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リヴァイアサン

……………………


 ──リヴァイアサン



「諸君らの努力を無駄にしないために、わたしもいろいろと考えてみたのだ。どうすれば君たちを効率よく戦闘空域に送り込めるか、などをね」


 ラインハルトが語る。


「そして、ひとつの答えが出た。これを見たまえ」


 魔王軍造兵廠の裏手。そこには巨大な物体があった。


 ドラゴンよりもはるかに巨大で、戦艦よりも巨大なもの。


 飛行船だ。


「これが我々が到達した答えだ。空中空母リヴァイアサン。最大でドラゴン3個飛行隊を収容可能。彼らを疲労させることなく、戦闘空域に送り込める。どう思うかね? この答えは正しいと思うかね?」


 ラインハルトがそう尋ねる。


「これは合計で何隻建造されるのですか?」


「10隻の就航を目指している」


「つまり30個飛行隊……」


 1個飛行隊が18体のドラゴンで構成されることを考えると、540体ものドラゴンとスケルトンドラゴンが一斉に投入できることになる。


「素晴らしいです、閣下。これはかなり有益なものになると思います」


「それは開発者冥利に尽きるというものだ。では、量産を開始しよう」


 ここまで非常識な大きさの飛行船とあり得ない積載量が実現できたのは、ひとえにこの世界ではエーテルの波にのって空を飛ぶからに他ならない。この世界の空の物理法則は、他の世界とはことなっているのだ。


 リヴァイアサン級空中空母は順次量産が進み、造兵廠から前線に送り込まれて行った。そしてドラゴンたちを満載し、フランク共和国に向かう。


 フランク共和国ではパニックが起きていた。


 あまりにも巨大な飛行船が上空に現れるのに、人々がパニックになる。そして、そこからドラゴンたちが飛び立ってくると混乱は頂点に達した。


 魔王軍空軍部隊は疲労することなく、フランク共和国上空に現れ、フレスベルグとの交戦に突入する。魔王軍のドラゴンたちの方が今では練度においても、性能においても、フランク共和国のフレスベルグを上回っていた。


 改良され速射性が向上した航空機関砲“グラムE型”はフレスベルグを次々に撃墜し、航空優勢を確保していく。


 そして、工場や都市に向けて爆裂の刻印弾が投下される。


 工場は真っ赤に燃え上がり、都市のインフラは破壊される。やがて魔王軍は攻撃目標を拡大し、市街地もまた攻撃目標に入った。市街地が魔王軍の爆撃を受けて燃え上がり、主要官庁も爆撃を受ける。


 航空戦が激しくなる中、人々は防空壕を作り、そこに隠れた。


 魔王軍空軍の激しい戦略爆撃は続き、フランク共和国が工業力を失っていく一方で魔王軍は依然としてスヴェリア連邦を攻めあぐねていた。


 大量の兵力を動員すれば、纏めて消し飛ばされる。


 だが、ラインハルトも言っていたように手はあった。


「ガブリエル大佐。本国への帰還命令です」


「まあ。ここはどうするのですか?」


「残念ですが、放棄という形に……」


「それは……残念です」


 アルセーヌが告げるのに、ガブリエルが落胆の意志を示す。


「ですが、我々はすべきことをしなければなりません。共和国は今、途方もない脅威に晒されていると聞きます。それを助けることができれば何よりでしょう」


 人々は求めている。ガブリエルを。ガブリエルという名の救世主を。


 それは信仰とすら言え、ガブリエルに信仰心が集まっているかのようだった。


 そして、彼女の体に最初の変化が訪れた。


 それはラマルク博士の研究所で最初に観測される。


 魔王軍の海上・航空封鎖を貫いてフランク共和国に帰国したガブリエルはまずは先の戦略級神聖大魔術“プリュイ・デ・リュミエール”の影響がなかったかどうかを調べるためにラマルク博士の研究所に向かった。


 ラマルク博士の研究所はまだ空爆を免れており、研究所内でガブリエルと人工聖剣“デュランダルMK4”は検査を受ける。


「なんだ、この値は……」


 ラマルク博士は測定の結果に唖然とする。


「どうしたのですか?」


「君の現実歪曲値が恐ろしいほどに高まっている。もはや、この測定器ではまともに測定できない。それから白魔術の現実歪曲値が変化している。これは白魔術ではない。白魔術に似ているが、もっと神聖なものだ。こんなものは見たことがない」


 最初の変化。ガブリエルの魔力の変化。


 彼女の放つ白魔術は膨大なものとなり、今や白魔術より白き神聖魔術となった。


 それが最初の変化だった。


 そして、彼女はそんな変化を他所に首都防空戦に参加する。


 地上から空を飛ぶドラゴンたちを狙って渾身の一撃を加える。首都を襲撃するドラゴンたちをガブリエルはバッタバッタと斬り落としていき、魔王軍は人類側も動員を始めた高射砲と対空機関砲も相まって、爆撃が困難になった。


「アルセーヌ君。ガブリエル大佐が人間以外のものになろうとしていると聞いて、君は驚くだろうか?」


「どういうことですか?」


「ガブリエル大佐はもはや明らかに人類ではない。それより高位の存在だ。神と呼んでも、天使と呼んでもいい。とにかく、急速に人間ではなくなりつつある。彼女の現実歪曲値は異常だ。“デュランダルMK4”と合わせれば、異常さはさらに際立つ」


「それは……」


「私は神など信じない。科学こそが理性の砦だ。だが、私はそれに反するものを目撃しつつあるのだ」


 ラマルク博士はアルセーヌにそう語った。


 首都防空戦でガブリエルが功績を上げれば上げるほど、彼女の魔力は高まり続けた。ドラゴンが落ち、市民がガブリエルを讃える度に魔力は変化を続けた。


 首都防空戦が始まってから8か月後には、もはやガブリエルがそこにいるだけで、ドラゴンたちは首都ルテティアに接近すらすることができなくなってしまっていた。


 首都防空戦が終わり、魔王軍は別の方向に戦力を向け始めた。


 すなわち、未だに魔王軍を放っての内戦が続いているドナウ三重帝国へ向けて。


 ドナウ三重帝国を陥落させるのは容易だった。


 魔王軍は物量にものを言わせてドナウ三重帝国を征服し、内戦のせいで碌に準備もできていなかったドナウ三重帝国軍を撃破した。


 ドナウ三重帝国は崩壊し、各地で独立勢力が名乗りを上げては魔王軍に征服された。そして、彼らもまた瘴気の原材料にされた。


 そして、ここに来てラインハルトの体にも変化が生じ始める。


 発生する黒き腐敗の量が多くなり、周囲にゆっくりと影響を与え始めていた。


 魔族たちがより強力になっていく。ドラゴンたちの大きさは大きくなり、近衛吸血鬼たちの呪血魔術は強力になり、人狼も腕力が増大し、ゴブリンやオークですらも知性を得てより高度な作戦に従事できるようになり始めた。


 黒き腐敗はゆっくりと、ゆっくりと魔王軍の中で侵食を続けた。


 だが、黒き腐敗は人間にとっては猛毒だった。


 僅かに黒き腐敗に触れただけで人間は死ぬ。


 皮膚の爛れ、失明、心肺機能の異常、多臓器不全、内臓の溶解。


 そのような悲惨な症状を呈しながら、人間だけは死んでしまうのだ。


 まるで、魔族こそが選ばれた種族であるかのように。


……………………

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― 新着の感想 ―
[一言] どっちもすごい進化を遂げたなあ
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