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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

阿部一族+魔界転生

 阿部一族は肥後熊本細川家で千百石を受ける家柄であった。

 しかし、この数年細川家から度重なる恥辱を受けている。

 事は主君細川忠利が死んだ事に始まる。

 阿部弥一右衛門は、この忠利から殉死を許されなかった。

 次の当主に仕えよと言われたのだ。

 だが、いざ殉死せずにいると細川家中の者から陰口を叩かれる。

「あれは殉死すべきではなかったのか」と。

 その声に耐えきれず、弥一右衛門は一族の者を集め許可は無いが殉死すると告げ、そのまま腹を切る。

 いざ殉死すると今度は、主君の遺命に背いた事が問題とされた。

 阿部家は殉死者の一族として扱われず、細川家からは家格を下げられた。

 この処置に不満を持った長男権兵衛は、忠利一周忌法要の席で(もとどり)を切る。

 出家してやる、という意思表明である。

 この非礼により、権兵衛は切腹も許されず縛り首とされた。

 盗賊に対する死罪と同じ扱いであった。

 数々の恥辱に耐えかねた阿部一族は、次男の弥五兵衛を中心に屋敷に閉じ籠る。

 穏やかではない様子に、細川家の横目が様子を見る。

 そして細川家への謀反と見て、討手が差し向けられた。


 阿部家では討手の来る日を知り、屋敷や庭を掃き清め、見苦しくないようにした。

 前日には戦えない女子供、老人が自殺した。


 この中で権兵衛の妻は、己が戦えぬ事と、ただ討手の前に死ぬ為だけに戦う事に疑問を持った。

 仇を討つ、一矢報いる、そういう考えからやがて

「己は魔道に堕ちるとも、細川家に祟りを為さん」

「己では大した事は出来ぬ故、代わりのモノを召喚しよう」

「毒食らわば皿までも。

 細川の御家、亡ぼしてやろう」

 と考えが進んだ。


 肥後細川家は島原の乱にて天草四郎を討った。

 その戦にて、戦利品として書物を持ち帰った者が居た。

 その書物はどうした経緯を経たのか、この場に在る。

 「黒魔術大全」というおどろおどろしい物が。

 恐らくこの書物の邪気に恐れを感じ、手離され続けたものを、権兵衛が

「たかが伴天連の書物を恐れるとは情けない」

 と引き取ったのであろう。

 思えば、その辺りから家運が傾き始めたのだが、そんな事はどうでも良い。

 大事なのは「豪の者を黄泉より呼び戻す魔界転生の法」である。

 本来は新たな魔物としての生を得る邪法なのだが、もう一つ、既に死した者をこの世に転生させる法が記されていた。

 この場合、依り代となる肉体と、済んだ心での死が必要とされた。

 それでも一人を召喚するのに複数人の死が必要で、しかもそれで豪傑がこの世に居られるのは二日という効率の悪い魔法である。

 だが、彼女には一切合切どうでも良かった。

 既にここには、足手まといにならぬよう死んだ一族の肉体が多数有る。

 彼女は己の手首を切り、その鮮血で書物に描かれた魔法陣を描く。

 描き終えて彼女はふと気づいた。

(誰を呼べば良いのだろう?)

 既に血は流れ続け、止める術は無い。

 遠くなる意識の中、子たちに読み聞かせていた読み物を思い出した。

「縁もゆかりも無い豪傑たちよ、我が一族を哀れに思うならお助けあれ。

 細川の御家に禍をもたらして欲しい」

 すると天井が抜け、光が差し込む。

(その願い叶えよう)

 声が聞こえた。

 彼女は(何者か知りませぬが、有難う存じます)そう念じ、事切れる。


 直後、屋敷はガタガタと揺れ始めた。




 明日の戦いを前に小者たちが読経をしていた。

 心を鎮める為、死にゆく女子供老人を弔う為、臆病を出さぬ為、様々な理由からそうさせていたのだが、これも魔術の効果を高めたのだろう。

 阿部弥五右衛門は、屋敷内にただならぬ気配を感じ、一族の者が死んだ部屋を見に行く。

 だが、そこには一人の偉丈夫が立っていた。

「其方、何者じゃ!

 此処を阿部家の屋敷と知っての闖入か!」

 詰る弥五右衛門に偉丈夫は答える。

「儂は源朝臣為朝、鎮西八郎という名でも知られておる」

「うつけた事を申すな!」

「この家の者の切なる願いを聞き、義により馳せ参じた。

……いや、申し直そう。

 楽しそうだから合戦しに来た。

 討手と戦うのであろう?

