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知らぬが仏

作者: ゆき

「おはよう」


朝、いつものように顔を洗ってリビングの椅子に座る。

そんな私を夫である相馬が目を合わせて笑い、味噌汁をよそって私の向かいの椅子に座った。

今日のご飯は白ご飯に鯵のひらきとほうれん草のおひたしと豆腐の味噌汁だった。


「いただきます」


二人で手を合わせて一緒に食事を取る。

相馬が先に食事を食べ終えて食器を洗いはじめ、私の食事が終わるとその食事も洗ってくれた。


「じゃあいってきます」


いってきますのキスをして玄関まで相馬を見送った。

私はその後に着替えをして、子供を起こし子供がご飯を食べている間に自分の身支度を整えて子供を幼稚園へ預けその後パートに出かける。

本当に絵に描いたような幸せな生活で、ずっとこの生活が続けばいいと思っていた。






私と相馬は結婚して6年目。子供は4歳の女の子がいる。

相馬は正社員で仕事をしており、私はもともの結婚後専業主婦だったが子供が幼稚園に入ったことで余裕ができ自分の小遣いは自分で稼ぎたいとパートを始めた。相馬はパートをすることに反対しており、渋ったが結局は折れてくれた。

相馬はすごく協力的で、朝は私が弱いからと朝食を作ってくれ仕事から帰ってくれば子供のシャワーを入れてくれる。土日のどちらかは公園に連れて行ってくれて、日曜日は料理を3食作り、他の家事も手伝ってくれる。以前は専業、今はパートとはいえここまで協力してくれることに少し申し訳なく思ってしまうほどだ。


私達の出会いは少し特殊だった。相馬は上場企業に勤めていて、相馬の会社が忘年会で呼んだコンパニオン達の中に私はいた。

容姿もよくスペックが高い相馬がどうしてか私を気に入ってきれたみたいでその時にメール交換した。正直その時はなんで特に美人でもない私に連絡先を交換してきたのだろうと思っていたが、そのことがきっかけで連絡を取り合い交際まで発展することとなった。


私は当時21歳でこんな仕事をしていたが、男性と付き合ったことがなく初めての交際だった。相馬はいつでも私に優しく色々なところにつれていって私を楽しませてくれた。今まで生活することに必死で特に面白みのない生活をしていた私は全てが新鮮に思えた。始めは相馬に好意を持ってはいたが好きかと聞かれれば自信はなかった。けれど、私をいつも思ってくれれる相馬に段々と惹かれていき本当に好きになっていった。

交際して1年がたった頃同棲して欲しいと言われた。理由はコンパニオンを辞めてほしいからだと言われた。私は相馬のことが好きだったので純粋に同棲したいと思い、相馬の家に転がり込むように同棲を開始した。始めはお金を折半するつもりだったが、相馬は家賃、電気、ガス、水道など自分の口座から引き落としていて私からのお金は受け取ってもらえなかった。私は夜の仕事は辞めめてフルタイムのアルバイトをするようになった。

そして付き合って2年がたった頃、私は付き合って2年目記念に連れてきてもらってホテルのレストランでプロポーズされ結婚することとなった。


私の親は毒親というやつで私が高校卒業と同時に家を飛び出した。しかし、その後私が就職した職場に親が乗り込んできたことが多々あり、私は職場を退職することとなった。その後私は親にバレないように職を転々とし家も引っ越しした。日々の生活に必死で恋愛なんて考えたことなかったのにまさか結婚を申し込まれるまでになるなんて本当に人生ってどうなるかわからないもんだなと思った。

相馬には親のこともきちんと話しており、それも全て受け入れてくれた。


結婚が決まり、相馬の親へ挨拶をする時は不安だった。相馬のような立派な会社に勤めているわけではなくただのアルバイトだし、親とはほとんど絶縁しているためそのことも言わないといけない。正直反対されても仕方ないと思っていた。相馬は絶対反対されないから大丈夫だと言ってくれたが不安しかなかった。


相馬の実家は私からしたら豪邸のような立派な一軒家だった。家は大きいだけでなく車も2台あって庭まであった。幼少の頃からボロアパート暮らしだったため格差を改めて実感した。

インターホンを押し、家から初老の女性が出てきて私はこの人が相馬の母親なんだろうと思った。そして、その女性は私を見るなり固まった。


服装が変だったかな?ちゃんとした服を着たつもりだったけど……。


「母さん、紹介するね。この人は原田理子さん。結婚を考えている人だよ」

「はじめまして、原田理子です。相馬さんとお付き合いさせてもらっています」

「え、あっ。そ、そうなの」

「母さん、家に入っていいかな」

「あ、もちろん」


相馬の母親に案内され、相馬の父親にも挨拶することができた。そして、自分に今までの生い立ちについても正直に話した。

相馬との結婚を反対されるかもしれないと思っていたが、相馬の母親はその話を聞いて涙ぐみ、私達を本当の両親のように思って欲しいと言ってくれ、あまりの予想外の展開に驚きを隠せなかった。

相馬の両親は私達の結婚を賛成してくれ、結婚費用まで出そうとまで言ってくれていた。そのことに関しては断ったが、そこまで思ってくれているのが嬉しかった。


私は始め相馬の母親の態度に引っかかりを感じていたが、相馬の両親の挨拶が終わった達成感で帰る頃には忘れていた。


結婚してからも変わらずに相馬に愛され、相馬の両親も私のことを気に入ってくれたみたいで何かと気遣ってくれて家族って本当にいいなと思った。






相馬が2泊3日で出張に出かけており、パートもちょうどその期間休みだったため久しぶりに家の掃除を徹底的にしようと思い、あまり入らない相馬の部屋も掃除しようと部屋へ入った。

掃除の途中、アルバムが目に入り思わず手を止めてアルバムに見入ってしまった。小中高、大学の卒業アルバムがあり私の知らない相馬が見れたようで嬉しくてパラパラと捲った。そして、卒業アルバムの奥に古ぼけたアルバムがあるが見つかった。

中を見ると相馬の赤ちゃんの頃からのアルバムだった。途中から相馬より年下の女の子がちらちらと映るようになった。私はそれを見て相馬の妹を思い出した。高校生になったばかりの頃、交通事故で帰らぬ人となったそうだで、悲しみのあまり家では妹のことはタブーとなっていると聞いた。

私は複雑な思いを抱きながら写真を捲る。そして、その妹が子供に似ていることに気づいた。けれどその写真の妹が成長すると共に自分の中で違和感を感じるようになった。そしてその正体に気付いてしまった。


違う、このこが似ているのは娘じゃない……私だ。


心の中のどこかがピキリとヒビが入った。

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