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作戦継続

……………………


 ──作戦継続



「ベネディクタ! どれほどかかりそうですか?」


「ああ? そうだな。こうも人間を焼き放題となると、3時間はかかるかね」


「遅すぎです。私も加勢します」


「人の獲物を取るなよ!」


「では、取られないように迅速に戦ってください」


「畜生」


 アルマとベネディクタのスコア競争が始まった。


 瞬発的な火力はベネディクタの方が上だ。彼女は一回の攻撃で1個大隊を壊滅させかねないほどの炎をまき散らす。そして、炎というものは人間に、人間という獣に根源的な恐怖を与えるものである。


 対するアルマが最大に殺せる人間は500名程度。。だが、射程距離でベネディクタを上回っているために、継続的な火力はアルマの方が上だ。彼女は逃げようとする六ヵ国連合軍の兵士たちを後ろから、容赦なく攻撃を加えて四散させる。


「容赦ないな、あんた」


「この程度で感心されても困ります。私の力はこの程度ではないのですから」


 そして、アルマが回転するように腕を振り回すと、一面に死が撒き散らされた。


 肉の削げた白骨死体があちこちに散らばり、目の前で友軍が飛散な姿になった六ヵ国連合軍の兵士たちが悲鳴を上げる。


「いいな! どんどん殺していこうぜ!」


 ベネディクタも負けじと炎を振りまき、六ヵ国連合軍の兵士を焼いていく。


 そこからは地獄であった。


 焼死体があちこちに散らばり、白骨死体と血があたりに転がる。


「3個師団が全滅、と」


「奇襲の効果のおかげですよ。自分の能力を過大評価しないように」


「はいはい」


 アルマのお小言をベネディクタは軽く流す。


「しかし、人間どもも弱くなってないか? 昔の人間たちだったらもっと迅速な行動をするはずなのに。それも適切な戦術で」


「確かにそうですね……。これまでの戦場では近衛吸血鬼であろうとこの数を相手にすれば負傷する覚悟ぐらいはしなければなりませんでしたが。人間たちは数のごり押しをしているとは言え、ここまで脆くなるものでしょうか?」


「分からねーな。あんまり弱くても手ごたえがないだけどな」


「弱ければ弱くて結構です。我々は捻り潰すのみ」


 ベネディクタが炎をまき散らし、アルマが歩兵を肉と骨に分離する。


「構えっ!」


 だが、確かに人間は弱くなってはいなかった。


 ただ、彼らはもう戦争は終わったと思っていただけなのだ。勝利を知り、味わった兵は弱くなる。戦争に勝ったのに死ぬなんて馬鹿げていると思う。そうすると勇気は失われ、士気は低くなり、全体的な戦力は低下する。


 それでも、目の前に化け物がいて、そいつを殺さなければ生き残れないと気づいたとき、人間は真価を発揮する。有史以前から化け物を殺すのは化け物ではない。化け物を殺すのは常に人間であるのだ。


「撃てえ!」


 隊列を組んだ歩兵が一斉にベネディクタとアルマを狙って銃弾を放つ。刻印弾だ。当たれば近衛吸血鬼であるベネディクタとアルマは重傷を負う。


「甘いですよ」


 その一斉攻撃はアルマの遠隔操作によって空中で受け止められ、ぽろぽろと弾丸が運動エネルギーを失って地面に落下する。


「今だ!」


「砲兵だ、アルマ!」


 銃声は遠くで鳴り響く砲声を隠すためのものでしかなかった。


 砲弾が猛スピードでアルマたちに降り注いでくる。


「この……っ!」


 アルマが今度は砲弾を受け止める。


「撃てえっ!」


「させるか! 焼け死ね!」


 歩兵がすかさず刻印弾を叩き込もうとするのにベネディクタが炎を放った。歩兵は炎の渦によって薙ぎ払われ、全身を燃え上がらせながら、炎から逃れるために地面を転がり回って悲鳴を上げる。


「今さら、魔王軍の残党程度にやられる我々ではないっ! 怯むな! 撃て!」


 砲兵は砲弾を放ち続け、歩兵は機関銃を持ち出してベネディクタたちを狙う。


「ははっ! そう、残党だ! あたしたちは魔王軍残党だ! お前らが殺し損ねた残党だよ! だがな、その残党によってお前たちは死ぬんだ! 平和な未来を夢見ながら、哀れにここで焼け死ぬんだよ!」