 儂は保元の頃、門を守るのは白河北殿で経験しておる。

 まあ、任せよ」

 そう言うと、持っていた弓を弥五右衛門に渡す。

 それは近頃の武士では引く事の出来ぬ強弓であった。

(まさか本物?)

 鎮西八郎を名乗る偉丈夫はニヤリと顔を崩し、弓をひったくると表門の方に向かった。


(一体何が有った?

 誰か何かをしたのか?)

 弥五右衛門は一族の者が死した部屋に入る。

 畳の上に不可解な血の文様が描かれ、死体は全て消えていた。

 死体を探す弥五右衛門の鼻に、耐え難い臭いが届く。

 鼻をつまみ、臭いの方に向かうとそこにはまた一人の男が居た。

「其方は何者じゃ?

 ここで何をしておる?」

「糞を煮詰めておる」

「何故に?」

「儂は赤坂、千早の戦いでこうして敵を退けたからな」

「まさか、貴殿は?」

「儂は楠木多聞兵衛正成、朝敵足利の一門細川を討てると聞き、転生して参った」

「い、いや、我々は意地を見せるだけで、御家を亡ぼそうとは……」

「安心せよ、儂が其方たちを勝たせ、細川……誰かは知らぬが、首を討って進ぜよう」


 呆気に取られる弥五右衛門の鼻に、今度は酒の匂いがした。

「誰じゃ!

 明日の死を前に、甕をひっくり返してまで酒を飲んでおるのは!?」

 そこには虎髯の巨漢が酒を浴びるように飲んでいる。

 そして、いくら誰何しても言葉が通じない。

 弥五右衛門はその者に矢立と紙を渡す。

 どうも文字も書けない感じだったが、「名前」と書いてみせると頷き、彼は名を記した。

「燕人張益徳」

 と……。


 阿部家の隣に住まうは柄本又七郎という。

 阿部家とは家族ぐるみの付き合いをしていた。

 阿部家と柄本家の間には竹垣がある。

 柄本又七郎は細川家から手出し無用とされていたが、翌日に阿部家討伐と聞き、義は義、

「阿部の者は自分が討つ」

 そう思って竹垣の紐を密かに切りに行く。

 そこで彼は思いもかけぬものを見た。

 自分の屋敷側に突き出した防御施設。

(いつの間にこのような物が造られた?)

 物音は全くしなかった、いや夕刻までこのような物は無かったのに。

 又七郎は、その土塁の上に居る者に話しかける。

「そこもとは阿部の家の者か?」

 返って来た返事は思いもかけないものだった。

(それがし)の名は真田左衛門佐信繁。

 阿部なる者と関わりは無いが、義によって参陣致した」

「義によって?」

「細川肥後守とその家中のやり様、あたかも豊家を追い詰めた徳川内府のやり様に似たり。

 徳川内府の代わりに細川肥後の首を頂戴せん」

「そうはさせるか!」

 又七郎は家に戻ると槍を持ち、真田信繁を名乗る男を討とうと駆けて来た。

 だが真田は黙って馬上筒を取り出し、又七郎を射殺した。




「今の音は何じゃ、兄上!」

 阿部市太夫、五太夫、七之丞の兄弟がやって来た。

 更に源為朝、楠木正成、張飛も現れる。

「其方は?」

「真田左衛門佐と申す」

「これは?」

「武田の丸馬出を少々大きくしたものでござる」

「ふむ、中々良いものじゃな」

「それでこの者は?」

「槍を向けて来たから撃ち殺した」

「又七郎殿ぉぉぉぉぉ!!!」

「誰じゃ?」

「隣の家の者です」

「という事は、隣の家はもう落ちたな」

「火でもかけるか」

「いや、敵をおびき寄せてから閉じ込めてから、焼くが良かろう」

「それで煙に紛れて打って出るのじゃな」

「それだけじゃ足りんな。

 もっと敵を此方に誘き寄せてからでないと、あの城は落とせん」

「敵の大軍に打ち入った経験(おぼえ)は?」

「儂は大坂の戦で茶臼山にて徳川十万の兵相手に打ち入った(そして敗北)」

「儂は湊川で足利二十万の軍勢相手じゃの(そして敗北)」

「儂は五万相手じゃから少なくて恥ずかしいのぉ(ただし全滅させている)」

「あちらの方は?」

「ああ…………、確かあの人は、一騎で百万の曹操軍を食い止めていますな」

 実際は十万程の軍相手に、数騎がかりではあるが。


(兄上、なんか我等を差し置いて話が進んでおりますな……)

(もう何が何やら……)

(なんか細川の御家を倒す前提になっていますね)

(我等は意地を通せばそれで良かったのだが)

(それより、何故真田とか楠木とか鎮西八郎とか張飛が居るのですか?)

