第二話「運命」
眠っている。今、横たわって目を瞑っているのがわかる。しかし、体が全く動かない。まるで、金縛りになっているかのようだ。実際に金縛りなのだろうが、とりあえず、今はこのまま何もできやしない。
自分は死んでしまったのだろうか。あの地獄のような痛みからは解放され、気がつけばただ横たわっている。ベッドに入って目を閉じ起きる、この一体いつ眠りに入ったのだろうと疑問を抱くルーティーンと同じ感覚を持った。どうなてしまうのだろう。このままずっと、何もできない状態で意識ははっきりする中、微睡んでいなければいけないのだろうか。そう考えてしまうと、とても不安になった。恐ろしい。永遠にこのまま。
かといって、この状況を受け入れなくもない気持ちもある。あのまま生きていても、梲が上がらず生きた時間が増えていき、生きていく時間が減っていく、どうにもならない生涯を歩んでいくだけだ。これでいいのだろう。そんな受け入れと拒絶の葛藤で揺れ動いていると
「目覚めましたか。」
どこからともなく声が聞こえてきた。女性の包容力のある優しい声。本を読んでいる時に聞こえれくる声と同じ感覚だ。すると同時に、体から何かが引いていくような気がした。試しに右手を握ってみると、確かに動いた。そのまま上半身だけを起こし、目を開けてみる。真っ暗だ。果てしない暗闇に包まれている。見えるのは自分の下半身と、腕で支えられた上半身だけ。一体全体、どこから聞こえてきたのか。
何も考えられず、呆然としていると目の前に一縷の光が差し込んだ。その光は徐々に広がっていき、終いには扉のような長方形の光が出来た。そして、その中から人影が現れる。明かりに包まれており誰かは認識できない。
「初めまして。」
そう言いながら近づいてくる。出てきたのは女性だった。豊満な胸に全身をギリシャ神話に出てくるような、いかにも女神という服とは言い難い純白の布を纏っている。髪の毛は金色で艶があり一本一本が輝いている。
「私の名はファタリア。運命を司る女神です。」
女神であった。本当に女神であった。女神様は自己紹介を終え微笑みかけている。ただ、その女神様が来る前の事ですら理解ができていないのに、そんなことを言われたら、とんだ電波野郎だと思ってしまう。いや、もう電波野郎だろう。それに変な性癖まで持ち合わせているに違いない。絶対にそうだ。そう受け取らなければ自分の頭が処理落ちしてしまう。とりあえず質問してみた。
「どちら様でしょうか?」
「だから、ファタリアだと名乗ったではありませんか!」
怒られた。申し訳ない。知っていることを訊いてしまった。しかし、こちらの状況も少しは酌んで欲しい。激痛に見舞われたかと思ったら、暗闇からはとんちき野郎。こんな連続で正気なんて保てたもんじゃない。聞きたいこともありすぎて整理がつかない。とりあえず、
「ここはどこでしょうか?」
「ここは安置所です。一時的に、あなたのような人を置いておく場所です。」
安置所。ということは、僕は死んだのか。こんなことを遠回しには知りたくなかった。だがもう驚きもしない。十分に疲弊している。また質問をしよう。
「なぜ僕はここに?」
「焦らしてもあれなので単刀直入に言います。あなたは異世界に転生します。」
驚いた。というより驚けた。訳がわからない。なんなんだ?言葉は通じるのに意味がわからない恐怖が腹の底からこみ上げてくる。どこかの得体の知れない言葉を聞いた方が数百倍ましだ。何をいっているんだ、、、
「ど、、どういうことですか?」
「そのままの通りです。」
「いや、、で、でも、、、」
「そのままです。今まで暮らしていた世界とは別の、あなたにとっての異世界で新たな運命を辿ります。」
ダメだ。諦めよう。何を言っても、何を言ってるのか分からないことを返されるだけだ。だったらせめて、、、
「じゃあ、なぜ僕なのですか?」
するとその瞬間、体が宙に浮いた。まるでその質問が引き金かのように一瞬で。するとその女神様を自称する者が
「何か最後に聞きたいことは?」
「いや、だからなぜ僕が
一気に上へと引っ張られた。ものすごい力で上へ上へと。目も開けていられない程の速度を体感する。気がつくと、辺りは光で満ちていた。まるで僕を送り出すような強く優しい光だった。引き上げられていくうちに、瞼が落ちてきて意識が薄れていく。既視感を覚えたが、それは間違えているのだろう。したらば、意識があるかないかの瀬戸際にあの声で
「異世界で暮らしていく時は、こう名乗りなさい。インシオンと」
僕はまたもや目を閉じた。