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クラクス王国侵攻

……………………


 ──クラクス王国侵攻



 魔王軍クラクス方面軍は20個の軍団と80個の師団で形成される。


 彼らは電撃的にクラクス王国に侵攻した。


 電撃的と言っても機械化されていない軍隊としては早いぐらいであり、電撃戦とまでは行かない。それでもスレイプニルによって機動する砲兵と吸血鬼と人狼たちの侵攻速度は素早かった。やはり面を制圧するのはオークとゴブリンであるものの。


 先行して侵入していた第1教導猟兵旅団“フェンリル”が国境線に配置されたクラクス王国の砲兵に打撃を与え、その隙に魔王軍の砲兵が短時間の制圧射撃とそれに続く歩兵突撃で敵を制圧する。


 魔王軍もドクトリンを進化させており、砲兵戦力の殴り合いでは分が悪いということ知り、砲兵は奇襲的に砲撃を仕掛けて直ちに陣地転換し、敵に準備をさせないままに歩兵を突っ込ませるという戦術を確立していた。


 お互いに黒魔術と白魔術の刻印弾を撃ち合い、銃撃戦と塹壕戦の果てに敵を制圧する。そういう戦いが繰り広げられていた。


 クラクス王国そのものは歴史と伝統ある国家だが、いかんせんながら軍隊は強力とは言い難かった。


 クラクス王国軍は緒戦で大打撃を受け、隣国のドナウ三重帝国とルーシニア帝国に援軍を求める。だが、ドナウ三重帝国は今まさに内戦の最中にあり、援軍を派遣するどころではなかった。


 ルーシニア帝国は先の戦いで打撃を受けており、軍を再編中との返答を返し、援軍を寄越すことはなかった。


 結局のところクラクス王国に援軍を派遣しようとしたのはフランク共和国だけで、その彼らもドナウ三重帝国内の少数民族の過激派によって鉄道が爆破されることが相次ぐと、その計画を断念せざるを得なかった。


 クラクス王国は援軍のないまま必死に戦い続けた。


 彼らは誇り高い祖先のように戦ったが、残念ながら魔王軍の物量には勝てなかった。


 クラクス王国は魔王軍の侵攻開始から10か月で陥落し、魔王軍によって占領された。


 魔王軍は生き残った住民を痛めつけ、辱め、憎悪と屈辱の感情を煮えたぎらせ、瘴気の源として利用した。1か国全てを使った憎悪の蓄積というのは、膨大な瘴気を生み出し、それによって魔王軍はさらに強化された。


 だが、そんな魔王軍を横合いから殴りつけてくるものがいた。


 ルーシニア帝国である。


 ルーシニア帝国が軍を再編成中というのはでたらめだった。


 実際には彼らは既に軍の再編を終えており、クラクス王国が陥落し、魔王軍の兵站線が伸びきったところを横合いから殴りつける準備を進めていたのである。


 ルーシニア帝国は魔王軍を横合いから殴りつけ、魔王軍を動揺させた。


「さて、いよいよルーシニア帝国との戦いだ」


 ラインハルトが最前線になってるクラクス王国のかつての王都でそう宣告する。。


「今回はどのように?」


「ルーシニア帝国は広大で、手ごわい冬将軍もいる、まともに挑むのは酷い浪費だ。我々は別のアプローチを取らなければならない」


 アルマが尋ねると、ラインハルトがそう答える。


「国家を、帝国を消滅させる大魔術を使用する。そのために必要な生贄は既にクラクス王国で確保できた。我々はこの生贄を捧げ、敵国をこの地図上から消滅させる」


 その言葉に軍議の場は静まり返った。


「そ、そのようなことが可能なのですか……?」


「ああ。可能だとも。君たちに嘘はつかない。私の忠実なる将軍と提督たちにそんな嘘はつかないよ」


 ランハルトはそう言って地図を指さす。


「ルーシニア帝国には龍脈が通っている。我々はこの龍脈に黒魔術を流し込み大地を一斉に汚染する。残るは死体だけだ。彼らは地獄からの声を聞くことになるだろう」


 ルーシニア帝国のあちこちには魔力的パスが通っていた。それは普段は正常な地球のエネルギーを流しているが、これに介入することによりひとつの国家を壊滅させられるだけの効果を発揮する魔術を成し得るのである。


「それでは諸君はクラクス王国に侵攻してきたルーシニア帝国軍の撃退を。海軍もフランク共和国が援軍として、海路で兵力を輸送しようとするのを防いでくれたまえ」


「畏まりました、閣下」


 ラインハルトは軍議を終えて王座の間に向かう。


 王座の間は無人だった。


 彼は王座の隣に立つ。王座に誰かがいるかのように。


「相変わらず、摂政気取りかい?」


 そこでラルヴァンダードの声が響いた。


「ええ。前に言いましたように権威と権力は分離しておくべきなのです」


「退屈な考え方だ」


 権力欲の否定は悪魔としての生き方の否定だとラルヴァンダードはいう。


「だが、君は気づいたようだね。悪魔としてより高みを目指すためには何が必要なのか。今以上の悪魔になるのはどうすればいいのか。それについて君は知った。そして、それを実行しようとしている」


「恐怖」


「そう恐怖だ。君は着々と恐怖を手に入れつつある。このクラクス王国を陥落させることで、そして民を滅ぼすことによってさらなる恐怖を手に入れた。そして、今まさに最大級の恐怖を手に入れようとしている」


「神々が信仰心によって栄えるならば、悪魔は恐怖によって栄える。私はあなたに悪魔としての肉体をいただきました。では、それを最大限に活用できる方法を取ろうではありませんか。恐怖を得ようではありませんか」


「国とひとつ滅ぼし、国をふたつ滅ぼし、そしてもうひとつ国を滅ぼす」


「重要なことです」


 ラルヴァンダードが歌うように言うのに、ラインハルトはにやりと笑った。


「君はこれから最大級の恐怖を示す。それによって大悪魔となれるかどうかは君次第だ。悪魔は恐怖を糧に成長する。悪魔は大悪魔に、大悪魔は多元宇宙的恐怖に。今の君はただの悪魔だ。だが、いずれ成長することだろう」


「ええ。そう考えていますから」


 神を信仰心を得てより高度な存在になるのと同じように、悪魔もまた恐怖によってより高度な存在になる。悪魔はより強大な大悪魔に、大悪魔はあらゆる世界で恐れられるラルヴァンダードのような多元宇宙的恐怖に。


「そのために君は国ひとつを殲滅するつもりだ。禁忌の魔術を使って。いったいどれほどの人間が君の魔法によって犠牲になるのかな?」


「とてつもない数でしょう。ですが、心のひとつも痛みませんな」


「君は酷い奴だ」


 ラルヴァンダードがクスクスと笑う。


「まあ、君の成長を楽しみにしているよ。早くボクらに追いついてごらん。世界はひろく、とても楽しい。君もきっと気に入るはずだ」


「ええ。楽しみにしています」


「それじゃあね」


 ラルヴァンダードは次の瞬間、姿を消していた。


「ひとつの魔術で数千万人を殺す。これは確かな恐怖を呼ぶだろう。恐怖は蔓延し、連鎖し、私に集まる。おお。恐れ知らずの勇者よ。恐怖を覚えたまえ。それこそが汝の敵をより強大にし、それに立ち向かう君たちを偉大な存在にするのだ」


 ラインハルトは王座の隣でひとり呟く。


「さあ、愉しいパーティーの開宴だ」


……………………

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