「ですが!」


「私は指揮官だ! そして指揮下にある将兵に責任を持っている。無責任なことを言って友軍を煽るんじゃない。我々の今の任務は生き延びることだ」


 若いドラゴンを部隊を指揮するドラゴンが一喝する。


 もちろん、彼らにもドラゴンとしてプライドがある。だからこそ、若いドラゴンは戦おうと言っているのだ。本当は彼を叱った年配の指揮官のドラゴンも、ここを出て、戦って散りたかった。人間どもにドラゴンの底力を見せてやりたかった。


 だが、それでも現実は見えている。


 人間たちの放つ刻印弾の砲撃は、瘴気から生まれたドラゴンたちにとって致命的だ。放っているのが軽野砲程度であっても致命傷を負う。


 もし、砲撃を掻い潜って空に飛びあがったとしても上空にはフレスベルグの大部隊が飛行している。フレスベルグは若いドラゴン程度の大きさがあり、強力な機関砲を備えている。発射速度は遅いものの、攻撃手段がブレスしかないドラゴンにとっては向こうの方が優位である。そして、機関砲にも刻印弾だ。


 それでもドラゴンたちにとって空は優位な環境であったが、物量を前にしてはいかんともしがたかった。ドラゴンが1体戦線に投入されるときには、相手は50体のフレスベルグを投入してきているのである。


 じわじわと数の差は大きくなり続け、今の悲惨な戦況に至る。


 魔王軍は航空優勢を喪失し、地上軍も敗北。空軍基地は敵地上軍の攻撃に晒され、ドラゴンたちは空で死ぬことすらできなくなった。


 今は敵が痺れを切らしてバンカーに突入してくるところを待ち構えるだけだ。バンカーが砲撃に耐えらずに破壊されるか、それとも人間たちが突入してきてブレスで焼き殺されるか。どちらになるかは分からない。


 ただ、言えるのはドラゴンたちにとってはこれは屈辱だということだけだ。


 屈辱である。


 確かに魔王ジークフリートは地上戦を戦って戦死した。地上戦は決して不名誉なことではない。だが、それは自らが敢えて地上戦を選んだ場合であり、地上戦を戦うように強いられた結果ではないのだ。


 今のドラゴンたちは空を飛ぶことができない。その翼は無用の長物と化している。


 プライドの高いドラゴンたちにとってこれは屈辱以外の何物でもない。


「こんな状況で生き延びても恥を晒すだけではないですか! それならば敵に挑んで死ぬべきです! 我々はこそこそとこんな穴倉に隠れて、敵を待つだけの戦いをするために魔王軍に加わったわけじゃない!」


「そうです、隊長! 交戦の許可を!」


 他のドラゴンたちも若いドラゴンの熱気に浮かされて、隊長に迫る。


「ダメだ! どうしてもというならば私を殺してからいけ!」


「……っ!」


 隊長がこういってもドラゴンたちはいずれ暴走するだろう。彼らにとってこの状況はあまりにも屈辱的なのだ。


「よっと!」


 その時、女のハスキーな声が響いた。


「よう。ドラゴンども。救援に来てやったぞ」


「近衛吸血鬼! 一体どこから……!」


「そこからだ」


 現れたのはベネディクタで彼女はバンカー内にできたポータルを指差していた。


「ポータル! 呪血魔術か!」


「その通り。それからあんたたちの大将がお見えだ」


 ポータルが大きく拡大し、バンカーの中にマキシミリアンが現れる。


「マキシミリアン……少将閣下! ご無事で!」


「ああ。前線で戦い続けていた君たちには申し訳ない。だが、命令が下ったのだ。魔王最終指令が下されたのである」


 隊長のドラゴンが階級章を見てマキシミリアンの昇進を知るのに、マキシミリアンが語り始める。


「全軍全将兵は戦い続けることが求められる。安易に死ぬことは許されない。それは反逆行為である。我々は戦い続けるのだ。それこそが魔王陛下が最期に下された命令である。我々はラインハルト大将閣下の指揮の下、継戦体制を整えつつある。生き残った諸君らにも戦いに加わってもらいたい」


「もちろんです、少将閣下!」


 全ドラゴンが敬礼をマキシミリアンに送る。


「ありがとう。では、全部隊をポータルで脱出させ──」


 その時、これまでのものとは比べ物にならない轟音が響いた。


「畜生。敵が痺れを切らして重砲を持ち出しやがった!」


「このままだとここは危険だ!」


 六ヵ国連合軍は軽野砲では破壊できないバンカーを破壊するために口径240ミリの大口径重砲を持ち出して、砲撃を始めた。


 砲撃間隔や軽野砲と比べると遥かに遅く、狙いを定めるのにも苦労しているのが窺える。だが、いずれバンカーに砲弾が直撃するのは目に見えている。


「撤退しろ! 早く、ポータルへ!」


「若いものから撤退しろ! 若いものは戦力になる! これから魔王軍が戦い続けるための戦力に!」


 マキシミリアンと隊長のドラゴンが叫び、ドラゴンたちが撤退していく。


「畜生。人間ども、やりたい放題じゃねーか。どうにかしろ……いや、してください、アルマ少将閣下!」


 そこでベネディクタが応援を呼ぶ。


「全く。私は上官です。上官に命令する部下がどこにいるというのですか」


 そこでアルマがポータルから姿を見せた。


「ここで複数の重砲の砲撃を受け止め続けるのには無理があります。と、言えば分かりますね、ベネディクタ?」


「オーケー。やってやろうぜ」


 つまりは重砲そのものを叩くか、狙いを定めている観測班を叩く。


 少なくとも狙いが逸らせれば十分だ。その隙にドラゴンたちを脱出させればいい。


「行きますよ、ベネディクタ。近衛軍の小隊も」


「畏まりました、アルマ少将閣下」


 そして、救出作戦が本格化した。


 ドラゴンたちの撤退が先か、それともバンカーが破壊されるのが先か。


 重砲の狙いは着実にバンカーに迫っている。


……………………

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