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人工聖剣対人工魔剣

……………………


 ──人工聖剣対人工魔剣



「なるほど。人工魔剣、とでもいうべきでしょうか?」


「ええ。人工魔剣“ダインスレイフD型”。ラインハルト大将閣下より授かったものです。これであなたを屠ります」


 アルマはそう宣言すると“ダインスレイフD型”を振るった。


 黒魔術より黒き魔力が解き放たれ、ガブリエルに襲い掛かる。


「なかなかに邪悪なものですね。ですがっ!」


 ガブリエルが“デュランダルMK4”を振るう。


 神聖魔術の魔力がアルマに叩きつけられる。


 それでアルマが後ろに下がり、ガブリエルが追撃する。ガブリエルが“デュランダルMK4”を振り下ろし、アルマが辛うじてそれを受け止める。


 激しい斬り合いが始まった。


 周囲に斬撃の衝撃と魔力が伝わるため、フランク共和国軍も魔王軍もアルマたちの周りから撤退する。“デュランダルMK4”と“ダインスレイフD型”が幾度も交錯し、そのたびに激しい衝撃が発生する。


「やりますね……!」


「そちらも……!」


 斬り合いを続けていくうちにガブリエルとアルマの間では奇妙な関係が構築されて行った。お互いを強敵として認め合う感覚。こいつを倒すのは自分しかおらず、自分を倒すのはこいつしかいないという感覚。


 斬り合いはヒートアップし、金属音と衝撃波が周囲を揺るがす。


 アルマが一撃を放ち、ガブリエルがそれを受け止める。地面が揺らぐ。


 ガブリエルが一撃を放ち、アルマがそれを受け止める。空が揺れる。


 アルマの黒魔術より黒い魔力。その正体は悪魔の魔力である。


 ここでネタを明かしておこう。


 “デュランダルMK4”には何の仕組みもない。そして、“ダインスレイフD型”も同様に何の機構も組み込まれていない。


 ただ、“デュランダルMK4”は神々によって選ばれたガブリエルとパスを繋ぐことによって、その神聖魔術を行使させる。それと同様に“ダインスレイフD型”も大悪魔ラルヴァンダードによって選ばれたアルマにパスを繋ぎ黒き魔術を行使させる。


 ラマルク博士がいくら“デュランダルMK3”を解明しようとしても分からなかったのは当然だ。そこには何の意味もなかったのだから。


 “デュランダルMK4”で改良されたのはコアと呼ばれるだけの剣の魔力が集まると言われる中核に聖書の文章を刻んだだけに過ぎない。


 そんな武器で彼女たちは殺し合っているのだ。


「まだまだです!」


 ガブリエルが“デュランダルMK4”から膨大な神聖魔術を放ちつつ、アルマに斬りかかる。アルマに神聖魔術が叩きつけられるが、アルマは既に悪魔の力を以てして改変されたアルマだ。この程度で蒸発したりはしない。


「まだまだっ!」


 アルマも黒き魔術を叩きつけて応戦する。普通の人間ならばドロドロに溶け落ちてしまうような毒性のある魔術を受けてもガブリエルは崩れない。


 お互いがお互いの種族によって猛毒となる魔術を放ちあっているために、傍には誰も近寄れない。迂闊に近寄れば死である。


 激しい戦闘が続き、一進一退の攻防が続く。


 神聖魔術と黒き魔術のぶつかり合い。


 それは時空すらも歪め、時間の速度もおかしくなり始めていた。


「そろそろ頃合いか」


 ラインハルトがそう呟く。


「ヴェンデル。このまま彼女たちが殺し合っても、死ぬのはアルマの方だ。であれば、君がやるべきことは分かるね?」


「……はいはい。分かりましたよ」


「いい子だ」


 ヴェンデルが呪血魔術を発動させる。


 アルマは確実に押されて行っている。戦局はガブリエルが優勢だ。周囲の空気も神聖魔術に支配されつつあった。


 このまま戦えばアルマは負ける。


 だが、そうはならなかった。


「がっ……!」


 ガブリエルの胸を貫いて心臓を掴んだ手が伸びていた。


「捕まえた、と」


 心臓を掴んだのはヴェンデルの手だった。


 ヴェンデルの呪血魔術はこういう使い方もできるのだ。彼はこれまでそれを隠してきたが、ラインハルトだけは創造主としてそれを知っていた。


 相手の体内にポータルを強引に開き、そこから相手の内臓を掴み、そして──


「はい、と」


 ぐちゃりと音を立ててガブリエルの心臓が潰れた。


「ガブリエル大佐!」


「そんな!」


 フランク共和国軍の兵士たちが集まってきて、ガブリエルの死体を回収する。アルマにはそれを追撃する力も残されていなかったし、他の魔族は神聖魔術の影響で行動できなかった。


 死体は持ち去られ、戦場には潰れたガブリエルの心臓だけが残る。


「ヴェンデルッ! どうして余計なことをしたのです!」


「大将の命令すよ、アルマの姐さん。文句は大将に行ってくださいっす」


 アルマが叫ぶのに、ヴェンデルが肩をすくめた。


「アルマ。あのままでは君は負けていた。残念ながら、今の君ではまだあれには勝てなかったのだ。だが、安心したまえ。あれはそう簡単に死んでしまうような儚い存在ではない。一時的な死を迎えただけだ」


「一時的な死……?」


「そうだ。聖人がどうして聖人として祀られるかをしっているかね?」


「いえ……」


 どうしてここで聖人の話が出てくるのかすらもアルマには分からなかった。


「彼らが死すらも克服したからだ。彼らの死体は腐らず、彼らは死を恐れず、そしてあるいは彼らは死なない。そのことによって聖人は聖人であると言えるのだ」


 そしてガブリエルもまた聖人だとラインハルトは語る。


「君にはひとえに私の技術不足で迷惑をかけた詫びよう。“ダインスレイフD型”ではあれには勝てない。そして、恐らくはあれが聖人として完成される暁には“ダインスレイフD型”でも、その改良バージョンでも相手にできなくなるだろう」


「では、どのようにしてあれを退けると仰るのですか?」


 アルマが焦ったようにそう尋ねる。


「私が殺すよ。私が殺そう。聖人殺しだ。聖人を越えた限りなく神に近い存在を殺すのだ。これほどの大罪があろうか。私は罪を犯し、それを愉悦としよう。聖人殺し。天使殺し。神殺し。私は自らが犯した罪によって、より高位の存在へと成長するのだ」


 それこそが我が願いとラインハルトは語った。


「私の役目はこれで終わりですか……?」


「いいや。いいや、アルマ。終わりではないよ。君は最初に黒き腐敗に耐えた。これからもっと黒き腐敗に耐えるならば、より上位の存在になれる。君はまだまだ成長する余地があるのだ。それは重要なことだ」


 成長だ。進化ではないとラインハルトは語る。


 生き物の進化とは方向性を持って行われるものではなく、ランダムな突然変異のうち生き残ったものが定着することで生物が新たな形態を獲得することを言うのだ。そこに人の意志が介在するようなことがあってはならない、と。


「君を成長させよう。私の神殺しを手伝ってくれたまえよ、アルマ」


「はい、ラインハルト大将閣下」


 ラインハルトが右手を祝福するように、跪いているアルマにかざす。。


 そして、黒き腐敗は流れ込む。


 アルマをさらなる上位存在に成長させるべく。


……………………

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[一言] ヴェンデル、初見殺しやな
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