(知らん!!)

「さあ、夜明けじゃぞ!」

「儂は表門を守る」

「某は裏門を千早城の如く守りましょう」

「儂は第二真田丸に敵を引き付け、火計をしましょう」

「張飛殿はどうしますか?」

「言葉も通じないし、好きに暴れさせましょう」

「それが良いですな」



 夜が明け、細川家からの討手が現れた。

 表門を攻めるは竹内数馬、南北朝時代に細川高国に仕えた強弓の島村弾正の末裔である。

 島原の乱でも手柄を立て、細川忠利より脇差を賜り、千百五十石の知行を得た。

 この者は、最初は討手の采配を預かる事を喜んでいたが、それが林外記の推挙によると知り、激怒していた。

 林外記は小才の利く大目付で、細川光尚が若殿の時から傍仕えしていた者である。

 阿部家を追い込む決定はこの者がしており、家中では「奸物」と呼んでいる。

 竹内数馬は殿様の抜擢でなく、奸物による推挙と知り

(討ち死にしてやる)

 と心に決めていた。

 だが、そんな竹内と表門の兵の前に、謎の偉丈夫が門を開けて立ち塞がる。

「我が名は鎮西八郎為朝なり。

 誰か、我と弓を競う者や有るか?」

(鎮西八郎だと?)

 竹内は嘘だと思うも、その名に興奮する。

(八人張の弓を使う源為朝、是非に戦いたい)

 そう思うと竹内は家人に

「御祖、島村弾正の弓を持って来い」

 と命じる。

 暫くして弓を持ち騎乗となった源為朝と竹内数馬は向き合う。

「細川家家臣、竹内数馬長政と申す。

 強弓で知られた島村弾正の末に御座る。

 音に聞く鎮西八郎と矢合わせ出来るとは幸せである。

 本物ならな。

 この弓矢で正体を明かさん」

「源朝臣為朝、六条判官為義の八男なり。

 儂と矢合わせするその勇を称え、首供養してやろう」

 先に竹内数馬が四人張の強弓から矢を放つ。

 為朝は右手で飛んで来た矢を掴み取る。

「期待外れじゃ。

 この程度の矢、我が一族では恥である」

(為朝は弱弓の甥の存在は知らない)

 寄せ手は信じられないモノを見た。

 竹内数馬の先祖伝来の弓は、引く事の困難な強弓なのだ。

 そこから放たれた矢を掴み、有ろう事か期待外れの弱弓だと言う。

 次に為朝が狩俣の矢を番え、放つ。

 矢は竹内数馬の首を飛ばし、そのまま彼方に飛び去った。


 目付の畑十太夫が叫ぶ。

「う、討て、あの痴れ者を討つのじゃ!

 鎮西八郎等、保元の頃の人物。

 今に生きていよう筈が無い」

 そう言って総攻撃を命じたが、為朝相手に五十人は少な過ぎた。

 一矢で二人から三人が貫通されて殺される。

 狩俣の矢を射られると、首が刎ね飛ばされる。

 表門の討手は、ほとんど全滅した。

 僅かに数人、そして臆病者の畑十太夫が逃げ去った。



 裏門を攻めるのは高見権右衛門という知行五百石の者である。

 三十人ばかりを率いて裏門を破った彼は、落とし穴に落ちる。

「なんだ、これは?

 臭い」

「竹槍に糞が塗ってあるぞ」

「何かが飛んで来た、熱い! 臭い!」

「煮立った糞じゃ!」

 楠木正成に指揮された小者たちは、只管熱湯や煮立った糞や粘り気たっぷりの粥、火のついた油をまき散らしていた。

 高見権右衛門も酷い火傷を負わされ、戦闘不能となる。

 表門、裏門とも討手は壊滅した。


 そこに真田信繁がやって来た。

「楠木殿。

 細川肥後は今、松野左京なる者の屋敷に行っておるそうじゃ。

 この者を使って挑発して来ようと存ずる」

「好きになされ」

 こうして煮立って糞塗れで、火傷で息も絶え絶えの高見を縄で縛り、馬で引き摺る。

 そのまま阿部家の小者を連れ、松野左京屋敷に赴くと大声で笑った。

「細川の兵は斯様に弱き者か?