 ベネディクタは集まってきた歩兵たちから魔力を吸い上げ、炎に変換して叩きつける。歩兵は機関銃ごと炎に包まれ、歩兵たちは散発的に発砲するだけで、全くベネディクタたちに有効な打撃を与えられずにいる。


「そうです、ベネディクタ。我々は残党なれど、魔王軍。仕えるべき王を持たぬ近衛軍なのです。今ここで証明してやりましょう。魔族──近衛吸血鬼と人間の越えがたい壁というものを。所詮は人間など狩られるべき存在に過ぎないということを」


 アルマが受け止めた砲弾を歩兵に向けて射出する。


 砲弾は歩兵の隊列の中で炸裂し、歩兵がなぎ倒される。


「大将首、いただきます」


 指揮官の中でも高位と思われる指揮官をアルマはねじり潰した。


「いいね。いいねえ。これこそが戦争。これこそが闘争。人間たちに学習させてやろうぜ。魔王軍がとっくに潰れたと思っているなら大間違いだってな。魔王軍は未だ夜の闇の中から、人間どもを狙っているということをなっ!」


「ええ。これこそがラインハルト大将閣下はお求めになられているもの。血と肉の饗宴。死と苦痛の交響曲。ラインハルト大将閣下のためにも地獄を作りましょう。全ては大将閣下のお望みになる通りに。地上に怨嗟を、大地に死を」


 アルマがここで一気に遠隔地の砲兵を捻りつぶした。砲身の曲がった野砲から放たれた砲弾が暴発を起こして周囲の兵士を巻き込み、その爆発の衝撃が他の砲兵の野砲にも伝わる。一気に1個中隊の砲兵が失われた。


 砲兵も通常は塹壕を掘り、他の砲がダメージを受けても他に波及しないように準備を整えるものだが、魔王軍が残党という存在になり、魔王軍から砲兵という兵科が消滅すると対砲兵射撃を恐れる心配のなくなった六ヵ国連合軍の砲兵はその手の作業を簡略することになった。


 そのツケを今、砲兵は支払わされた。


 師団に随伴する砲兵大隊が中隊規模で捻り潰されてゆき、六ヵ国連合軍の火力は急速に低下していく。戦場の王とすら呼ばれる砲兵が叩かれたことは、歩兵はもはや己の勇気のみで近衛吸血鬼と戦わなければならないということだ。


「あなた方はいい贄になるでしょう。魔族に対する憎悪に塗れ、苦しみと恐怖を味わい、その死体は素晴らしい瘴気の源になるでしょう。ひとり残らず、新しい魔族のための瘴気の源に使って差し上げます。ですので、恐怖し、憎悪し、苦しみ、足掻き──」


 アルマがこぶしを握り締める。


「死ね」


 歩兵1個連隊の戦力が纏めて潰された。残っているのは血と骨だけだ。


「ベネディクタ。他に敵は?」


「いねーよ。人の獲物、取りやがって」


「あなたが遅いからです」


「戦争はゆっくり堪能するものだろう?」


「限度があります」


 アルマがぴしゃりと言い放った。


「ベネディクタ。あなたの能力は買っています。ですが、あなたはあまりにも不真面目です。あなたは大将閣下に敬意を抱いていないのですか?」


「抱いているさ。そして、大将閣下はこんなことでいちいちキレたりしない」


 ベネディクタもぴしゃりと言い返す。


「いいえ。大将閣下は望んでおられるのです。血と肉と憎悪と恐怖の戦争を。我々はそれを実現するために尽力しなければなりません。ふざけている場合ではないのです。我々のやるべきことはあまりにも壮大で、我々の戦力はあまりにもちっぽけなのですから」


「了解、少将閣下」


 アルマはそれから全ての死体を遠隔操作の呪血魔術でポータルで死体穴に放り込むと、ベネディクタたちとともに撤退した。


 六ヵ国連合軍はついに3個師団もの損害を出した。


 油断できない何かがいるのは、もはや六ヵ国連合軍の総司令部にも明白だった。


……………………

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