混乱
予想外のことが起きます。
あいも変わらず気持ちの悪いその緑の生き物は、一匹だけのようだ。
もしや、私が苦労して作った落とし穴の獲物を横取りしようとしてるのか？
…許せん。断じて許せん。
あのときはかなり怖かったが、もう何匹も生き物を殺している身としては、戦う恐怖もかなり薄れている。
しかも、肉食である我が身は、当時に比べるとかなり大きくなっている。
今は落とし穴の中を見ることに夢中でこちらを見ていない。やれる！！
グレードアップした槍は、先端に初の肉食を果たした時の、シカっぽい生き物のツノがついたことで、かなり攻撃力が増していた。
なんと突き出した槍はその緑の生き物を貫通したのだ。
ものすごいうめき声をあげ、生き物は息絶えた。
特に何もない。ただ殺しただけ。
けれど、当時怖がっていた自分を超えられたような気がして、かなり高揚していた。
そのせいだろうか。
私はもう一匹の存在に気が付いていなかった。
突然のことだった。
横からの奇襲に、私は押し倒された。
くそ、まずいぞ！
私は、起きあがろうと暴れるが、上から押さえつけられてなかなか抜け出せない。
くそっ、どけよ、どけ！
私は精一杯暴れる。
しかし、馬乗りになられた私は、両手を押さえつけられ、身動きが取れない。
その生き物の口が開く。やばい、食われる。
しかし、その生き物は予想外の行動をとった。
私の顔に、身体に、舌を這わせたのである。
全身の背筋が凍るような感触がした。
一瞬、頭が真っ白になる程だった。
しかしそこで、私はなんとなく、本能で理解した。
私は…生物学的にはメスだったのだ。
その生き物は私の身体をもて遊ぶつもりで拘束したのだ。
再び恐怖した。戦慄した。
あの初めて水源を見つけた時と同じか、いや、それ以上かもしれない。
しかし、同時にとてつもない怒りが込み上げてきた。
どうして私が、こんな気持ち悪い生き物に、いいようにされなければならない。あり得ないだろ。
「ふざけんなぁ！！」
その怒りは力を生み出した。それまで抜け出せなかった私はその生き物を突き飛ばすように起き上がると、そのまま顔面に拳を叩き込んだ。
怒りに身を任せ、何度も。
気がついた時にはボコボコの変死体が出来上がっていた。なんだこれ…
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…一旦落ち着いた。
色々ありすぎてかなり混乱したが、状況を整理していこう。
まず私は、雌だ。これはなんとなくわかった。
今までずっと自分を雄だと思っていたのは何故なんだろう。もしかして異世界に来た影響で体が変わってしまったとか…？
そういえば最近胸が張ってきたと思ったらそういうことだったのか。いやいや、わからないのはおかしいだろ。
つまりは、私の知識は思い出そうとしない限り思い出せないようになっているのかもしれないな。
どうしてかは、知らないけど。
次に、この生き物の気持ち悪さだ。
なんで別の生き物を性的に襲ったりするんだよ。
こんな汚い、小人の変態みたいな生物って。
…あれ、これってもしかしてゴブリンってやつか？
実際見ると、こんなに気持ち悪いのか。これも今唐突に思い出したし、やっぱり記憶に関しては当たっているかもしれないな。
じゃあ私の名前は？うーんわからん。
情報が抜け落ちてるみたいで、作為的なものを感じるんだけど、まぁ考えてもわからん。
とりあえずは放置で問題ない。どうしようもないし生きる上でそんなに重要じゃないからね。
最後にこのボコボコの死体だよ。
なんだこのパワーは！
私ってこんなに力があったのか。
今までは単純な作業だけだからよくわからなかったけど、素手でこんなにはならないと思うけど…
そういえば、殺した獲物も全部1人で担いでいたしもしかしたら気づいてなかっただけで、相当な腕力の持ち主？確かに苦労は少なかったかも。
はぁ、本当に疲れた。もう落とし穴の獲物はいいや。なんか汚そうだし。穢らわしいし。
…女になったこの体は、まだ来てないんですが、どういうことなんだろう。
あーだめだ。もういいから寝よ。
不貞寝した。
女性でした。
女性って聞くと勝手に頭の中で美女にするよね。
いいよね、美女。うんうん。