 討手は全て阿部一族に討ち取られ、骸を野良犬に食われておる。

 この上は臆病者の細川光利が出て来ると良い。

 まあ、怖くて出て来れぬであろうであろうな、み・つ・と・し!

 お主に似合いのこの臭い男を捨て置く。

 誇りがあるなら自ら攻めてみよ、み・つ・と・し!」

 (いみな)を堂々と口にするのは、極めて無礼な事である。

 まして真田信繁は正体を明かしていない。

 家臣の阿部家、その家人、つまり陪臣(またもの)に過ぎぬ者に諱を連呼された細川光利は憤慨した。

 余りの無礼さに震えている。

 そして糞塗れで捨てられた討手の将の姿に、怒声を挙げる。

「父の位牌に無礼を働いただけでも許し難くあるのに、この上余の諱を叫び、余の討手を辱める等許す事ならず。

 直ちに阿部の屋敷を攻め落とせ」


 これだけ罵倒されたのに、細川光利は諫められて熊本城に留まった。

 大名が公儀の許可無く、自ら兵を率いる等、謀反を疑われて改易の対象となる故だ。

 あくまでも大名は知らぬ事とし、だが今度は家老の長岡興長が城下に居た千人程を率いて阿部家の山崎屋敷に押し寄せる。

 甲冑を着て、鉄砲も持った「追討」では無く「合戦」支度である。

 細川家客分の宮本武蔵も参陣している。




 表門にはやはり源為朝が立ちはだかっていた。

「あの男、鎮西八郎を名乗る痴れ者ですが、恐ろしく強い」

 前日逃げた目付の畑十太夫が教える。

 彼は今日も逃げたなら、切腹を命じられる。

 名誉挽回の参陣であった。

「鉄砲隊前へ!

 構え!」

 だが、撃ての命令の前に為朝と違う偉丈夫が門を飛び出した。

 恐ろしく強い。

 長柄の武器を一振りすると、細川家の武士は数人が吹き飛ばされ、破壊された。

 「万人不当」

 そんな男に正門の五百人は少ない。

 さらに門からは、八人張の強弓から矢が放たれる。

(なんじゃ、あの鉄砲より遠くから届く矢は!)

 化け物二人が相手だが、今回は細川家にも対抗出来る者が居た。

 宮本武蔵が張飛の前に立ちはだかる。

 武蔵は長岡家老を守り戦う。

 だが不利は否めない。

 既に老境に入った武蔵には、張飛の重い一撃一撃が堪える。

 それでも張飛の前に立ち続けているのは流石であった。


 裏門も悲惨であった。

 糞が飛ぶ。

 糞が降って来る。

 糞が燃え上がる。

 武士がここまで糞で攻められるのは屈辱であった。

 しかし、前日からの戦闘でついに糞が尽きる。

「引け」

「追え」

 楠木正成の命で阿部家の家人が屋敷内に後退し、寄せ手は屋敷に突入する。

 寄せ手が屋敷に入った時、驚くべき事が起きた。

 裏門側の屋敷が崩壊したのだ。

 楠木正成は前日、大黒柱や土台の柱に切れ目を入れていた。

 そして敵を導き入れたと同時に、綱を引いて敵を巻き添えに屋敷の一部を崩す。

 圧壊した屋敷に寄せ手の兵は潰され、呻き声を上げる。

 そして壊れた屋敷自体が障害となり、先には進めなくなった。




 寄せ手が、隣家を使って攻める事に気づいたのは、表門、裏門ともに攻めあぐねたからである。

 柄本又七郎の屋敷に入り、そこから弓、鉄砲を阿部屋敷に撃ち掛ける。

 攻撃は上手くいっているように見えた。

 だが、そうやって柄本屋敷に敵兵を容れるのが目的だった。

 前夜、軒下や天井裏に火薬を仕掛けた真田信繁は、敵が十分に屋敷に入ったのを確認すると火を放つ。

 火計に細川家の寄せ手は逃げ出し、戦場は大混乱となる。


「今ぞ!

 敵兵に混じり、城を攻めよ!」

 真田信繁が鹿角の兜を被り、赤備えの甲冑で馬に乗って追撃を始めた。

「小者たちよ、この町に火を放て。

 なあに、平等院を焼いてしまった時に比べ、大した価値も無いだろう」

 そう言って城下町を火の海にする楠木正成。


 張飛は宮本武蔵に勝つと、そのまま追撃に加わった。

 その姿を見て、源為朝も後を追う。

 倒れている宮本武蔵に為朝は

「死んだふりとは、大した武芸者よな」

 と声をかける。

「武の神髄は生き残る事。

 若き時分なら兎も角、老いたこの身にあの化け物は荷が重う御座る。

 で、あれは何者なのですか?」

「信じられないと思うが、張飛殿だ」

「張飛?

 (いにしえ)唐土(もろこし)の猛将の?」

「左様」

「……若い時にやり合いたかった」

「ふん、やり合いたければさっさと死ぬが良い。

 我等はもう間もなくあの世に帰る。

 地獄か修羅界か知らぬが、運が良ければ巡り合い、若き日の身体で戦えるぞ」

「それは良き事を知った」

 喋る死体に別れを告げ、為朝は阿部屋敷に戻った。



 為朝が言ったように、彼等に残された時間はもう無かった。

 細川光利の首を狙って駆けた真田信繁だったが、大手門は通れたが、熊本城の縄張りを知らず、迷っている内に時間切れとなってしまう。

 熊本の町を焼いていた楠木正成も、敗走した兵士を追撃していた張飛も、急に立ち止まると蛍のような光の粒を放ちながら崩れて消えて行った。

 阿部屋敷では為朝が阿部兄弟に

「儂は楽しく戦った。

 お主たちもここで死なず、好き勝手に生きよ。

 あの世に来たら、今度は儂が案内してやろう」

 そう言い遺して消滅する。

(あんな人外と付き合うのは御免こうむる)


 この後、城に攻め込まれ、城下の半分を焼き払われるという恥を晒した細川光利は、公儀によって改易される。

 林外記は、ここまでの乱を起こすきっかけを作ったものとして、切腹も許されず、斬首される。

 阿部一族も、細川家を亡ぼした天下の謀反人として、日本に居場所を失う。

 だが彼等はもう、意地を見せたのだから死ぬ、そういう考えを捨てていた。

 意地を張るなら主君を亡ぼすまで意地を張れ。

 そこまでは出来ないにしても、もう途中から戦を乗っ取られた彼等は

「生きていたら理不尽な主君や御家、死んだら理不尽な連中との付き合い。

 生きている方がまだマシだな」

 そう思う彼等は、例え日本全土に居場所が無かろうと、しぶとく生きる事に決めたのだった。


 武家諸法度に一条追加される。


「武家は家人を窮鼠と化すまで恥辱を与え怒らせてはならない事」

昔、ドラマで「阿部一族」を観て

「悲しい意地張って死ぬ戦いをするくらいなら、打って出て熊本城に特攻でもしろよ」

「主家を亡ぼすような不忠を望まないとか考えたのだろうが、甘い、主君暗殺するとか考えたらどうだ」

「負けて死ぬより、DQNの極みをやって生き残る方が良いよな」

という感想を持ちました。

その後、「フィールド・オブ・ドリームス」を観た時に

「あの世から野球選手でなく人外な武将がやって来る」

というアイディアを思いつきました。

それを合わせ

・保元の乱で御所を守った源為朝

・赤坂・千早城を守った楠木正成

・真田丸で守った真田幸村(信繁)

・長坂橋を守った張飛

を召喚して相手に大損害出す物語を思いつきました。

なお

・墨子

・北条綱成

・真田昌幸

・ヴラド3世

・袁崇煥

この辺の「守り」の人も出したかったのですが、使い方困ったので諦めました。

あと、立花山城守った立花宗茂さん、寛永十八年の細川忠利死去の時はまだ生きてました。

泗川倭城守ったあの一族は、飽きるくらい書きましたし。

とりあえず、登場した四人だけで暴れさせてみました。

パワハラする大名家なんて滅んでしまえ!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 史実からしてぶっ飛んでる人達ですから、一纏めにすると手に負えませんね。 古今伝授さんが降臨して文化力で成仏させるのかと予想しましたが、外していましたね。
[良い点] 無茶苦茶な話で面白かったです。
[良い点] サツマンが終わってしまって、サツマンの禁断症状に苦しんでいたところに、晴天の慈雨のごときぶっ飛んだお話をありがとうございました!。 [気になる点] 武家諸法度が追加されて、吉良上野の介は…
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